Lily memo %



第五話 前編


待ちに待った夏休み。
でも私たちは寮生。
旅行なんて行くお金もないし、そんな気力もなく、毎日をだらだらと過ごしていた。

「…あぁつぅいー!」
「真由、夏休みだもの。しょうがないよ…」
「ほんと、アイスでも食べたいなぁ」

もうほとんど真由とニャヒルの溜まり場になっている私の部屋。
勝手知ったる我が家といった感じで二人はくつろいでいる。
ぼそりと漏らしたニャヒルの言葉に、真由は目を輝かせた。

「それだ!」
「はぁ?」

第五話 夏休みはやっぱり短い、気も短い




突然、活き活きとしだした真由のほうに顔だけむけて先を促す。
涼しくなる方法があるなら早く教えてほしい。

「どういうこと?」
「それはだな…コンビニにはクーラーという素晴らしいものが…」


そこで部屋にノックの音がした。


「あ、誰か来た」

お客さんなんて珍しいなぁ。
まるで自分の部屋のようにニャヒルが「開いてるぞー」なんて声をかける。
…ここ、私の部屋なんだけどな。

「こんにちわー」
「あーや」

のぞかせたのはもうすっかり慣れた顔だった。

「やっほー」
「ねぇ、スギ見なかった?朝から見かけないんだけど…」

そういえば今日は見ないなぁ。
毎日なにかしらと顔を合わせるスギ。
それは食事時だったりトレーニングルームだったり。

「トレーニングルームじゃないかー?他の誰かと遊んでるのは想像できな…、あ、でも美月のとこに居ないかあ?」

けだるそうに答えたのは真由。
たしかに他の誰かと遊んでるのなんて想像できないなぁ。
そういえば美月どうしてるかな。
里帰りするって行ってしばらく会ってないけど…。
会いたいなぁ、何してるかなぁ。



「来ませんでしたよ。お久しぶりです、みなさん」



思った傍から聞きなれた声がしてだらだらしていた体をぱっと伸ばす。

「美月!ひさしぶりだね」

嬉しくなって挨拶もそこそこに笑顔になる。
美月もつられたのかにっこりと笑い返してくれた。

「昨日の夜に帰ってきたんですが、里帰りのお土産をみんなに渡そうと思ってあーやさんについてきちゃいました」
「外国まで行くなんて大層な里帰りだよなぁ…」
「まぁ、そんなとこじゃなんだから上がりなよ」

まだだらだらと転がっているニャヒルと真由が口々に話しかける。
当然のように話す真由にちょっとだけ反抗してみる。
…別に、美月の前だから強気になってるわけじゃないよ?

「なんで真由が部屋主のようになってるの…」
「そうだそうだ。ここは咲等の部屋だぞ!」

ニャヒル、人のこと言えないでしょ…。
私たちのぐだぐだな空気に美月は少し苦笑いした後、ちょっとだけ顔を赤らめてきょろきょろし始めた。

「考えてみれば、咲等さんの部屋に来るのは初めてですね」

う…。
見られて恥ずかしいということはないけれどこの部屋にはあまりにも何もないから申し訳なくなる。

「ご、ごめんね。何も無くって楽しくないでしょ?」
「いえ、大事なものはちゃんと揃っていて綺麗な部屋だと思います」
「ほ、ほんと?良かった」

美月は相変わらずフォローばかりしてくれる。
ほんと、ご迷惑かけるパートナーでごめんなさい…。



「…なんだ、夏なのに春のようなこの空気は…」
「もう一緒に居て4か月ぐらいかー。まだ新婚夫婦のようだよ…」
「微笑ましいねぇ」



私たちの様子を静かに見守っていた三人がなんだかぐったりとした様子で談話していた。
っていうか今なんか変な単語聞こえたんだけど!

「し、新婚って何言ってるのニャヒル!」

確実に真っ赤になった顔を美月に見られないようにニャヒルのほうに手をのばす。
もう!いつもからかってくるんだから!

「良い熟年夫婦になれるといいのですけれどね」

耳を疑うような言葉がふわりと耳に入ってますます顔が赤くなる。
美月もそんなとこまでフォローしなくていいよ!
平然としている美月は、私と目が合うとまたニコリと笑った。
べ、別に冗談なんだから赤くなる必要なんかないのか!
そうだよね…なんで焦ってたんだろう…。

「まぁまぁ、暑いんだから興奮するなよ咲等。奥さんだって隣に居るんだから…」
「だ、だから、なんでそういう考えになるの!」

収まらせようとしていた火照りがまた目を覚ました。
真由のバカ!真由のバカ!(大事なことだから二回言っといた

「ん、そういえばニャヒルの奥さんはどうしたの?」
「奥さんって言うな。乙音だったら一人で頑張るって今日は新聞にする記事のまとめをしてるけど?
 でもあいつ書くの遅いからさぁ」

ニャヒルはぎゅーっと眉を寄せた。
それにしても新聞部って大変だなぁ。
夏休みまでやることがあるんだ。

「手伝わなくていいの?」
「いいの!あたしは自分の分は終わらせたんだ。そこまでしてやる義理はない!」
「またまた、まだ終わらないのかってそわそわしてるんじゃないの?ん?」
「う、うるさいな!」

親父モードを発揮した真由に突っ込まれて少し言葉に詰まったニャヒル。
本当は優しいから気になってはいるんだよね。

「あ、そうだ。そんなことより、ここにも居ないんじゃスギはどこにいるのかな…」
「そ、そんなことって…」

あーやの言葉にニャヒルは少し肩を落とした。
そういえばあーやだけを見るのって初めてじゃないかな。
あーやが居る時はいつも必ずスギが居たから。

「…ねぇ、二人は姉妹だって言ってたけど、パートナーでもあるんだよね。いっつも一緒にいるの?」
「うん、そうだよ。私たちは小学校からこの学園にいるんだけど、中学に上がった時かな?
 パートナー制度のことを聞いてすぐにスギが私にパートナーになれって言ってきたんだよ」

ってことは小学校からあったわけじゃないんだ、パートナー制度。
まぁ、物騒だもんね。

「寮の部屋も隣だし、基本的にいつも一緒にいるかな。まぁクラスは違うけど…。
 咲等と美月だってパートナーになってからずっと一緒にいるでしょ?」

言われて思い出す高校に入ってからの日々。

「うん、なるべくだけどその方が安全だしミッションにもすぐ対応できるから…」
「パートナーなんてどこもそんなもんよー。
 ニャヒルもちゃんと相手を捕まえとかないと、どっかで良い人にめぐりあってパートナー換えしちゃうかもよ?」

ニヤリと笑うあーやに、言われたわけでもない私の顔が青くなる。

「ぱ、パートナー換え!?できるの、そんなこと…」
「一応、仮契約も本契約も解約はできます。あまりする人はいませんが…」
「い、いや…あいつに限ってまさか…」
「わからないよ〜?いくら乙音ちゃんが一人じゃ戦えないっていってもニャヒルはど素人。
 もしどっかのもっと経験のある人に契約してくれってせまられたら…」

ニャヒルは想像したのか、ゆっくりと顔が青くなっていった。

「あるかなぁ?」
「ふふ、どうでしょうね」

私が尋ねると、美月はイタズラっこみたいに少し笑った。
…笑いごとにならないよ…。

「ちょ、ちょっと、出かけてくる。別に、乙音の様子を見に行くんじゃないからな!ほんとだからな!」

私たちの掛け合いがさらに不安を増させたのか、ニャヒルは少しフラフラと部屋を出て行った。
それを見て、真由もあーやも大声で笑いだした。
美月まで笑ってる。
…そういう私も少しだけ笑顔だ。

「あっははは!あからさまじゃないか!」
「素直じゃないなぁ」
「ふふふ」

ひと段落すると、真由が外に出ようと言いだした。

「さて、ニャヒルも行っちゃったし、暇だしスギでも探そうかな。あ、ついでにアイスも買いに行くか」

そういえばさっきも言ってたよね。
コンビニがどうとか…。
寮から出て学校へ行くまでの道にあるコンビニ。
ぼんやり寝坊して朝ごはんを食べそびれたときによく使う。
財布はたしかこないだ買い物にでかけた鞄の中だ。

「あーやと美月は?一緒に行く?」
「咲等さんが行くなら私もお供します」
「もちろん奢りですよねぇ。真由先輩」

真由はわかりやすくうろたえた。
そういえば先輩だったっけ。
あまりにもよく一緒に居るし年上にも見えないからついつい忘れがちになるなぁ。

「優しいですね、さすが先輩」

追い打ちをかけるようにニッコリ笑う美月。
…あれ、意外と腹黒?

「…うーん…ひ、一人一個までだぞー」

真由は無理して笑ってそう言った。

「やぁった!」

嬉しそうなあーやと激しく落胆する真由。
一人一個ってことは私もだよね!

「わぁい、アイスだー!暑い夏にはやっぱりスイカバーだよね」
「スイカバー?…って、なんですか?」

私の言葉に首をかしげる美月。
…え、知らない?スイカバー。

「残念ながら…冷凍みかんのスイカ版でしょうか?」

それ、すっごいまずいと思うよ…。
冷凍スイカとかたぶんほとんどただの氷みたいになってるんじゃ…。
それにしてもスイカバーを知らない人いるんだ。

「スイカ味のアイスキャンデーだよ」

あの種と称して入ってる粒チョコも美味しいし、なんといっても下の緑の部分だよね。
溶けやすいから結局緑の部分は最初のほうに食べちゃうんだけどそこはまさにアイスキャンデーって感じで美味しい。
あ、でも美月ってばお嬢様だからアイスキャンデーってもの自体あまり食べないのかな?
でもそれは偏見かな。
そっか!一緒に食べればいいのか!

「じゃあ一緒に食べよう。おいしいんだよ、あんまりスイカって感じしないけど」

そういうと、美月は嬉しそうに首を縦に振ってくれた。
美月は根っからの知識タイプだから知らないことを知れることが嬉しいのかもしれない。
私もどちらかというと世間知らずなタイプだから新しいことを知るのは嬉しい。
美月の口に合えばいいな、スイカバー。

「…ガリガリ君でしょ?スイカバーなんて量が少ないじゃないか…」
「いえいえ、ここはやはりハーゲンダッツでしょう」
「…買わないぞ、そんな高いもの…」

がっくりと肩を落としている真由には悪いけど、私はアイスを食べることが楽しみでしかたなかった。

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