「…あつ…」
「コンビニのくせに冷房利いてないんだ…」
冷房目当てで来たのに…と真由がこぼす。
あぁ、なるほど、それでコンビニに行きたがってたんだ。
「あんまりしっかりと冷房をつけるとお客さんが溜まり場にしますから。
多少つらくてもつけないようにしてるんでしょう」
美月の言い分はもっともだ。
それもここは学校と寮の間にあるコンビニ。
溜まりやすいにもほどがある。
「うー、アイスアイス…」
窓側にあるクーラーボックスの方へ行くと、窓の向こう側に知った人を見かけた。
「あ、スギ」
「え?あ、ほんとだ…。あんなとこで何してるんだろ?」
しっかりと聞きつけたあーやがすぐにコンビニから出てスギの方へ歩いていく。
その後に続いてコンビニを出る。
う…やっぱり暑い。
「スギ!」
二人で駆け寄ると、スギは驚いた顔でこっちを見た。
中途半端に腰を下げていたスギが怪訝な顔でこちらを見た。
「あーや!と、みんなも…。どうしたんだ?」
「こっちの台詞だよ。何してるの、こんなところで」
「あんまり大きな声を出すな。少し怪しいやつがいたからな、こっそりあとをつけてるんだ」
怪しいやつと言われてスギの視線の先を見る。
見る限り普通の人だ。
紺のパーカーにジーンズ、変なとこなんてないけど…。
「学校に置いたままにしてあった教科書を一つ取りに行こうとしたんだが、
休日なのに変にうろうろしてるやつを見かけてな…。面白そうだからそのまま尾行したんだ」
面白そうだからって…。
そんな理由で尾行するスギって実は好奇心旺盛?
スギっていつも自分が一番真面目だって豪語してるけど実は一番変だよね。
いつのまにか隣に来ていた美月と真由も興味深そうに覗きこむ。
「…うちの学校の生徒でしょうか。それにしてはちょっと年が…」
「見たことない人だね…。それに夏休みは制服を義務付けられていないから私服でも他人だとはわからないし…。
そもそもここはまだ学校外だし」
「学校から出た後、最寄の駅でコインロッカーから何かを取り出していたんだ。
このままだとまた学校に戻ることになる。何をしてるのか、すごく気になる」
すごく気になる、の部分に真由はオーバーに「うんうん」と言いながら首を縦に振った。
…さっきまで暑さでダルそうにしてたのに楽しそうな顔してるなぁ。
「よし、このままつけてみよう。何か面白いことがあるかも」
「いいのかなぁ。まったく知らない人を尾行なんて…」
「やましいことがなければいいんじゃないでしょうか。私たちは命を狙ってるスパイでもないんですし」
「…例えが少し物騒だよ、美月…」
やっぱり美月ってやっぱりたまに変。
帰国子女ってみんなこんな感じなのかなぁ。
それはちょっと偏見?
みんながひっそりとついていく後ろをちょこちょこついていく。
あーやまで乗り気になって…、いいのかなぁ。
「あ、やっぱり学校に行くみたいだ」
「あの小包の中身が気になるな…」
「いっそ、聞いてきたら?それなんですかって」
「いやいやいや、あえて覗くからこそのお楽しみだよ」
楽しそうに各自の想像を語るのはまるで女の子の井戸端会議みたい。
実際は井戸端会議というには少し変な会話なんだけど…。
「そんな下衆い考えは持ってないけど…。でも、知らない人に声をかけるのは嫌いだ」
「まったく、ほんと人嫌いなんだから」
スギとあーやはほんとに正反対な感じだな。
あーやだって別にみんな大好き!とかいう感じじゃないけど誰にだって平穏に対話する。
それに対して知らない人には突っぱねるようにしか話さないスギ。
血が繋がらないから正反対ってことはないだろうけど、なんだか正反対すぎて逆におかしい気がする。
ふと前を見ると、門が閉まっていた。
あれ、これじゃあ入れないよね?
「今日は部活動はどこも休みでな」
あぁ、だから学校開ける必要がないんだ。
「…スギはどうやって入ったの?まさか塀を乗り越えたりとか…」
「するかそんなこと。裏門は開いてる。たぶんあの人もそこから入るんだろ」
「裏門とかあったんだ…」
ツールバトルのためにやたらと広いこの学校。
1学期を終えてもまだ全部把握しきれてない。
正直、自分の使う教室を覚えるのでいっぱいいっぱいだ。
そもそも休日にも部活動があれば開門してるんだから裏門とか必要あるの?
「生徒会の人たちが休日にも仕事をするためによく活用しているそうですよ」
…美月、たまに私の考えよんでない?
怪しい人にそのままついていけば確かにそこには自己主張の少ない小さな門があった。
「ほんとだ。あったんだねぇ、裏門とか」
「まぁ、普通に学校通ってると使うことのないとこだしね。しかし、学校で何する気だろう、あいつ」
真由の顔が少し厳しい顔になった。
…別に休日に学校に来ちゃいけないってことはないのに、なんでだろう。
「生徒会の人にお届けものとか…」
「まっさか。あの会長なら郵便止めにして生徒会の誰かに取りに行かせるさ」
「じゃあ誰に…?」
「先生じゃない?」
「それが一番あり得そうですね」
「しかしこのままの進路だと裏庭だな。…少し、あやしい」
全員、いつのまにか顔が険しくなっている。
べつに場所がどこだっていいんじゃないかな。
興味本位で追っかけていたのに、本当に怪しい人だったってこと?
「なんでみんなそんなに険しい顔してるの?」
「普通の届けものなら自分の担当の職員室に運んでもらえばいいのにわざわざ裏庭を指定するのは変じゃない?」
「…他の人に見られるとマズい、ということですか?」
「たまたまかもしれないけど、こんなに人のいない日を指定したのもおかしくないか?」
みんな、頭良いから考えすぎてるわけじゃないの?
もう好奇心なんてレベルじゃない会話になっている。
何もわかってないのは私だけ?
「ほんとにやましいことなら学校の外でするんじゃない?」
「校内の人間が学校の中に持ち運ぶのがマズいものってこと…?」
なにそれ?
テレビとかの情報で麻薬!とか出てきたけどそれ別に学校じゃなくてもマズいよね。
なんのことだろう、みんなはわかったのかな。
少し間があいて、真由とあーやがそれぞれに腕組をして唸り始めた。
美月も頬に手を当てて苦笑いをしている。
「…わかったかも」
「少し、想像がつきました」
「ちょっとヤバいもの見つけちゃったんじゃないかな、私たち」
どうやら3人はわかったみたい。
…あれ?3人?
「どういうことだ?」
「あの…私、全然わからないんだけど…」
スギもわかってなかったことにちょっとだけ安堵を覚えつつ、そこまで困るヤバいものってなんだろうと考える。
真由は一つため息をつくと、腕組を解いて見覚えのある水晶を取り出した。
え?ライフウェポン?
「まぁ、まだ決まったわけじゃない。でも用心に越したことはないかな。
みんな水晶はちゃんと持ってる?」
「ま、まさかバトルになるの?」
なんで?なんで?
そこまでするほどのヤバいものってなに?
「そうと決まったわけではありませんが…、私たちだけで大丈夫でしょうか…」
「戦おうなんて思ってないよ。念のため。自分の身ぐらいは守れる準備をしておいたほうがいい」
「私、ニャヒルにメール送る準備しておく」
「そんなにヤバいことが起ころうとしてるのか?私は何気なく怪しいなと思っただけだけどそこまでのことじゃあ…」
あーやが携帯を取り出すのを見て、スギが珍しくとり乱す。
「シッ、先生と接触した…。あれは、2年の魔法言語授業の川谷だ」
真由が口に手を当てて遠くを見る。
私には遠くて姿形まで判別できない、真由は目が良いみたいだ。
それに、2年の先生だから見覚えがあったのかもしれない。
それからしばらく、息を飲むのも忘れそうな緊迫感の中で、真由がぼそりと銃といった。
「なにあれ、拳銃?」
あーやも見えていたみたい。
っていうか拳銃!?
あ、でもこの学校ならいいの?どういうこと?
「…まさか、こんな不正が…」
「不正?」
「この学校では生徒教師共に実際にある武器を使用するのはタブーでね。
確か昔ちらっと見た記憶じゃあ、あいつの水晶は銃に変化したはず。
あーや、ニャヒルにメールはだした?」
冷や汗をかいている周りと違って真由は一人冷静だ。
「ニャヒルにメールはもう送ったよ。たぶん、誰かしら連れてきてくれると思う」
「つまり、…どういうことかな?」
「…あまり考えたくありませんがライフウェポンを使うと見せかけて本物の銃を使用し、
誰かに怪我を負わせるつもりなのでしょう」
「生徒が本物のナイフとかを使用することはよくあるけど、先生がやっちゃ追い出されもんだわ。
それも銃じゃあ罪が重すぎる」
そっか、それで<学校に持ち込んじゃマズいもの>なわけだ。
…いや、外でもマズいと思うんだけどね。
それにしても、そこまでするほど先生は恨み辛みが溜まっているのかな?
こんなことできるのはきっと1回だけ、すぐばれると思う。
そこまでするほどの相手って?
「誰に使う気だろう…」
「恐らく、生徒会でしょう。学校内でかなりの権力をもつ生徒会を恨めしく思っている先生はよくいます。
しかし生徒会のメンバーは強い人たちばかりなので負けることはあまりないですし、
負けても魔力ダメージならすぐ復活します」
だから実際に怪我させてしまおうってこと?
「…これって、すっごくヤバいんじゃあ」
今更ながらに顔を青くしていく私に、みんながうなずく。
「すっごく」
「とても」
「…どうしましょう」
そうやって眉を寄せていると、急にスギが怒りだした。
「不正を許すわけにはいかないだろう。
今すぐ止めよう」
それはもっともな話だ。
…でも。
「…スギ、でもあれは本当に怪我するんだよ?下手すれば死んじゃうかもしれないことに首を突っ込まないで」
あーやの言うことも正しい。
それに私たちでどうにかできるのかもわからない。
「しかし、ここまで来て…。それに、あーやは出てくるな!危ないんだ!」
「スギが行くなら私も出るのは当然でしょ。それより、他の先生や誰か呼べばすむ話じゃない。
私たちが口を出せる話じゃない!」
珍しく声を荒げるあーや。
もう何が何やら。
「しかし!そうこうしている間に誰かを撃つかもしれないんだぞ!今止めなくてどうする!」
「ちょっ、静かに…」
だんだんと大きくなっていく声に慌てて真由が制止したけど間に合わなかったみたい。
「誰だ!」
「あ、バレちゃった」
「しまった…」
しょげる二人を余所に、立ちあがる真由。
「ふーむ、1年生ども。隠れてなさい。私がなんとかするよ」
前に出る気なんだ。
なんだか頼りないけど、大丈夫かな?
「で、でも真由一人じゃ…」
「大丈夫、これでもけっこう自信はあるから」
「咲等さん、今は任せましょう」
美月の言うことはいつも正しい。
…でも相手は先生なのに大丈夫かな?
真由が強いこともわかってるけど…。
大人しくしゃがむと、真由と美月から頭を撫でられた。
「良い子だ。スギ、お前も出てくるんじゃないよー」
気付くと、スギも立ちあがっていた。
あーやは座ったままだ。
「自分には中学からの経験もある!大丈夫です!」
「確かに頼もしくはあるんだけどね」
そう言うと、全員が溜息をついた。
なぜだろう。
少し嫌な溜息だった。
「確かに頼もしくはあるんだけどね」
重々しく口をひらいたのは真由だった。
美月は少し顔を伏せている。
「え?」
「スピードも経験も確かに申し分無い。でもやっぱりパワーが足りないよ、スギは」
「だから私はスピードで補おうと…」
「…あのねぇ」
私から見ると、スギだってすごく強い。
それでも、もっと強い人から見ると違うんだろうか。
違う世界を見ているみたいでなんだかすごく心が痛い。
「毎日必死に筋トレして、授業に取り組んで、偉いと思うけどね。
正直に言っちゃおうか?」
「え」
「君の攻撃はウザいだけで、決して痛くはないんだよ」
「…な…」
耳に痛い。
そんな言い方はないんじゃないかな、そう言おうと思ったけど美月が私の手を握ったから止めた。
目を見ると、今は止めてはいけない、そう伝わったからだ。
「スピードを極めるのは構わないよ。
でも今のスギの戦い方じゃ、仲間からしても迷惑だなって感じ」
真由は、たまに私たちのことなんかどうでもいいんじゃないか、と思うことがある。
笑い方は薄く、ゲームをしているかのような表情。
本人が良く言っている暇つぶしというのは本当のことなんだと感じられる。
「そこに居るのはわかってるんだ!出てきなさい!」
こっそりとみてみれば、さっきより近づいている。
これはそろそろヤバいかもしれない。
「ちっ、荒っぽいなぁ。
私だよ!川谷さん!」
言いたいことだけ言って真由は行ってしまった。
「お前は!…野中真由か…。ふんっ、まさかお前のような不良が休みの日に学校に来ているとはな…。
通常授業もそれぐらいまじめに来てみたらどうだ?」
「ちぇ。まだあんたの授業すっぽかしたこと根に持ってんだ。器が小さいよ、先生。
ま、だからこそそんな不正を働くんだろうけど」
今日の真由はいつになく辛口だ。
嫌いな先生相手でもいつもはあそこまで言わないのに。
「減らず口を…!血染めの犬め!そんなに血が好きなら今すぐ血染めにしてやる!」
「…何度も言うけど、獅子じゃなかったっけ」
相変わらず、真由は魔法を使わない。
打たれた弾を体で避けるだけだ。
「…真由はどうして武器を使わないんだろう?」
「あの人は基本的に魔力をお使いにならないんです」
そっか、ライフウェポンは魔力の塊だって最初の頃に言ってたっけ。
「どうして?」
「それはまたの機会に。さて、咲等さん。儀式を始めましょう」
「へ!?でも、真由は手を出すなって…」
今出ていったら私たちも怒られるんじゃないかな。
美月はすっと私の口に指を当てると、イタズラっこのように笑った。
「戦えないから役に立たないということはないんですよ」
そう言うと、ちらりとあーやに目配せをした。
頷いたあーやを黙認して立ちあがる。
「それでは、参りましょうか。咲等さん」
「え、どこに?」
「とりあえず、高いところへ」