Lily memo %



第五話 後編



--sugi--


「…はは、返す言葉もない」
「スギ…」

自分の体のことは、誰よりも知っている。
全寮制の学校と聞き、危険を承知で入ったこの学校。
付いてきてしまった大事な義妹を守るため、必死で鍛えてきたこの体。


現実はそう甘くはない。


鍛えても鍛えても、先輩たちが放つような威力ある攻撃は出せない。
スピードは速くなった。
ライフウェポンにも慣れ、ナイフ捌きなら誰にも負けない自信がある。


それでも、力が欲しかった。


「わかっていたのになぁ…」
「スギ、聞いて」

あーやは、呆れただろうな。
けれど私に愛想を尽かすことはないだろう、優しい子だから。

「ねぇ、きっとスギ誤解してる」

誤解か、確かにたくさんしている。
いや、誤解してるんじゃない。


認めたくないんだ。弱いということを。


周りが一撃で倒せる者を、自分は何度も何度もヒット&アウェイを繰り返さなければ倒せない。
鍛えて鍛えて力強くなったとしても、周りも強くなっているのだ。
そのうえ優秀な義妹は、完全なパワー型だった。
義妹が短時間で倒せる者を、私は何時間もかけて倒すしかない。



ひどく、惨めだった。



大事な義妹だ。
憎みはしなかった。
私を拾ってくれた両親のためにも、輪をかけて大事にしている。
だからこそ守らなければいけなかった。
そのためには彼女より強くなければいけなかった。


そして、自分が強いと過信してこのザマだ。


先輩に説教され、ひどくへこんだ自分を彼女はどう思うだろうか。
…強いと過信してパートナーになろうと言った自分を、彼女はどう思っていたのか。
今となってはただ申し訳なく思う。

「…私は、弱かった」
「!」
「情けないな」

隠れている壁の向こうから、激しく銃を撃つ音が聞こえてくる。
悲鳴は聞こえない。
あの先輩は、教師とまともに戦い合っているのだ。
それに比べ、自分は壁の向こうでただ隠れているだけ…。

「…何言ってるの…」

あぁ、これはついに呆れられたか。
さすがに、弱いうえに甘えられては…。




「スギの大馬鹿!誤解してるって言ってるでしょ!?」




あーやが珍しく、キレた。
一瞬自分が落ち込んでいたのも忘れて驚いた。

「だから、今認めただろう。自分は弱いと」
「そういう話じゃないってば!ちゃんと考えなよ、真由さんの言葉!」
「言葉…?」


-スピードを極めるのは構わないよ。
でも今のスギの戦い方じゃ、仲間からしても迷惑だなって感じ-


「つまりは足手まとい。そういうことだ」

わかってはいても自分で言葉にすると心に痛いものがある。
あーやは腕組みをすると、大きく溜息をついた。
少し落ち着いたらしい。

「あー、もー…。どーしてそこまでバカなの…」
「なっ…心外だ!今の話は体のことで頭は関係ないだろう!」

落ち込んでいた心を更にナイフで抉られるような言葉に思わず反論する。
なぜ私がバカなんだ、成績は上位だぞ。
筆記テストだってS組に負けないぐらいの点数を誇っているのに…。

「あのねー、もうちょっと考えなよ。
 スギって昔からそうだけど単純すぎるよね。
 ほんと言葉の裏とかって読まないかな」

あーやはよほどイラついているのか少し早口だ。
昔からそうだが、あーやはムカついていると早口になる。
大きくなって興奮することが少なくなったせいか最近は聞かなかったが…。

「ねぇ、聞いてるの」
「あぁ、聞いている」

そのうえ、こっちのこともしっかり見てくる。
…目が合うと、真剣な瞳が見えた。

「真由さんの言ってること、真実だよ。
 でも言ってたでしょう。
 『今のスギの戦い方じゃ』って」

確かに言っていた。
今の自分では足手まといだと。
しかしそれは自分に筋力がないからじゃないのか?

「…ねぇ、パワーだけが力の全てじゃないよ」
「それは、わかっている」

わかっているけど、諦めきれない。
そうだ、一人なら泥臭くても惨めでもいい。



背中にお前がいるんだよ、あーや。



下がるわけにはいかない。
いつだって最前線でなければ、接近型の彼女は守れない。
だから私は、あのスタイルじゃなきゃいけないんだ。



私は、お姉ちゃんなんだから。



-今日から、君はうちの家族だ-
-あーや、お姉ちゃんができるのよ-
-元気でうるさい妹だが、守ってやってくれ-


-うん!-




「…守れなければ、私の存在意義はないんだ」

あの日から、戸波綾美の姉であることが私の生きる道だ。
親を失い、たらい回しにされていた自分に希望をくれた。

「やはり私は…」
「もっかい言うけど、バカでしょスギ」
「…」
「私、そういうの、ヤだからずっとお姉ちゃんって呼ばなかったのに」

あーやは思ったよりトドメをさすタイプなんだなぁ。
ナイフなんて可愛いもんじゃない。
あーやは自分の武器に忠実に、金棒で私の心をメチャクチャにしていく。




「ねぇ、私にもスギを守らせてよ」




「…守る?」
「おかしいよ。誕生日が数カ月違うだけじゃない。
 どうしてスギが私を守らなくちゃいけないの?」

どうしてって、それは私が…。

「血が繋がってないから?」

やっぱりナイフかもしれない。
いつだってズバズバと言いたいことを言う。

「…家族じゃないの?」

家族。
その言葉は、とても心に響く。
でも、だからこそ。

「大事な、家族だから、守りたかった」
「じゃあ私にも守らせてよ」

隙は無く、反撃を許さない。
まっすぐな瞳はひどく攻撃的だった。
言葉をまるで直接送り込んでくるみたいだ。
真っ黒で真っ白な心にあーやの言葉だけが反響する。



「スギは、私にとって家族なんだよ。
 スギが傷つくのを見たくないよ」



進んで最前線に行く自分を嫌だという。
自分に合ったスタイルを捻じ曲げてでも、前に立ち続けた自分。
…守られる価値は、あるのか?

「スギ、咲等ちゃんと美月ってさ、どう思う?」
「どうって…」
「咲等ちゃんってさ、正直あんまり頭良くないじゃない」
「…その言い方はどうなんだ」

突然に話を変えられたがなんとかついていく。
咲等は要領はいいが、確かに頭がよくない。
というより、興味がないことが全然頭に入ってこないのだ。
そのうえ集中力もないからふらふらとしている。

「美月は、一見完璧っぽいけど体力は並だよね」
「まぁ、そうだな。優秀ではあるがこの学校じゃ一般的だ」
「そのうえ耐久力がないし」
「…何が言いたいんだ?」

先ほどバカだと言われた頭で考えてみるが、話の繋がりが見えてこない。
…考えてみれば、確かに私はバカなのか?
成績はいいんだが。
あーやは少しだけ微笑むと、おもむろに口をひらいた。

「それでも、良いパートナーだと思わない?」

一見、美月が一方的に引っ張っているかと思えば、そうでもない。
足りないところを補い合う。
意外と好奇心旺盛で動き回る咲等。
知的精神はあるが自主性が少なくインドアな美月。
身も心も補い合えるまさに相性抜群。

「なんでスギとパートナーになること、二つ返事でOKしたと思う?」

筋道を立てて考えれば、見えてくることもあるものだな。
なるほど、私は確かに単純だったようだ。

「一方的ではなく補い合えるから、か?」
「惜しい、でもよく考えたね」

ここに来て、ようやくあーやの目が喜びを見せた。



「対等になれると思ったから、だよ」



このまま姉妹では、私が対等に見てくれないから。
中学に入って「お姉ちゃん」という呼び方を卒業したのは、恥ずかしいからではなく対等なパートナーでいるため。
もともと元気ではあったが、社交的になったのは人付合いの苦手な私の代わりに人脈を得るため。

「スピードのスギ、パワーの私。体の相性もバッチリ!
 そのうえスギのライフウェポンは応用力抜群」

誇らしげに鼻を鳴らす。
あぁ、そうか。弱かったのは力じゃない。



弱かったのは、私の心だったんだな。













--sakura--


「美月、二階だね」
「そうですね」
「…何するの?」
「遠距離で攻撃します」
「え"」

手をひかれるままについていけばなぜかこんな作戦に。

「ありなの、それ」
「学校的なルールとしてもありです」

基本なんでもありですから、そう笑うパートナーは意外と逞しい…。
スギたちは放ってきて大丈夫なんだろうか。

「スギさんたちなら大丈夫ですよ。
 なんたってあーやさんは優秀ですから」

アイコンタクトしてたもんね。
…それにしても。

「真由はたまに怖いね」
「あれで意外と冷たい人ですよ。
 咲等さんのことは結構尋常じゃなく気に入ってるみたいですけど」

気に入ってる、かぁ。
そこまで気に入られてるって気はしない。
ニャヒルみたいな言い方をすれば、「面白がってる」ってところかな。

「たまに『訓練しようか!』って暇つぶしにしごかれてるだけな気がするんだけど」
「暇つぶしでもあるでしょうね」

まぁ、おかげさまで鎌を振るうのもだんだん様になってきてるみたいだしいいんだけどさ。
なんていうんだろう…、こう、真由を見てると…。

「なんか、くすぐりたくなるよね」
「…?…」

薄い笑いを浮かべているのを崩したくなるっていうか…。
私だけなのかな?
指に通した水晶をくるりと回し、厳格で無機質な杖が出てくる。
美月のことも、まだもう少しわからないな。


私は意外と、この学校で友達と呼んでいい人なんていないのかな。


「咲等さん?」

声をかけられてぼんやりしていたことに気付く。

「ごめん、少しぼんやりしちゃった」
「大丈夫ですか?2階とはいえ安全と言い切れないので気をつけてください」

緩やかに注意されてしまった。
そうだ、今回は当たってしまえば血が出るんだ。
より気を引き締めないと。


じゃないと、置いてかれる。


「…置いてかれる?」

自分で考えて思う。
何に、置いていかれるんだろう。

あぁ、頭がぐちゃぐちゃしてきた。

考えるのをやめよう。
あまり行き過ぎないように窓の傍へよって下を見る。
相変わらず武器を使わずひょいひょいと飛び跳ねる真由が居た。
少し真由が距離を取る。

「プラズマボール!」

美月の杖から雷の球体が発射される。
敵さんには当たるはずのそれは、氷の壁で阻まれた。

「!? 無力化された…!」

よく見ると、不正の証である銃を運んできた女性がなにやら武器を構えている。
なんだろう、あれ。

「ペンデュラム…魔法使いさんですか」

下をのぞけば、女性は首飾りのようなものを手に持ち、何やら呪文を唱えていた。

「咲等さん!こちらにも攻撃が飛んできます、下がっていてください!」
「は、はいぃ!」

慌てて下がると、飛んできたのは氷の飛礫。
いやいや、あんなの受けたら穴ぼこだよ!
美月はとても慣れた感じで自分に当たりそうなものだけを杖で弾いていた。

「凄いなぁ…」

自分はというとやっぱり見てるだけだ。
そう、見てるだけ…。

…見て…る…だけ…?

目に入ったモノを疑いたくて慌てて窓に近寄った。

「咲等さん!危ないので…!」
「もう一人居る!」
「え?」

二人だと思い込んでいた。
三人目が居たんだ!
真由はまだ気づいてない…!
美月は下の魔法使いさんと交戦中、手が離せない。
それに美月からの角度じゃ見えないのか…!


どうする…!?




私が、戦える!




「えぇい!…間に合えっ!」
「咲等さん!?」

窓を乗り越えて三人目のところへ直接ジャンプ。
考えている暇は無かった。
体にかかる重力に身を任せて無我夢中で水晶に祈る。
落ちる前にライフウェポンが構成されれば…!



フッと相手の後ろに落ちた。



「え?」

相手は何が起こったのかわからなかった。
撃つ前に、気を失ったのだから。

「…い、けた?」

私ですらよくわからない。
着地成功。
足音がする前に、着地する前に、相手の首を刈った。
ということだろうけど如何せん興奮しすぎて(心臓の音がうるさくて)頭が真っ白だ。

「勝った、で、いいのかな?」

どうすればいいんだろう。
影に隠れているから敵にバレない。
真由たちにも状況がわからないだろう。
気絶してしまった男の人の前で、私はただ立っていることしかできなかった。













--mayu--


何が起こったのかわからない。
美月がもう一人と交戦し始めて(これは予測済み)
そしたらそこから咲等がジャンプして落ちて。
見えなくなって。



そして、出てこない。



何してんの、あいつ。

「よそ見しているなんて余裕だな!野中ぁ!」

もう先生とかどうでもいい。
どうなったわけあいつ。
ちらりと美月を見れば、動揺しつつも相手の魔法を着々と押している。

「なんか、どうするか」

私自身は避けて避けて間合いを詰めてってしてるけどなかなか距離は縮まらない。
ライフウェポン使えばすぐに倒せるだろうけど、正直面倒くさくなってきた。

「ははは!押されてるなぁ!野中ぁ!」

いや、そうでもないと思うんですけどね。
ハイになってる先生は気付かない。
…もう面倒くさいなぁ。

「…いいや、足一本もってっていいよ」

後ろへ後退し、わざとらしく隙をつくる。

ダァンッ!!!

「っ!」
「は…ははは、ハハハハ!!本物だ!本物なんだ!」

右足から勢いよく出る血。
その色に興奮したのか大きく仰け反って笑い始めた。

「…だから弱いんですよ、せんせー」
「あ?」

左足で大きく跳躍して間合いをつめる。
動けると思っていなかったんだろう、銃をかまえるどころか唖然とした顔をしている。



「じゃあね」



右手の人差指に絡ませた水晶をくるりと回して光の球を作り出す。
球は落ちることなく、右手に固定されたまま勢いをつけて先生の腹へ殴りこむように押しつける。


「な、ぎゃぁあああああああ」


汚い叫び声だなぁ。

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