夏休みも終わり、ミッションも特になく数週間が経ちました。
授業もそこそこ身になってきて、美月との訓練も様になってきたころ…。
「スタンプラリー、1年生は強制参加だ」
また、厄介なイベントがやってきました。
「う、牛尾先生。スタンプラリーっていうのは、普通のスタンプラリーですよね?」
「あぁ、普通だぞ」
あぁ、よかった。
「係の2、3年生の出す条件をクリアしたらスタンプがもらえる特別ルールがあるがな」
先生、それ普通じゃないです。
「2、3年生の出す条件って絶対…」
「まぁ大方『同級生を一人倒してこい』とかそんなのだろうな」
「やっぱり…」
この学校やっぱりろくなイベントがないよ…。
体育祭や文化祭とかやっぱりあるのかな。
あったとしたら今度は何をやらされるのか怖くてしょうがない。
「まぁ気楽にいけよ」
牛尾先生はバンと私の背中を叩くと、豪快に笑いながら去って行った。
世の中神も仏もない。
「気楽にって言ったって何させられるかわからないもん怖くてしょうがないな」
「ニャヒルもやっぱりそう思う?」
「ここはやっぱり情報が必要だろ」
情報…。
と、言われて出てくるのは一人の先輩のみ。
「真由、もう復活してるのかな?」
「退院はしたって聞いたけど?」
そっかぁ。
退院しても傷はまだふさがってないかもしれないから、うろうろするのしんどいのかな。
前はしょっちゅう姿を見せていたのに二学期は見ていない。
寂しい、のは私だけなのかな?
「…ま、いいけどさ」
やっぱりニャヒルも少し寂しいのかな?
真由の話をすると少しつまらなそうに突っぱねる。
「っていう話をしてたのに普通にいるしね」
「おー、なんだなんだー。寂しかったのかー?ニャヒルー」
「や、やめろ!触るな!撫でるなぁ!」
スタンプラリー当日、当然のように真由は私たちの隣に居た。
私たちの杞憂はなんだったの…。
「けど2年生こっちに居ていいの?」
「うん?」
真由はニャヒルを撫でていた手を止めると、こちらを見た。
2、3年生はスタンプ押すほうじゃないの?
「あれは有志と生徒会の2、3年生だけだよ。
希望しなければやらなくていいもんだからね」
でもだからって1年生と一緒に参加していいってわけじゃないんじゃ…。
「いいんだよ。手伝い不可なんてルール聞いてないし♪」
しかもちょっと上機嫌?
美月の方をちらりと見ると、「なんでしょうね」と首を傾げられた。
「それで、どっから回るの?」
「咲等ちゃん、見て見て」
乙音ちゃんに呼ばれて手元を覗くと、その手には学校の地図。
「どうしたの、これ」
「先輩からもらったー」
「いいなー」
やっぱりクラブ活動っていいな。
私もやればよかったかなぁ。
でも勉強とか強くなるので精いっぱいだし…。
「あれ、でもスタンプがどこにあるかは書いてないんだな」
ニャヒルは乙音ちゃんから地図をひょいと取り上げると、微妙に顔をしかめた。
「オリエンテーリングだからね。自分たちで探さなきゃ」
真由はニャヒルの背中をポンと押すと、ケタケタ笑った。
笑いごとじゃないよ、もう。
「どこから行こうか」
「空いてそうなとこから行こうよ、楽な条件貰えるかもしれないし♪」
あ、それは有り難いなー。
「じゃあ中庭のほうから……」
「奥井咲等!!覚悟!!!」
「へ?」
どっと押し寄せてきた何人かのペア。
まずいと思って水晶をくるりと回…
「アイスウォール!!」
ドーン
おあー…。
「さすが美月、一蹴だなぁ」
「仲間に居ると本当頼もしいなぁ」
ニャヒルとなんとなく寂しい気持ちを分け合う。
なんていうか、いいよね、ああいう大技みたいなの。
私たちの周りに一瞬で現れた壁は襲いかかってきた人たちをドーンと吹き飛ばした。
「私も何かあんな風に一気にドーン!といける技みたいなの欲しいなぁ」
「咲等さんにもあるじゃないですか」
「だってあれ裏ですっごい大変なんだもん」
見た目ぶわって鮮やかなのにその間に私はモグラ叩きしなきゃいけないし。
なにげにしんどいんだよあれ…。
「でも私…咲等さんのあの技好きですよ?」
そう言われて改めて美月を見る。
少し寂しそうに見上げられて、ちょっとだけ胸がきゅっとなる。
「…ごめん、なんか卑屈になっちゃった」
「いえ、私もごめんなさい…」
やっぱりまだ少し、ぎこちない。
…何が悪いんだろ。
着実に強くなってきてる。
それなのにまだまだ距離を感じるな…。
「よし、頑張ろっ」
「?」
美月ともっと仲良くなるんだっ。
そのためにもまずは…。
「さ、スタンプゲットだ!」
「おー、咲等ってば燃えてるなー」
私は元気に中庭に向かって歩きだした。
「そこそこスタンプも溜まってきたね」
「あと何か所だー?」
ちょっと疲れた、かも。
へにゃって首を落とすと、届きやすくなったのか、美月が撫でてくれた。
「あと2つだね」
「あと行ってない場所は?」
あとは…地図を広げて印を見て行く。
もう学校中を歩き回ったんじゃないかってぐらい疲れたけど…まだまだ行ける場所はあるみたい。
広いよね…。
「あ、誰か立ってる」
「おーじゃあさっそくお題を……」
「…いらっしゃい」
もうクリアできる気が一切しない。
目の前にいるその人は前に私を完全にノックアウトしたりした人で、生徒会だったりで…。
そうだよね、有志の人たちだけじゃなくて生徒会もいるんだよね。
でも何も…
「こんにちは、副会長さん」
彼女じゃなくていいじゃない…。
美月もにこやかに会話してる場合じゃないよ…。
おぅ…あの薄く青白く光る本を見るだけで背中が熱くなる…!
「私からのお題はただ一つ」
青白く光る本が光を増した。
ぼぅっと幽霊のように光るそれはすぐに赤い炎を生み出した。
「10分間、その場から動かずに耐えきること」
瞬間、大量の炎がこっちに向かって飛んできた。
「わわわわ!!?詠唱もなしに!?」
「ブルーウォール!!」
あわあわと動こうとする乙音ちゃんをニャヒルを慌てて止める。
第一弾は、美月が防いでくれたようだ。
「ばか!動いたらスタンプもらえないだろ!」
「だ、だって無理だよ10分なんて!」
「あーもー!お前はあたしの後ろにいとけ!」
動こうとする乙音ちゃんをニャヒルがなんとか食い止めたはいいけど…。
隣にいる美月の汗は尋常じゃない。
「美月、大丈夫?」
「ご、ごめんなさい。なんだか体がおかしくて…」
いつもならこれくらいの魔法で力尽きる美月じゃない。
たくさん歩いて疲れたのかな。
あと10分なんてとてもじゃないけど無理だ。
それどころか次も怪しい。
「ここには私のかけたトラップが作動しています」
トラップ?
「誰にでも使える簡易トラップ。
魔法を使えば使うほどその人は弱る」
そんなものがあるんだ…。
「あー、それ購買で売ってるの見たことある…」
購買で売ってるんだ!?
初耳だよニャヒル!?
「いつか使えないかナーと思ってさ…」
き、気持ちはわからないでもないけど…。
「第二波きます!」
美月の声に前を見ると、またたくさんの炎が浮き上がっていた。
うわ、あんなの食らったらひとたまりもないよ!
「美月も私の後ろにいて」
「で、でもそれじゃ私の魔法が…」
どちらにしろ美月の魔法はもう使えない。
なら私の後ろにいてくれたほうが私としても気持ちまだ頑張れる。
一人じゃ、逃げ出しちゃいそうだし。
「ニャヒル、武器で多少の魔法は打ち消せるんだよね!?」
「あ、あぁ!」
二人揃って武器を構えると、副会長さんがかすかに腕をすっと上げた。
「フレイムキャノン」
静かな号令とともに容赦なく飛んでくる火の球。
「っと!」
一個は防いだ!
次もっ
「ぷわ!?」
ぎゃー!もろにあびたー!
ってダメだ!熱いけど止まってる暇はない。
ほんとは転がりまわって痛い熱いって叫びたいけど、今私の後ろには美月がいる!
たまにはかっこいいとこ見せなきゃ!
「…まだ1分」
息が熱い。
あとこれが9分続くのか。
喉は焼けたみたいだし、体中が炭みたいに固い。
これが燃やされるってことか。
「一度耐えただけでも腹立たしい…」
副会長さん鬼だ…。
果たしてこれが耐えきったといえるのか。
「さ、咲等さん!もういいですっ!逃げましょう!?」
ダメだよ美月。
今度は私が守らなきゃ。
「ニャヒル!大丈夫!?ニャヒル!」
あ、ニャヒルダウンしちゃったんだ。
じゃあ、4人守らなきゃ。
私が、守るんだ。
目の前にはまたたくさんの炎。
次、耐えられるかな。
でもやらなきゃ。
腕がまっすぐに私に据えられる。
その腕と同じまっすぐ進んでくる球。
手に持った鎌がカタリと震えた。
「その心意気や良し!」
目の前が弾けるみたいに明るくなった。
気付けば夕方になっていたことに気付いてしまうほど。
「運も人格も実力のうちってね。
咲等が手に入れるものは本当に良いものばかりだね」
明るく見えたのは前に立ってた人が金色に輝いていたから。
日頃元気な印象を受ける水色のパーカーは完全に金色に包まれている。
「…真由」
「悪いね愛梨」
どうやら先ほどの弾幕は真由が防いでくれたみたい。
手出ししていいの?
「こんなミッション、普通に考えてクリアできるとは思えない。
生徒会が定めたミッションじゃなかったでしょ、今の」
「…」
「愛梨―…副会長も意地悪だね。
そんなに咲等が嫌い?」
「別に、生徒会の人間が生徒会の定めたミッションを守らなければいけない規定はないもの」
「へぇ、生徒会長の犬が珍しい…。でもまぁそりゃそうだね」
真由はニッと笑うと、副会長さんを少し見下した。
「可愛い後輩を2年生が手伝っちゃ悪いという規定もないよね」
「…だから?」
「愛梨には悪いんだけど、残り8分ほど頑張ってもらおうかな」
キュンキュンと音を立てて真由の手に金色の渦が集まる。
それは前に真由が試しに見せてくれた魔力の塊とは違う。
私みたいな素人目に見てもわかるとても濃縮された魔力の渦だ。
それはゆっくりと円盤状に伸び、まるで盾のように展開した。
「何をする気」
「10分、愛梨は耐えろって言ったけど…」
真由がカツリと靴をならすと、副会長さんの足元に薄く陣が浮かび上がった。
「!」
「魔法を使えば使うほどその人は弱る、ね。
8分使い続けられるかな、愛梨」
真由はまた、ニヤリと笑った。