Lily memo %



第八話 中編



--otone--


「あ、あわわ、あわわわ…」


き、聞いちゃった聞いちゃった〜。
マズイよマズイよ!
まさかあんなの聞いちゃうなんてついていないよ〜。






時間は少しだけ遡る。

「うはー、麗華先輩ひどいよー。また生徒会探ってこいなんてー」

朝。
人が最も慌ただしく、うっかり本音を漏らす朝。
そう、新聞部には美味しい朝。
朝はたくさんの情報をくれる。

「おとついはソフトボール部の顧問の内情。
 昨日は生徒会の風紀委員長さんを<利用>させてもらったけど、異常なーし。
 たまには遅くまで寝たーい!」

てってってっ。
のらくらと走って生徒会近くまで。
うぅ、私の能力って半径15mじゃないと使えないんだもんねー。
確か今日は生徒会は昨日の夜から泊まり込みで近々開催される近所のフリーマーケット協力の資料まとめしてるんだよねー。

「こればっかりはニャヒルにも頼れないもんねぇ…」

騙してる気はないけど、良い気分はしないなぁ。


私の固有魔法。


ニャヒルに知っていてほしい。
でも教えたら、まっすぐなニャヒルには嫌われそう。
ニャヒルが気に入ってくれてるのは、私のまっすぐなところ。
まっすぐとは言い辛い私の一番厄介な魔法。

-ふぅ、疲れた…-

あ、会長さん。

-麻奈。お疲れ-
-あら、真由珍しいじゃない。あなたから私のところに来るなんて、今日は槍でも降るのかしら-
-せめて雪にしてよ-

あ、この声は真由さんだ。
どうしよう、どっちにしようかな。
狙うなら体育委員長さんか副会長さんがいいんだけど…。
今通ってくれてる事務員さんがいなくなる前にどちらかに意識を移さないと…。
んー、会長さんかな。


「…テイクプロセス」


静かに私の体から魔力が溢れだす。
魔力は少ない、体力もない、センスもない。
そんな私でも私にしかできない魔法がある。



呪文を唱えると、じわりと視界が変わる。



いつまで経っても慣れないなぁ。
私の魔法は他人に働きかける力。
それは極めれば【他人の神経まで掌握できる】。

「会長さんの視界、広いなぁ」

テイクプロセスは他人の視覚と聴覚をちょっとお借りする魔法。
今の私には自分の周りと、会長さんの視界の両方が見えている。
便利だけど、酔っちゃうから嫌いなんだよね。

-…うん?麻奈、あんた…-
-なあに?-
-いや、なんでもない-

真由さん悪い顔してるなぁ。
でもなんだろ。
楽しそう。

-今日はPTA会議があるんでしょ?麻奈の父さんも来るんだよね?-
-…なあに、藪から棒に-
-いんや?親子というのは一体何を話すのかな?と思ってね-

あぁ、そうだっけ。
生徒会長さんの父親って確かPTA会長だったよね。
強くてお金持ちなんて、天は二物を与えずとか嘘だよねぇ。

-何も話さないわよ-
-つれないこと言わないであげたら?
おじさん、麻奈のこと大好きじゃん-
-…おじさんじゃないでしょう?-
-姉さん面しないでよ-

ん?
なんかこの会話って…。




-ちゃんと、父と呼びなさい-
-認知されてないのに?-




え。

「えぇえええええええ!!!!!!!!」

ど、どういうこと!?
えっと、来るのは会長のお父さんで、真由さんのお父さん?
あれ!?どっち!?

-いつも父の話は避けるくせに、どういう風の吹きまわし?-



-別に?くっくっ、愛妻の娘が、実の娘と幼馴染なんて皮肉だよねぇ-



つまり。
PTA会長の正妻さんの娘さんが、生徒会長。
PTA会長の愛妻さんの娘さんが、真由さん。


えぇえええええ。


こ、これマズいこと聞いちゃったんじゃないかなぁ。

-珍しい顔してるのはどっちだか!
そんな不機嫌な顔、愛梨の前でもしないくせに!-
-私が不機嫌な顔をするのがどういうときか、あなたが一番知っているでしょう-

おぉぉぉ、会話を続けてらっしゃるけど私の耳はもうパンパンだよ!
間違えた、脳はパンパンだよ!
こ、これは記事にはできないよ〜。
マズいこと聞いちゃったぁ。
間違いなくスクープだとは思うけど、私というか麗華先輩が知りたいのはもっとこう弱み的な…。
いや、これも弱みだとは思うけど…。




「あなた、何をしているの」




「へ?」

目を開けると、そこには真由さんの顔と、副会長さんの顔。
あ、しまった。会長さんの視界そのままだ。
だから、きっと私自身の視界は副会長さんの顔がある方。

「な、なんでもないですっ」

ま、マズイ。
いくらなんでも変な行動してたらバレちゃうっ。
あわあわと逃げ出す。
と、とにかく、れ、麗華先輩にどうしたらいいか聞かなきゃっ。
副会長さんに変な顔はされたけど、とにかく今は逃げ切れた。







--airi--


「…変な子」

山本乙音。
あまり記憶にはないけど、真面目に勉強している明るくて良い子、だったと思う。
新聞部に扱き使われてる可哀想な子。
いけない。
今は会長にPTA会議の資料を渡さないと。

「会長」

生徒会室の扉を開くと、そこには会長が立っていらっしゃった。

「やっほー、愛梨」
「真由…?」

どうして生徒会室に?
会長が連れてきたんだろうか。
少なくとも、今の彼女は自主的にこの部屋に来ることはない。
ただ、真由の顔がニヤニヤしていることが気になる。

「なんの用?」
「さっき、廊下で誰かに合わなかった?」
「廊下?」

そう言われて山本乙音の名前を告げる。
真由はふぅんと唸ると、スタッと机に腰掛けた。
会長がいつものように笑顔でたしなめる。

「真由、行儀が悪いわよ」
「おや、ずいぶん余裕だね麻奈」
「…何のこと?」

?
何かしら。


「気付いてないなら、いいさ」


真由はそれだけ言うと、生徒会室から出て行った。
…たまに来たかと思えばすぐに出ていくなんて。
これだから、真由は嫌い。
人を期待させてそれを裏切る。

「会長」

PTA会議資料を渡そうと思って会長に歩み寄る。
そこで、ふと会長の目の色がおかしいことに気付く。
これは、魔力光…?

「…会長、真由と模擬戦でもしてたんですか?」
「どうして?」

会長は気付いてない?
そういえばこれは会長の魔力光じゃない。
蛍光緑の光。


…そういえば、さっき会った山本乙音の目も同じ色をしていなかった?


加えて、真由のあの笑い方。

「会長、さっき何の話をしていたんですか?」
「どうして?」
「盗聴されていた可能性があります」
「…あら」

会長の顔色が変わった。
おそらく山本乙音のあれは魔法。
彼女の魔法は一体どういったものがあるのか。
正直、少し驚いた。
補助魔法も極めれば盗聴までできるのか。

「どうします?」
「そうね。個人的だけど、聞かれたらマズい内容であったのは確かだわ」
「追いますか」


「生徒会全員で、狩りましょうか」


会長は本気。
悪いけど、もう逃げられない。
彼女は学校最強の人間を敵にした。
それどころか、私を含む生徒会全員が彼女を追う。

山本乙音に、活路はない。

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