感じたのは小さなしこりのようなもの。
実力じゃなくて、なんというか、姿勢?
美月とか、真由とか、きっと私と違うものを見てる。
ぐちゃぐちゃな気分だ。
あの日、ニャヒルが牛尾先生を呼んできてくれたおかげでなんとかなった。
銃を持った人は真由が、3人目の狙撃者は私が倒した。
残りの魔法使いを牛尾先生が強引に倒したことで、無事3人とも捕獲。
でも真由は怪我をして入院、美月はそれに付き添っていった(他に事情を説明できる人がいなかった)
夏休み、ゆっくり時間は過ぎて行く。
美月は他に看病してくれるひとが居ないとかで泊り込みで真由のところへ行っている。
私も行きたいけど、真由には見舞いなんていらないと言われた。
「咲等」
部屋に居る気にもなれず、誰も居ない中庭でぼぅっとしていたら後ろから声をかけられた。
「スギ」
「とんでもないところに居るな、お前は」
とんでもないところ、というのは木の上。
木陰に座るのもいいかと思ったけれど、なんとなく風を受けたくて一際大きな枝に腰かけている。
…折れないよね?
「ここ、いいか」
「どうぞ」
スギは木の幹に背中を預けて腰を下ろした。
しばらく無音で黙っていたけど、スギが喋らないのを見て口をひらいた。
「…暑いね」
「そうだな」
まるで抜けがらみたいだ。
いつもの厳格で真面目な雰囲気はなく、ただぼうっと私と同じ場所を見つめていた。
「真由、大丈夫かなぁ」
「大丈夫だろう、強い人だ」
強い、という言葉にピクリと反応したせいで葉がガサリと音を立てた。
「どうしたら強くなれるかな」
「それをこないだ叱られた私に聞くな」
スギは苦笑している。
呆れられたかな…?
でもなんでか、スギならもっと色々考えてそうな気がしたんだ。
「…きっと、もっと経験積んで、もっと強くなれば…誰かと対等になれる、そう思えて…」
「正直に美月と対等になりたいって言ったらどうだ」
「ううん、私はたぶんまだ誰とも対等じゃないんだ」
生まれたてのひよこみたいなもの、かな。
うまく言えないけど。
「頭は良くないし、しょうがないのはわかってるんだけど…」
「問題はそこか?」
違うのかな。
賢くないから、自分の気持ちがわからないのかもって思うんだけど…。
「…あーぅー…なんか気持ちがドロドロするぅ〜…」
「でもうまく説明できないんだろ?」
「うん…」
まるで出口のない迷路みたいにぐるぐるぐるぐる。
美月は優しい、真由も楽しい。
けど、二人と圧倒的な距離が見える。
それが悔しくて堪らない。
「うーー…」
「何唸ってんだ咲等は」
「あれ、ニャヒル」
いつの間に来ていたのか、スギの隣にニャヒルが並んでいた。
「美月と対等になりたいんだと」
「うわ、青春」
青春ってもっと明るいものじゃないの?
今の気持ちはクサクサしてとても青春といえるものじゃない。
「それも青春のうちなんだろ」
ニャヒルはすっぱりバッサリだなぁ。
「対等になりたいなら強くなりゃいいじゃん」
「そんな簡単に言わないでよぉ〜…」
強くないからって強いパートナー探そうとしてたのニャヒルじゃない。
「そりゃあ、今あたしは強くなんなきゃいけないからな」
「なんで?」
「乙音は戦えないし、新しいパートナーなんか要らないし、でも咲等より弱いのは嫌だし」
「私強くないよ」
「じゃあ強くなれば」
ニャヒル冷たい…。
「じゃあさ、ニャヒルは乙音ちゃんと対等なの?」
「…対等だと思うけど?」
「どうしてそう思えるの?」
ニャヒルは自分がどうかと聞かれると思ってなかったのか、しばらく考え込んだ。
「うん、やっぱりあたしと乙音は確かに対等だな」
気恥ずかしそうに頬を掻きながら俯く。
「乙音はどんくさいしあたしがいないと何もできないけど、乙音がいなかったらあたしもダメになる」
そういうことだろ?と答えるニャヒルはやけにかっこいい。
お互いが必要としてるから、対等なんだ。
「美月が私を必要だと思ってくれたら…」
「対等なんじゃないの?だから必要だって言ってほしいなら強くならなきゃってことじゃない?」
ニャヒルが強くなるのは、乙音ちゃんに必要とされるため。
じゃあ、私も強くなりたいな。
美月が何を思って私をパートナーにしたのか、いまいちわかってないから。
「ところでスギはなんで黄昏てんの?なに、スギもなんか悩んでんの」
「いや、…私のほうはほとんど解決しているんだ」
「じゃあなんでそんなやる気ないんだよ」
「今まで気負っていたものが無くなって楽になった。
…けれど、急に楽になったから気持ちが軽すぎてなんだか生きてる気がしないんだ」
確かに、今のスギはふわふわしてどこか飛んでいきそう。
昔、そんな気持ちを体験したことがある気がする。
母さんも父さんもいなくなってただ生かされている気持ち。
でも、他人がそんな風になってるのを見るのは少し寂しいな。
「じゃあ何か目標を持って生きるとか!」
「目標?」
「たとえばー…」
ちらりとニャヒルをみるとやれやれと首を横に振った。
「言いだしっぺなんだからちゃんと目標与えてやれよ」
うーん、考えてなかったです…。
「そう、だねぇ。じゃあ、訓練付き合って!」
「あぁ、いいが…」
それって目標とはかけ離れてないか、と。
それはそうなんですけど…。
「じゃあ咲等と対等であることを目標にしたら?」
私と、対等?
「今んとこ、そいつはつまり信頼できる人はいるけど、お互いに助け合える人はいないと考えてるわけだ」
ニャヒルってたまにエスパーじゃないかな、と思う。
「じゃあ美月が咲等を信頼できるまで、あたしとスギが『友人』として訓練を手伝ってやればいいじゃん」
友人。
って、あれ、でも待って。
「ニャヒルも手伝ってくれるの?」
「…あたしだって強くなりたいんだ。練習相手がいるほうがいいよ」
ニャヒルってほんとに凄い。
面倒見がよくて、割と万能で、エスパーで。
…誇らしいな、ちょっとだけ。
うん、がんばろ。
ぴょんっと木から降りると、ぶんぶんと腕を振り回した。
「ズルい!!」
特訓開始から1週間経ったころ。
お昼ご飯にたまたま私たちと顔をつきあわせた乙音ちゃんが、そんなことを言った。
「ズルいズルいズルい〜!!!」
「なんだよもう」
「乙音ちゃん、どうしたの?」
「しらばっくれてもダメだから!新聞部エースのこの乙音様にはすべてお見通しなんだから!」
「いつお前がエースになったよ」
乙音ちゃんのこういうテンションは割といつものことなのか、ニャヒルは気にせずに味噌汁を啜っている。
「ズルいよ!3人だけで秘密の特訓なんてぇ!」
秘密でもなかったんだけど。
でも誰から聞いたんだろう。
この一週間美月には会えてないけど…。
「あーやからガッツリ話は聞いたんだから!」
「まぁそうだろうな」
スギは想定内だったらしく、メンチカツに齧り付いていた。
「あーやが最近訓練内容が増えたことを気にしていろいろ聞いてきたから全部喋ったんだ」
「それをあーやが私に教えてくれたの!」
「新聞部一切関係無ぇー」
確かに。
乙音ちゃんは「とにかく!」と言って指をびっと私たちに突きつけて大きく宣言した。
「私も一緒にやる!!!!」
--nyahiru--
「ぜぇ、ぜぇ、やっぱやめる〜…」
「言わんこっちゃ無い」
1日目で乙音はバテた。
だから教えなかったのに。
「だってしんどいもん…!」
「まぁ、特訓だから」
しんどいものだから。
「二人ともよく続くよね…」
「それだけ大きな目標があるんだろ」
「あぁ、美月ちゃんのこと?」
変なとこだけ察しがいいなこいつは…。
バテて休憩しているあたしらとは逆に、疲れなんか知らないのか昼からずっと打ち合っている二人。
本来ならスギが手加減して咲等に色々教えるんだろうけど、スギは新しい戦い方をしている。
二人の力は今均衡していて、これが練習じゃなければ永遠に打ち合わなければいけないんじゃないかと思えてくる。
「でも咲等ちゃんが美月ちゃんのために強くなる必要なんてないのに」
こいつにしては珍しいことを言った。
「…パートナーのために色々してあげたいっていうのは必要じゃないの?」
「それは必要だよ?」
「なら咲等が美月のために強くなったっていいだろ」
じゃなきゃ、咲等の努力がもったいない。
(こう言うのも恥ずかしいけど)一生懸命泥んこになっている咲等がむくわれないのは嫌だ。
そもそもあたしは美月も真由もよくわからない。
賢いやつも強いやつもあたしは嫌いだ。
あいつらの頭ん中なんてあたしにはきっと一生分からない。
「ニャヒルも咲等ちゃんもスギもほんとひねくれものだよね」
「あたしはわかるけど他の二人は違うだろ?」
自分で言うのもなんだけど、あたしがひねくれものなのはわかる。
でもあの二人はどちらかというとドがつくほどバカにまっすぐで、見ているこっちが恥ずかしくなる。
強くなるのはパートナーを守りたいから。
強くなるのはパートナーに認められたいから。
ただパートナーのために動けるまっすぐな気持ち。
あたしはといえば乙音に見限られたくなくて惨めに頑張っているだけなんだ。
「別に強くなんかなくていいのに」
「なんだそれ」
「だってニャヒルが強いからニャヒルとパートナーになったんじゃないもん」
「…なんだそれ」
「美月ちゃんもあーやもさ、きっとそうだよ」
「そうかぁ?」
「そうだよ」