夏休みの終わり。
毎日、朝昼晩の訓練漬け。
「ふぅ」
ニャヒルやスギのおかげで訓練漬けでも楽しい毎日。
それでも充ち足りない毎日。
欲張りだと自分でも思う。
「…美月」
今日も確か、真由の見舞いに行っていると聞いた。
真由が銃で撃たれたあの日から、どこかぎこちない。
「…やっぱり、まだ頼りないのかな」
ブンと鎌を横に凪いでみる。
入った頃と違い、様にはなっている…気がするんだけど…。
「うーん」
ニャヒルと乙音ちゃんは昼は新聞部のネタまとめ。
スギとあーやは里帰り中。
自主練も大事だけど、昼の長い時間一人というのは暇すぎる。
「あーうー」
「咲等ちゃん、何唸ってるの?」
「うひゃおう!?」
慌てて振り向くと、長い髪をさらりと流しながら綺麗に微笑む生徒会長がいた。
声が変だったせいかくすくすと笑っている。
「そんなに驚かなくても、夏休みはミッションもないしそう襲われたりはしないわよ」
「すいません会長さん」
「それにしても、だいぶ鎌の使い方がマシになったわね」
「…あ、ありがとうございます!」
やった、褒められた!
嬉しくてちょっとくすぐったい。
そのうえ名前まで覚えてくれているみたいで凄くうれしい。
「んー…」
「?」
ニコニコしていると、会長は少し考えてから傍に寄ってきてくれた。
私より少し身長が低い生徒会長は自然に見上げる形になる。
少し間を置いて、会長は手を伸ばした。
「うん、偉い偉い」
「…わ…」
帽子の上から、フワフワとした少しくすぐったい感触。
頭を撫でられてるんだと思うと、恥ずかしさと一緒にちょっと嬉しくなった。
子ども扱いだとしても、嬉しい。
「会長さん、お母さんみたいです」
「そぉう?じゃあ抱っこしてあげましょうか?」
「そ、それはいいです…」
「あら残念」
(どこまで本気なんだろうこの人は…)
どこまでも距離感がわからなかった。
友人というのができたのが初めてなら、先輩というのができたのも初めて。
漫画や小説、知識として生徒会長というのがどういうものかはわかるが、どう接していいかがわからない。
残念って言われたなら、やっぱり抱きしめてもらうべきなのかな?
けれど自身の「母親みたい」という言葉を受けて出た言葉だ。
母親などのごく親しい人にだけしてもらうものかも知れない。
キスなどの行為なら、おかしいとわかるのにこういった曖昧な部分は小説や漫画じゃわからない。
「あの、失礼な話なんですが…」
「なぁに?」
「抱っこって言うのは、その…、えっと…先輩後輩といった間柄で、やってもいいものですか?」
生徒会長さんはニコリと、私に笑いかけてくれた。
「そうね、確かに先輩後輩ではやらないわ。でもね…」
「でも?」
「私は生徒会長として恥じないように、愛する生徒たちには母親のように甘えさせているの」
「…生徒会長って…凄い…っ!!」
知識で生徒会長がどういうものか知っていても、ここまで立派な志があるとは知らなかった。
本当に生徒のこと考えてるんだ。
「あ、あの、…じゃあ」
「うん?」
「ちょっとだけ、甘えても、いいですか」
耳まで赤くして、お願いした。
自分の母親ならきっと喜ぶから。
会長さんも、喜んでくれるかな。
やっぱり邪魔かな…?
「えぇ、どうぞ」
私は少し大きな子どもだから、ちょっとだけ身を屈めてその肩に頭を預けた。
「…っていうことがあってね!」
「それだまされてる!それだまされてるよ咲等ちゃーん!!!」
新聞部のネタをまとめあげて戻ってきてくれた友人たちにさっそく報告することにした。
なぜか二人とも苦笑気味だ。
「すごいよね、生徒会長って!!」
「よ、良かったね…」
「生徒会長ってそんな暇なのかね」
腕を組みながら苦い顔をするニャヒル。
暇ではないんじゃないかな?
やっぱり忙しいに違いない。
そう思うとやっぱり会長さんって凄いなぁって思う。
「あー、それにしても痛いイターイ」
「乙音ちゃん、大丈夫?」
「無理して筋トレ付き合うからだよ」
ニャヒルは容赦ないなぁ…。
そこまで無理して付き合ってもらうのも少し申し訳ないな。
「乙音ちゃ…」
「ストップ!訓練に付き合うのはやめないからね!」
「…そっか、ありがとう」
友人っていうのもこういうものなのかな?
この間もニャヒルたちにこういう好意は素直に受けとっておくものだと怒られたのだ。
うん、じゃあもうちょっと付き合ってもらおう。
「そういや、最近美月は見ないなぁ」
「あ、うん。結構しょっちゅう真由のお見舞いに行ってるよ」
「さり気に仲良いよなぁ。やっぱそこそこ強いと連帯感とか生まれんのかね」
ニャヒルの言葉は少し痛かった。
やっぱり、強くならないといけない。
強かったら、きっと美月ともっと仲良くなれるよね。
「…難しいなぁ、パートナー」
「うーん、咲等ちゃん難しく考えすぎなんじゃない?」
「そう?」
パートナーというのはミッションというのが間にあって成り立つ関係。
それ以前に友達や姉妹という繋がりがあれば楽かもしれないけど…。
「私と美月の間って、希薄だなぁ」
「出会いは十分運命的だったけどね」
「運命的って…うん、まぁ…私にとっては、そうだなぁ」
「とっては?」
思い出すのは桜の木の下。
暖かい風に包まれて穏やかに見つめる少女。
金色と桃色のアンバランスさがまるで妖精のように見えたのはまだ記憶に新しい。
「でもさ、それって私はそうだけど美月もそうだとは限んないよね」
「それはそうだけど」
「パートナーとして、望まれてるならそれに答えないと!」
グッと握りこぶしを握って左手でくるりと水晶を回す。
「咲等ちゃんって変なところでポジティブだよね」
「変なところでネガティブでもあるような…」
呆れ声を背に、えいやと鎌を振る。
すでに汗だくだけど、気分はスッキリしてる。
これもみんなのおかげかな。
「…綺麗」
…なにが?
ふいっとニャヒルと乙音ちゃんの方を見ると、ぶんぶんと顔を横に振る。
「ヤだなぁ、ニャヒル。こんな時だけ素直だなんて」
「あたしじゃないっつーの。乙音だろ」
「いや、私じゃないよ?」
「あたしも違うって」
そういえば声はもうちょっと右から聞こえた気がする。
ゆっくり振りかえると、そこには夕日を受けて金色に光る髪をなびかせる少女が居た。
「美月ちゃん!」
「あ…す、すいません。急に現れて…」
「うーす、今日は真由のお見舞いに行ってたんじゃなかったっけ?」
「はい、先ほど帰ってきたんです」
美月は二人に笑いかけると、私へ目線を寄こした。
その目には、微笑ましさと寂しさが見え隠れしていた。
…病院で何かあったのかな?
せめて気持ちが楽になってくれればいいなと思って私はゆっくり笑った。
「美月」
「お疲れ様です」
傍に置いてあったタオルを手にとってくれた。
ありがとうと申し訳なさそうに笑うと、また美月も寂しげに笑顔を見せてくれた。
と、ツツツと乙音ちゃんが顔をにやつかせて話かけてきた。
「ねぇ咲等ちゃん」
「なに?」
いいことを考えたとでも言うようにへらりと笑った乙音ちゃんに、ニャヒルがぼそりと呟く。
「またろくでもないこと考えてんなー」
そんなニャヒルのことなど露知らず、乙音ちゃんはぐいっとニャヒルの腕を取った。
「どうせなら、パートナー対抗で模擬戦しよ!」
突然の申し出に、ポカンと呆気にとられる。
けれど、すぐに慌てて手を振った。
「え、えぇえ!?それは…ちょっと…」
チラリと美月を見ると、きょとんとした顔を返された。
…だって、まだ無理だよ。
ニャヒルにいたっては全力で嫌な顔をしながら乙音ちゃんを引き剥がしている。
「やっぱり、それは悪いし、…ねぇ?」
美月に苦笑気味に笑いかけると、ぶんぶんと首を横に振られた。
「わ、私!したいです!」
「えぇ!?」
大人しい美月から予想しない言葉が出て私はうろたえた。
あ、もしかして、夏休みの間にどれくらい強くなれたかチェックっていうあれかな?
そんなにネガティブに考えることないかな?
で、でもこれで嫌われたら私生きていけないかも…。
けどここで断ったら余計嫌な顔されるかも…。
「…じゃ、じゃあ、してみよっか?」
「はい!」
嬉しそうに笑う美月に、やっぱり申し訳ない気持ちがいっぱいになる。
様にはなってきたけど、強いというには程遠い。
…ごめんね、美月。
「あたしを無視して話を進めんな!」
「まぁまぁ、ニャヒル。私たちの愛を見せつけてやろうよ」
「そんなものはない!」
「…即答だとちょっと悲しいよ?」
「そもそも、あたしらでアレに敵うと思ってんのか」
アレと指差した先には、やっぱり美月。
彼女の得意とする大型魔法に匹敵する対策はなかなか出ないと思う。
私なら一発KOだ。
「うーん、じゃあ美月ちゃんはサポート魔法のみのハンデ背負い!…とか?」
「ま、それならいっか」
「了解しました」
いいんだ!?
美月のサポート魔法なんて、私受けたことないんだけど…。
そもそも美月が凄い事は知ってるけれど、どんな魔法が使えるのかは全然把握してない。
「大丈夫かなぁ?」
「頑張りましょうね、咲等さん」
「ははは…お手柔らかに…」
フィールドは今現在居る寮の狭い裏庭。
地面には柔らかい芝生が生えていて、訓練には打ってつけな場所。
-前衛の基本は、相手の前衛がこちらの後衛に近づかないようにすること-
スギに教えてもらった基本を忠実に。
確かに、今までの私は美月の後ろで隠れてこそこそするように相手の隙を窺ってた。
後衛の命中力を信頼して前衛で後衛の集中力を守る。
(…と、いうことは)
ニャヒルを見ると、ニヤニヤしながらぶんぶん棒を振りまわしてる。
どう見てもやる気マンマン。
「お手、柔らか、に…」
「誰がしてやるかぁ!」
「おわぁ!!」
全力で殴りかかってくるニャヒルの棒先を柄でいなして間合いの内側に入る。
まずは一発!
鎌を逆手に持ち直し、相手のみぞおちに入れる。
けれどそれは失敗した。
「エアーズロック!」
乙音ちゃんの衝撃吸収魔法。
ニャヒルと鎌の柄先の間に空気の塊が入り込み、なんともいいがたい感触で動くが鈍る。
「ちっ!」
その間にニャヒルが間合いをとろうとバックステップを踏んだ。
「グラヴィトントラップ!」
間合いをとるのに失敗し、ニャヒルがよろける。
「…なんだ!?足が重い…!?」
「重力を利用した足止め呪文です」
美月のサポート魔法だ!
…すごい、そんなこともできるんだ…。
これなら身長の低いニャヒルに動き回られて死角を突かれることもない。
「っし!ニャヒル、覚悟!」
「やられてたまるか!乙音!」
「ラジャ!」
美月の足元に展開される魔法陣。
「大型魔法!?」
「サポート系で…まさか!?」
そのまさかだというようにニヤリと笑う乙音ちゃん。
「サイレンスブルー!」
青く染まり上がる空間に閉じ込められる美月。
「美月!」
慌てて近寄ろうにもニャヒルに足止めを食らっている。
青い空間は美月を取り込み、彼女自身出られなくて困惑している。
「ふふーん!どうだ私の特訓成果!
相手の周りを取り囲み、出られないようにするスペシャル魔法!
なんと声が出せないという特別効果付き!」
それはまたなんとも厄介な…。
「せい!」
「うお!?」
ニャヒルの足元を払い、ジャンプした隙に肩を上から押さえつける。
身長があるからならではの力技だ。
ダンっと音がして、ニャヒルの背中が地に付く。
その隙に慌てて美月を囲む青い空間に鎌の刃先を入れてみる。
「固い!?」
「ふふふ…、あーやみたいなパワータイプならともかく、咲等ちゃんじゃ無理だね〜♪」
どうしたものかと悩んでいると、中に居る美月が後を指差す。
「うおらっ!」
「うわ!?」
立ちあがったニャヒルが殴りかかってきていた。
すんでのところで避けて、ニャヒルのライフウェポンと青い結界がゴンと重い音を立てた。
(…ニャヒルの攻撃でもダメなのか)
それはつまり、美月には一切の攻撃が当たらないということ。
魔法は大抵、唱えている人さえ倒れれば消える。
(アレ、使えるかな?)
美月と二人で戦う際には使えないと思っていたけれど、思わぬところでチャンスが来た。
-接近戦タイプでも大技を持っていると強みになる-
そうスギに言われて全力で作り上げた技があった。
夏休みの総決算だ。
鎌を持ち直し、低く構えた。
これはまだニャヒルと乙音ちゃんには見せていない。
「おぉ?」
「何?何?」
狙うは芝。
ありったけの魔力を鎌に込める。
ニャヒルが少したじろいだのをきっかけに、足と手に力を入れた。
「花鳥風月」
素早く芝生に風を入れ、ふわりと薄く切られた芝が舞う。
「なんだ!?」
「わ〜っ、見えない〜っ!」
鎌の魔力が伝線した芝がピンクに彩られ、華麗に舞う。
「花吹雪」
カチャリと音がしたときには、既にニャヒルと乙音ちゃんの体は地面についていた。
「ふにゃぁ〜」
「なっ、なんじゃこりゃぁああああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
乙音ちゃんの抜けた声とニャヒルの絶叫により、模擬戦は終了。
あとに残ったのは照れ笑いを浮かべる私と、事態を把握できずにポカンとしていた美月。
「あー、ちーくーしょーぉ…」
「あはは…」
悔しそうにニャヒルに噛みつかれている。
それでも私は笑った。
普通に勝てて、嬉しかった。
気絶させなければなんとかできるみたいだ。
この間はきっと、相手が白眼をむいてたから困惑しただけ。大丈夫大丈夫。
「咲等ぁ〜…あんな大技いつ覚えた!っていうか隠してたなこのヤロー!」
「ごめんごめん、たぶん使うことなんてないと思ってたから」
「なんで?」
ケロリとさっきのことなど無かったようにニコニコしている乙音ちゃん。
美月もきょとんと私を見ている。
「うん、あれ無差別だから」
「無差別?」
「大技みたいだけど実はあれ、ただの目暗ましなんだよね」
風圧で芝生を舞わせ、空から辛うじて見える人影を覚え、地に降りてから全力で叩いてまわる。
ただそれだけ。
「だから仲間には絶対に安全な場所に居てもらうか、確実な目印とか付けていてもらわないとダメなんだよね」
「あぁー、なるほどー」
あれだけしっかりと守られていたなら、美月が巻き添えを喰うことも無い。
私の訓練は、とりあえず今は美月のためのものだから。
美月と一緒じゃ使えないものは意味がないと思ったんだ。
「他にも新しい技考えないと…」
「ねぇ、ニャヒルは何か必殺技みたいなのないの?
上上下下右左右左BAみたいな」
「なんでコマンドなんだよ」
「ところで咲等さん、いつあんなことができるってわかったんですか?」
「あんなことって?」
「魔力を他の物に付与するなんて通常はできないんです」
「そうなの?」
普通にできちゃったんだけど…。
「例えば…」
美月はくるりと水晶を回して自分の杖を出すと、片手で持って見せた。
「よく見ててくださいね」
そう言うと美月はパッと手を離した。
杖が音を立てて落ちることはなく、ふわりと杖は消えて手には水晶が戻っていた。
「このように武器系の物は手から離れると消える仕組みになっているんです」
「そうなんだ」
「炎などの構築された魔法は手から離れても効果を残します」
うん?それって…。
「私って実は魔法タイプだったってこと?」
「…どうでしょう?」
それは美月もわからないらしい。
そっかぁ。
「つまりは特殊能力みたいなもんか」
「咲等ちゃんいいなー」
ちょっと嬉しい。
少しでも特殊な方が強いもんだって真由が言ってたから。
「これでちょっとは強くなれるかな」
「咲等さんは強くなりたいんですか?」
「うん、頑張って強くなるんだ!」
「…そうなんですか」
そこで美月は少し考えると、きゅっと拳を握った。
「私も、ご一緒していいでしょうか!」
「へ?」
「真由さんももう退院されますし、私も暇になりますから…ダメですか?」
「いいけど…」
一緒に…。
またかっこ悪いとこばっか見られちゃうかも…。
でもミッションって二人で戦うことばかりだろうい美月との連携も練習しないとだよね。
ちょっとは認められたのかもしんない。
「うん、じゃあお願いしていいかな?」
「はい!喜んで!」
美月は嬉しそう。
良かった、病院から帰ってきたときなんだかちょっと辛そうだったし、私が強くなることで美月が少しでも笑ってくれるなら頑張れそうだ。