Lily memo %



第六話 後編



--mayu--


「大丈夫ですか、咲等さん!」
「うぅん、大丈夫大丈夫…」

へたりこむ咲等にパタパタと走り寄る美月。
あーやもゆっくりとスギに歩み寄っていった。

「なかなか面白い見物だったでしょう?」
「趣味悪いよ、麻奈」

スタンプを押し終えてゆっくりとこっちに戻ってくる。
麻奈の顔はいつも通りの笑顔だった。

「どちらも前途有望だわ」

悪いヤツめ。

「どちらもまだまだ未熟に見えます」
「あら愛梨、酷評ね。どうして?」
「奥井咲等はまだまだ経験不足で戦うこと自体が下手ですし、
 杉田良子に至っては中学から通っているはずなのに魔力切れだなんて恥ずべき行動です」

おいおい、そりゃないよ。
スギは確実に成長してる。
今まで無理に間違った使い方をしていたライフウェポンを、しっかり特性を考えて戦いに取り入れてる。
まだその戦い方に慣れてないだけでこれからまだ伸びるはず。

「副会長さんこそ、自分と同じ罠に引っ掛かるなんて恥ずべき行動じゃないの?」
「…!…あなたこそ、自分の大事な後輩にあんな戦い方教えて恥ずかしくないの?」

あんな戦い方?

「咲等ちゃんにはびっくりしたわね。
 まさかあのナイフの雨に突っ込んでいくとは思わなかったわ。
 あれはあなたが教えたの?」
「まさか」

あんな身を捨てるような戦術なんて教えちゃいない。
それどころか咲等にはほとんどアドバイスなんかしていない。
アドバイスをするには、私と咲等は似過ぎている。
私がアドバイスをすれば、咲等は私と同じくさっきみたいな後先を考えない戦い方をする。

「教えなくても一緒でしょう?」

お前はエスパーか。
どちらかといえばあれは麻奈みたいに堅実に行かせるべきだ。
似てはいるけど、私みたいにタフじゃない。

「咲等、美月、スギ、あーや」

麻奈と愛梨を置いて1年生へ歩み寄る。
咲等とスギもあまり満足には動けないみたいで肩を貸してもらって立っている状態だ。

「スタンプは全部集まったね」
「うん、なんとか…」

ほんとになんとかだなー。

「体育館の方に先生がいるから見せて合格もらって今日はもう寮でゆっくり休むといいよ」
「真由は?」
「もう少しうろうろしてる」

本当なら体育館のほうまで着いていってやろうかと思ったけど、ちょっとやめておこう。
麻奈と愛梨が何しでかすかわかったもんじゃない。
特に愛梨は他のヤツをけしかけて咲等の邪魔でもしそうだ。
もし何かあっても美月とあーやがなんとかするだろう。

「あ、でもニャヒルと乙音ちゃんが…」
「後で私が運んでおくよ」
「ありがとう真由」

ここまで言ってやっと咲等は安心した顔をして引き摺られていった。
まったく、なんと難儀な性格だ。

「あら、付いていかなくていいの?」
「いいんだよ」

軽く返事をして重なって倒れているニャヒルと乙音ちゃんを揺り起こす。

「おーい、ニャヒル」
「…んん」
「はい、乙音ちゃんも起きてねー」
「んにゃ…?」

二人はぱっちりと目を覚ますと、お腹やら腰やらを抑えて呻きながら起き上った。
愛梨の攻撃をモロに食らったもんなぁ。
しばらくは火傷みたいにズキズキするはずだ。

「う…咲等は?」
「咲等とスギは合格。もうスタンプ集めて体育館へ行ったよ」
「うげ、マジか」
「マジマジ」
「うわぁ…」

落ち込むニャヒルの頭を乙音ちゃんがポンポンと叩く。
その様子が微笑ましい。

「この時間だとあと二つは無理だねー」
「くっそー!途中まで頑張ったのになー!」
「次は頑張ろうね、ニャヒル!」
「よし、足引っ張んなよ乙音」

ポジティブなのはいいことだ。
私は助けるのはできるけど励ますのは苦手だから。
落ち込まれると、少し困る。

「ってあれ?いつのまに生徒会長まで?」
「こんにちは、太秦さん、山本さん」

麻奈はひらりと手を振った。
愛梨は一瞥しただけだったが、動く気はないらしい。
腕を組んで麻奈の隣に突っ立っている。

「…」
「ん?乙音、どうした?」
「いや、なんか緊張しちゃって」

おや、あの天真爛漫な乙音ちゃんが緊張なんて珍しい。

「今更何を緊張するっていうんだよ」
「だって目の前に学園で一番強い3人が集まってるんだよ?
 緊張しないほうがおかしいよ〜」

そういえばそうだっけ。
麻奈、私、愛梨。強さはきっちりとラインを引かれている。
内部生なら知らない人はいないだろう。

「今の副会長なら勝てるよ、たぶん。
 ニャヒル試してみれば?」
「真由、あなた私に喧嘩売ってるの?」

だって魔力のない愛梨なんて弱いだろうし。
合気道って言ったって綺麗なもんだ。
咲等みたいに、目茶苦茶やればどうにでもなる。

「ほら、二人とも喧嘩しないの」
「会長…」

ムカ。
一人だけ大人ぶっちゃってまぁ…。

「ふん」
「…」

んー、なんか…。

「…」

視線を感じる。
視線を辿ると、それはやっぱりニャヒルだった。

「なにかね、ニャヒル君」
「あー、いや、別に…」

ニャヒルは言いにくそうに顔を背けた。
むむ。なんだなんだ。
そういう態度はよけい気になるんだよ。
そう思ってじーっとニャヒルを見つめると、観念したのかとても言い辛そうに口を開いた。



「真由が機嫌悪いの珍しいなーって…」



うん?
そうかな。

「あたしらの前じゃいつもうすら笑いへらへら浮かべてるじゃんか」

へらへら…。
お姉さんちょっと傷つくぞ。

「それがさ、ちょっと不機嫌そうに唇尖らせて頬ふくらませて…へへ」

笑うなよー。

「大体なんで私が不機嫌そうなのにニャヒルが嬉しそうなのさ」
「へへーん、なんでだろーなー!」

こいつ、頭ぐりぐりしちゃうぞ。
そうは思いつつそれに毒気を抜かれた私はなんだかなぁと空を見上げた。

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