「はぁ…っ…はぁ……」
「8分5秒。10分も持たなかったかー。
愛梨、弱くなってない?」
「うるさい…っ…!」
信じられない。
あの副会長さんが地面に手をついている。
副会長さんの足元には私たちの足元に浮き上がっているものと同じ魔方陣が展開されている。
美月が一回でふにゃってなっちゃったのに副会長さんは8分も魔法を出し続けたのも凄いけど…。
「真由…」
「おー、咲等。無事だったねー。ニャヒルはまたダメかー」
真由は顔をこちらに向けながらゆっくりと副会長さんに近付いていった。
「よっこらしょっ、ほら咲等」
座りこんだ副会長さんのポケットから何かを探り当てると、ポイと何かをよこした。
慌てて受け取ると、それはスタンプだった。
「え、でも…」
「押しとけ押しとけー」
胸の内ポケットに入れていたカードを出すと、そこにポンと押してみる。
クリアまであと一つだ。
「いいのかなぁ…」
結局私たちは何もしていない。
あの後繰り返されたのは副会長さんの炎弾と真由の阻止。
ニャヒルと私に向かって飛んでくる火の弾が確実にキャッチされていく。
まるで野球のノックを見ているかのように鮮やかに猫みたいに体が伸びるんだ。
真由の手にある金色の盾に触れると、火の弾が弾けるみたいに消える。
対照的に、私たちにしかけたのと同じトラップでどんどん衰弱していく副会長さんの体。
「そろそろ次に行くといいよ」
「え、真由は?」
真由は苦笑いしてひらりと手を振った。
「愛梨はもう明日まで使い物にならないよ」
「まだ…大丈…」
息も絶え絶えに立ち上がろうとする副会長さん。
でも結局立ち上がれずにまた膝をついた。
「と、いうわけだから私はここの監督をするよ。
1年生にこの子のスタンプほいほい渡すのはちょっとねー」
「真由…!」
「ニャヒルも見といてあげるから行っておいで」
後ろに立っていた美月を振りかえると、こくりと頷かれた。
「美月はもう大丈夫?」
「はい、あと少し戦うぐらいはできます」
「それは良かった!!!!!!」
「うわ、びっくりした。
どっから湧いてでた、麻奈」
真由の後ろから顔を出したのは生徒会長さん。
「そう、奥井さんとアレクサンドさんは続行可能なのね?」
「私の話を聞いてよ」
前に出た生徒会長さんの背中を真由がぐりぐり蹴ってるけど生徒会長さんはにこにこと微動だにしない。
っていうかそれ足跡付いちゃうよ真由…。
「あら、愛梨ったら大丈夫?」
「…はい…なんとか……」
「おいこらー、私を無視するなー」
「もう、真由ったら。いくら愛梨が可愛いからってオイタしちゃダメじゃない」
「可愛いとか一切関係ないよね、この現場」
「え、だって真由ったら愛梨に乱暴したんでしょ?
愛梨…野良犬にでも噛まれたと思って…」
「あんたは私をなんだと思ってるんだ」
「痴犬でしょう?」
「だから人を変態みたいに言うな!!」
…なんだか知らない間に漫才が始まっちゃった。
どうしよう、どうしよう。
「美月…」
「逃げましょうか、咲等さん」
「美月!?」
そんな悟ったみたいな顔で言わないで!?
「あら、逃げちゃダメよー。
あと一つでスタンプコンプリートなんでしょう?
奇遇なことに私もスタンプ持ってるのよねー」
「移動型スタンプ台かよ」
真由、だんだん言葉が荒くなってきてるよー?
「じゃ、条件を言うわねー」
なんかいつのまにか生徒会長のスタンプ頑張ることになってるっ!
美月を見ると、なんか遠い目をしていた…。
「杉田良子さんと戦ってね」
え?スギと?
「もちろん、彼女にも『奥井咲等さんと戦ってください』と伝えてあるの」
スギにも?
「最初に咲等に襲いかかってたやつらは麻奈がけしかけたのかな?」
「そうよー。適当に頭に浮かんだ人の名前あげてたの」
「ひどい…」
そんな適当に人をピンチにたたせないでくださいよ…。
「それに、これは杉田さんの希望でもあるのよ?」
「スギの…?」
希望?
私と戦うことが?
何かスギから恨みを買ってたかな…。
私は不器用だから、知らない間に怒らせたのかもしれない。
「うぅ…スギ怒ると怖いからヤだなぁ」
「怒ってるわけではないと思いますよ?」
「でも私と戦いたいって怒ってるんじゃない?」
「…咲等さんは少し、周りの気持ちを理解したほうがいいですね」
美月はそういうと、少し困った笑い方をした。
周りの気持ち?
「うーん、気をつかってはいるんだけど…」
「気をつかうから、じゃないですか?」
「そうなの?」
「…難しいですね」
やっぱり
人付き合いって難しいなぁ。
どうしてスギは私と戦いたいんだろう。
この間ニャヒルと二人で購買でいつも売り切れてる限定プリンをスギに内緒で食べたのバレたのかなぁ。
「ライバルって、いいですね」
「?」
「私にはなかなかそういう関係の方はできませんから」
ライバル。
そっか、私はスギの友人でライバルだ。
現状、スギより経験不足でまだまだ弱いけど、足だけは見込まれてる。
-次は一対一でお前とやってみたいものだな-
そういうこと、かな。
本気でやりたい。
本気でぶつかり合って限界を見てみたい。
ギリギリまで。
「咲等、構えろ」
スギは律義だ。
不意打ちはしない、姑息な罠は使わない。
純粋に戦いにくる。
真正面に、いつもより少し偉そうに、でも楽しそうに立っている。
「美月、少ししたら回復できる?」
「はい。でも今でも戦えますが…」
「これでスタンプがとれるとは限らないから、今のうちに休んでて」
「…はい」
保険は、ある。
よしっ。
「スギ、一対一でいいんだね?」
「あぁ。よろしく頼む」
あーやも最初から手を出す気はないのか、スギの後ろでウェポンだけだして腕組みをしている。
目が合うとごめんねといった風に手を合わせられた。
大丈夫、私もなんだかワクワクしてるから。
「それじゃ、やるか」
「うん!」
武器を構えて精神集中。
これからスギしか見えなくなるけどいざとなったら美月がいる。
パートナーと戦うということは信頼するということ。
一緒に練習していっぱい教えられたんだ。
最後に少しだけ美月を振り返る。
ニコリと笑いかけられて、自分もへらりと笑い返す。
うん、美月が後ろにいるのはすっごく心強い。
私もいつか、こんな安心を美月に感じさせてあげたい。
そのためには、美月の前で恥ずかしい戦いはできない。
「ふっ!」
息を短く吐いて一歩切り出す。
避けられるのは想定済みだ。
いっぱい一緒に訓練して、スギの速さはイヤってほど痛感した。
素早く繰り出されるナイフを避けることを一番に考えていないと、すぐにやられる。
私だって防御が固いほうじゃないから、スギの攻撃でもすぐぽっくりいっちゃう。
「っと」
距離をとらなきゃこれはマズい!
どんどんスピードをあげられちゃう。
そうなったら避けることを第一に考えても避け切れなくなる。
慌てて後ろに下がると、待ってましたといわんばかりにスギの口角があがった。
「ここからだ!」
スギがウェポンを投げた。
そんなことしたら武器が消え……ない!!?
なんで!?
「うわっ」
美月に当たらないように避けずに鎌で振り落とした。
「なんで!?」
「私のナイフはもともと魔法型だからな」
「いやいや、でも武器って手放したら…」
「武器じゃない。魔法だこれは」
へ?
「魔力の塊が、ナイフの形を成しているんだ」
…つまり?
美月を振り返ると、優しく説明してくれた。
「つまりスギさんが使っているナイフは、本来のライフウェポンではないということです」
ようはナイフ型の魔法が出てるってこと?
「そういうことです」
げげ…。
あれが本体じゃなかったの?
ってことは……。
「咲等、行くぞ!!」
「わぁん!やっぱり!」
飛んでくるナイフの雨!
もう魔法使いタイプはやだーっ!
「どうした!逃げてばっかじゃ終わらないぞ!」
「そうはいっても〜!」
近寄らせてくれないんじゃ私は何もできないじゃないかぁ〜!
あぁ…!でもこれ以上無様な姿は…!
遠距離に打ち勝つ技が私にはまだないんだ!
そっか…やっぱりまだまだ知らないことがいっぱいあるんだ。
「よしっ」
ここはドーンと、スギの胸を借りさせてもらおう。
試せるもの、全部試そう。
「お、逃げるのをやめたのか。
でも手は止めないぞ」
「いいよ、望むところ、だよ!」
「…ほぅ、いい度胸だ」
花吹雪は…どうかな。
あれも「魔力」といえば「魔力」だ。
他の魔力を打ち消したり…。
「ほっ」
って、ダメだ!草がない!
あ、でも砂でもいけるのかな。
周りにいる人には悪いけど、あとで思う存分お風呂に入ってもらおう。
魔力付与で桜色にはなるし、技名も一緒でいいよね。
「花鳥風月、花吹雪!!!」
ざわりと砂が噴きあがってピンクに彩られる。
向ってくるナイフを多少薄くはしたけれど…。
「やっぱり打ち消せないか…」
「ぺっ、ぺっ、咲等ちゃん…巻き添えは勘弁してよ〜」
「これは後でお風呂に直行ですね」
「ごめんね、あーや、美月」
砂を吐きだすあーやと美月。
うーん、申し訳ない。
でも気になるのは…。
「へぇ、大技かぁ」
「夜に光る桜吹雪なんて綺麗なものじゃない♪」
「実質は砂だと思うと汚いものです」
「愛梨ったら情緒がないわねぇ」
やっぱり、動じない先輩たち。
全部払いのけたのかな、だとしたら半端ない。
どうやったのかも謎だし、怖いな〜。
「よそ見してる暇はないぞ!」
「うわっ」
またナイフの雨!!
慌てて逃げるけど時既に遅しというかなんというか…。
「ぐっ!?」
「ふん、降参か?」
刺さったのは左腹部。
ずくずくと痛む辺りが現実っぽくて怖い。
逃げ続けていたせいか息も荒いし…、結構ヤバいかも。
「咲等さん!頑張ってください!」
うん、ただでは負けられないな。
頭をあげて前にいるスギをしっかり見つめる。
どこかに隙はないのかな。
彼女に隙がないのなら、普通に考えて無理なことをしよう。
-餅つきなんてしなくてもいいんだよ-
餅つき。
そういえば、前に真由が言っていたっけ。
この場合相手との餅つきだ。
スギに合わせて打ち消す必要はない。
でも避けて近づけない。
うぅん、なんとか…。
「どうした、その目つきははったりか?」
「今考え中なの!」
「…そうか」
うむむ、例えばその特性に何か考えられないかな。
スギの弾幕は速い、多い、軽い、だ。
お、軽い?
雨だしな…ちょっと無茶してみようかな。
やったら後が怖いけど、よし。
「おっけー!行くよ、スギ!!」
「ふむ、何を考えてもこのナイフの雨に沈むさ!行くぞ!」
前へ踏みだす。
勇気だけなら無駄にある!
「花吹雪!!」
「オーバー・ザ・ナイフ!」
げ、なにそれ、ちょっと聞いてない。
さっきより量多いんですけど…。
でも今更引けない。
進むしかない!
「てぇりゃああああああああああ!!!」
「うおりゃああああああああああ!!!」
ドン!!
衝撃があった。
体も痛い。
なにせ魔法ダメージだからって軽く見てあのナイフの雨を突っ切ったんだ。
体がボロボロな気がする。
左腕がマヒしてるのはきっと左腕を一番前に出していたから。
まるで切り落とされたかのように動かない。
右腕もかろうじて鎌を持ってはいるけど、振り上げることはできなさそうだ。
「くっ…痛…」
「うぐぐ…」
スギの声もする。
「おい、はやくどけ」
「え?」
目を開けると、私の体の下にスギがいた。
「おわ、ごめん」
「いや…」
ってあれ、どいちゃいけなくない?
チャンスじゃない?
どいてしまってから気付いたけどもう遅い。
スギは立ちあがっていた。
ヤバ…構えないと…!
でももう体に力が…。
「参った、私の負けだ」
え?
「スギ?」
「見ての通りだ」
スギは手に水晶をのっけてぐるりと回してみせた。
けど水晶はナイフを象らなかった。
「魔力が尽きたんだ。…私はもう……戦えない」
え。
あ、でもそれを言ったら私も…。
「ス、スギ。私ももう無理っぽいんだけど…」
「お前の手にはまだライフウェポンがあるじゃないか」
「それはそうなんだけど…」
手にはまだ大きな鎌がある。
でも問題はそっちじゃない。
鎌を振り上げようとしたけれど、前後にぶらりと揺れただけだった。
「動かない」
「…そうか」
情けなく笑ってみせたけど、けっこう立っているのも辛い。
なんだろう、痛いとかじゃなくて、ダルい。
まるで体全体の筋肉が無くなったみたいな感覚。
「これは引き分けかしら」
「その場合はスタンプはどうなんの?」
あ、生徒会長さんと真由。
「あら、勝っても負けてもスタンプはあるわよ?」
「なんだそれ」
「私は二人に『戦って』としか言ってないもの。
勝ちなさいとは言ってないわ」
え。
「はい、カード出して」
えぇぇ。
「はい、どうぞ」
ポンとスタンプを押されたカード。
スタンプラリーは、なんだかあっさり終わってしまった。