--otone--
「先輩!覚悟してください!」
「あはは、なんかすっごい殺意を感じるねぇ。あたしなんかしたっけ?」
真剣に怒るニャヒルとひらひらと手を振りながら笑っている先輩。
この温度差が、少し怖い。
「あんたあたしにパートナーいないって嘘ついたろ!このっ、あたしの純情返せぇ!」
「あら、やっぱり私のこと狙ってたのねぇ。強かったら鞍替えしようと思って嘘ついたんだけどね。
残念ながら今のパートナーのほうが優秀そうだしニャヒルには悪いことしたわねぇ」
「ふざけんな!」
言葉とともに手にある棒で切り込んでいくニャヒル。
麗華先輩は、たまにこういう悪ふざけをする。
それが時に人をすごく傷つけるということを、先輩自身は知っているのかな。
「あっぶな!長い棒ね!ニャヒルのことはあまりリサーチしてなかったわぁ」
「うるさい!弱そうだったから注目してなかったって言えばいいだろ!」
「正解!」
麗華先輩は名が知られるほど強いわけじゃない。
でも、弱くもない。
私たちはきっと、経験の差で負けると思う。
新聞部として力の差や経験の差がどれほどのモノをいうかぐらいは少し頭の悪い私でもわかる。
ほら、麗華先輩は頭を攻撃すれば体の防御がおろそかになることを経験で知っている。
ニャヒルは、それを知らないからとにかく頭への攻撃を防ぐことに必死だ。
まだ武器も出していないのに、手だけであしらわれる。
「うわ!?」
負けるのは嫌い。負けるたびに誰かに嫌われる。
でも負けることがわかっていてもやらなければならないときがある。
私は、今がその時だって信じる!
「エアーズロック!」
久しぶりに扱う水晶をくるりと回し、魔法を使う。
衝撃吸収魔法。
そんなことしか、できないけれど。
「っと、助かった!何したかわかんないけど、さんきゅ、乙音」
「ううん、私はこんなことしかできないから…」
自分の身体に溶け込んでいった水晶。
ときおり、悲しくなるのはどうしようもないんだ。
少しニャヒルの視線を逃がすように顔をそむける私を、麗華先輩が見逃すはずがない。
「乙音はたしか補助魔法だったわねぇ。
持ち前の真面目さと筆記テストのおかげでなんとかC組にまで上がったみたいだけど、
これから実技がどんどん増えてパートナーも無しに大丈夫なのかしら?一人じゃ何もできないわねぇ」
補助魔法。
そう、それが私の魔法。
魔法を使うための媒体は<私自身>。
他人の筋力や魔力を一時的に高めたりすることができる。
けど、それは媒体である私に使うことはできない。
私一人では、生身でしか戦えないんだ。
「…パートナーはきっと見つかります!」
「運動音痴なのに?」
そう、私は生身で戦うしかないのに、それすらもできない。
「中学校の間も新聞部で頑張ったのにドンくさいからって誰にも相手されなかったんだもんねぇ」
涙が出そうになる。
新聞部に入れば、成績が上がれば。
頑張っても頑張っても、土にまみれても汗にまみれても、周りの反応なんて冷たいものだった。
「あぁ、もう!ごちゃごちゃうるさいな!乙音は乙音でがんばってるならそれでいいじゃんか!」
それは怒りついでの言葉かもしれない。
でも、私はニャヒルがいつも優しくしてくれるから。
最近やっとできた友達が怒ってるから、手伝いたいだけ!
「そ、そうです!私の問題です!麗華先輩が気にすることじゃありません!」
手をぎゅっと握りしめて一生懸命言い返す。
私は、大丈夫!まだまだ頑張れるんだ!
「えぇ〜?心配してるんじゃない。あなたたちってまじめだけど弱そうじゃない」
「弱いかどうかはこれからわかるよ!」
ニャヒルはニッと笑うと棒を振りかぶった。
麗華先輩は、少し距離を開けると水晶を取り出した。
「いいわ、確かめてあげる。」
これが私の武器よ。名づけて…ゴージャスナイト!」
「…だっさ…」
ニャヒルはいままでのヒートアップが嘘のように静まった。
「あれって、ただの細身の剣だよね。フェンシングとかそんなノリ?」
「うるさいわねぇ!レイピアという種類のちゃんとした剣よ!
魔法使いタイプの子たちはかっこいい技名みたいなの叫べるのに私たち接近戦タイプにはないのよ!?
さみしいじゃない!ズルいじゃない!」
麗華先輩、見栄っ張りだもんね…。
昔、新聞部のドアを金色にしようって言いだしたときはびっくりしたなぁ。
「それ、そこまで必死になることかなぁ」
「麗華先輩ってばなんかゴージャスっぽいの好きだから…。顔が地味で名前負けしちゃってるの気にしてるんだよ」
こっそりとニャヒルに耳打ちすると、麗華先輩が地団駄を踏んだ。
「うるさいわね。乙音もわざわざ説明してくれなくっていいわよ!
ふっ、これが名前負けしてない武器であることを見せてあげる!」
「自分の名前負けはもはや否定できないのか…」
ニャヒルも厳しいところ突っ込むね。
それが更に麗華先輩の怒りを煽ったのか、凄い勢いで攻撃を繰り出してきた。
「可愛い後輩だからって手加減しないわよ!」
「う、わ、くっ。くそっ」
「ふふ、ちゃんとよけないと刺さる痛みって強いのよ!」
「ふっ、ぬっ、攻撃を出す暇がない…!…うわぁ!」
止まらない攻撃にやめられない防御。
攻撃は最大の防御っていうけど、これは無理だ。
それでも、私には見守ることしかできない。
「チェックメイト…ね」
目の前には剣先を突き付けられたニャヒル。
私は、見守ることしかできないの?
「ダメぇ!」
「乙音!?」
「…うあぁあああ!!」
怖がりで臆病な私。
いつも誰の影にも入れなくて、隅っこで怯えていた私。
それでも、呆れずに傍に来てくれた。
「乙音!くそぉ!」
「くっ!」
「乙音!乙音!しっかりしろ!」
目の前がチカチカする。
でも平気、心が痛くない。
「うぅ…だ、大丈夫…痛いけど、気を失うほどの魔力じゃ…」
「む、失礼しちゃうわね。たしかに今日は武器に込めた魔力は普通のものだけど、それでもかなりきついはずよ。
背中からお腹にかけて貫通したんだから。これが本物なら血がどばどばよ」
あ、そう聞くとちょっと気が遠くなってきた…。
でも、まだダメ。
このまま、こんなところで倒れてたらニャヒルの邪魔になる。
下半身から力の入らなくなってくる体を腕だけで必死に引きずる。
「そんなの、すっごく痛いじゃないか!うー…なんで、なんで…乙音ぇ…」
冷たい地面を這ってた体が、暖かく抱きかかえられる。
顔にもぽつりと、小さな水滴が触れた。
こんな私のために、泣いてくれるんだ。
やっぱり、ニャヒルは誰よりも優しい。
私は小さなころから、どんくさかった。
他の人がささっとやってしまうことなのに私がやると時間がかかる。
給食はいつだってお昼休みまで居残っていたし、掃除はみんなより遅くて最後には全部押しつけられる。
誰も助けてはくれなかったし、それが普通なんだと思ってた。
ニャヒルと出会ったのは数か月前。
彗星のごとくやってきて、新聞部のダラダラした先輩たちに鬼のように突っ込んでいく彼女は私の憧れになった。
ネタの整理は全部やりきって、終わってない人がいれば進んで一緒に片づける。
彼女は私と違ってすごく要領の良い人なんだ。
ニャヒルの手伝いの対象は最近ではもっぱらどんくさい私だった。
きっと彼女も周りみたいに私のことが嫌になる。
ニャヒルみたいに要領の良い人ならなおさら…。
-お前はバカなだけなんだから、教えればちゃんとできるんだよ-
嫌になっても、彼女は私を捨てなかった。避けなかった。
おかげで私の整理はより速く、より綺麗になっていった。
それが嬉しくて、もっとニャヒルをすごいと思った。
「…ニャヒルが勝ちたいって言ったから…私、どんくさくてだれからも相手にされないけど…でも、ニャヒルはいつも、
情報整理を手伝ってくれて…せめて、役に立ちたくって…。でも一人じゃ何もできなくて…」
ごめんね、ニャヒルが私を手伝ってくれた分、恩返ししたかったんだ。
傍に居ても迷惑かけるだけかもしれない。
それでも、ニャヒルに何かお礼したかったの。
「しゃ、喋るなよぉ!痛いんだろ!」
「ごめんね…結局…何にも、…できなくて…」
ダメ、意識が飛んじゃう。
ここで倒れたら、邪魔になるのに。
「戦闘不能、ね。ざーんねん!ニャヒル一人で勝てるわけないし…これは私の勝ちかしら」
ニャヒルの喉がぐっと音を立てる。
ごめんね、…ごめんね。
「乙音も、適当に強い人たちの近くで隠れてれば良かったのにねぇ。
あたしみたいに性格が粗野で難癖があるけどでも強い相手をうまく捕まえなくちゃ…」
麗華先輩はまだ喋る。
麗華先輩、私のことやっぱり面倒くさかったのかなぁ?
新聞部のエースだもん…、ね…。
悲しくなって、体から力が抜ける。
でも、手は地面に落ちなかった。
「うるさい!」
…ニャヒル?
叫び声とともにぎゅっと握りしめられた手はすがるようで少し悲しかった。
「…先輩はなんだかんだでしっかりしてて、確かに、すごく魅力的だけど、パートナーになりたかったけど!
でもあたしは、あたしは!ほんとは、そんな風に役にたつとかで選ぶのは嫌だったんだ…」
初めて聞くニャヒルの涙声。
支えてあげられればいいのに。
私が、ニャヒルを支えられればいいのに。
違う、きっともっと前からそう思ってたのに気付かないフリしてたんだ。
ニャヒルはもっと強い人と一緒がいいからって…。
「確かに、咲等に置いて行かれたくなくて焦って無理に強い人と組もうとはしてたけど…。
でも、咲等たちみたいに、ちゃんと相手と思い合ってやりたいんだ!大事な相手だってほしいんだ!」
せめて今だけでも、彼女を支えてあげたい。
もうほとんど開かない目を少し開いて、彼女の頬に手を当てる。
涙に触れる前に、その手をまたしっかりと握られる。
「だから…乙音!しっかりしろ!もう少しだけ、もう少しだけ私に力を貸してほしいんだ!」
…ニャヒル……?
私にできること、あるかな?
ニャヒルのために、してあげられること、あるかな?
「二人で勝つんだ!あたしら二人は弱くない!証明するんだ!…私と契約しろ!」
契約…?
一生聞くことはないかもしれないと思ってた言葉に意識が少し起きだした。
私でいいの?
「仮契約でいい。やるぞ!乙音は、たしかにどんくさいけど、でも、…嫌いじゃないんだ…」
「…う、うん!…」
ほとんど力の入らない体に一生懸命に魔力を込める。
思い描くのはずっと夢に見てきた二人を包む魔法壁。
口にする言葉は、ずっと憧れていた契約の言霊。
<この場における全ての結合を拒絶します>
「…あんたは弱くなんてない。一人じゃ、ないんだ…」
<今、この場にいるのは、歩みを共にする二人のみ。魔力を結び、絆を結びます>
「よし!行くぞ、乙音!」
「うん!」
体中にみなぎる力。
なんだろう、今ならきっと何があっても大丈夫、そんな気がする。
「ふふーん、そんな弱い二人が仮契約したって甘い甘い。身の程を知りなさーい!」
麗華先輩の高笑いも胸に響かない。
ニャヒルが、居るんだ!
「フィジカルフォース!」
戦えないから、せめて彼女を守れるように!
体を包む物理防御結界。私自身には使えないけど、ニャヒルのことは守れるから。
私にできる補助魔法、全部使ったって絶対ニャヒルを勝たせる!
「…!?…な、なんだ!?」
「私の使える力!全部使うから!だからお願いニャヒル!絶対勝って!」
「…よし、よくわからんけど絶対勝つ!」
意気込むニャヒルは、私にとってまるで王子様だ。
言葉の荒い、でも面倒見の良い優しい王子様。
今のニャヒルは麗華先輩よりゴージャスに違いない。
「ふん、遠吠えじゃない、遠・吠・え。負ける気しなーい」
「その減らず口、いますぐしゃべれなくしてやる!」
棒を避けて剣先を突き付けようとした先輩。
でも効かないんだ、私の魔力のほとんどを縫って作った見えない鎧だもの。
当然のように弾かれた麗華先輩は大きな隙を作った。
麗華先輩は防御が弱いから、攻撃さえ当たれば!
「!?…つっ!そんな、1年生なんかに…」
慌てて体勢を立て直そうとする先輩の後ろに、すっと黒い影。
「動揺が行動に出ているぞ」
ニッと笑うその顔は、麗華先輩にはまるで死神に見えたに違いない。
手にしているのは、ナイフだというのに。
「なっ!?いつの間に!」
「このカメラ、もらい受ける」
「何!?」
追いかけようとする先輩。
でもまだ、ニャヒルとのバトルが終わってない!
逃がすもんか!
「トラップウォーカー!」
麗華先輩の足元から飛び出す無数の足枷。
これで、やっと…。
「あっ、しまっ」
「くらえぇええええええええええええ!!!!!!!」
ニャヒルは思いっきりライフウェポンを振りかぶった。
「そんな、私が1年生なんかに…いやぁあああああああああ!!!!!」
やった、ニャヒルが勝ったんだ!
嬉しくなってニャヒルに飛びつこうかと思ったけど、足がもつれて思いっきりこけた。
あれ?だんだん目の前も暗くなって…?
--ayami--
「あれ?」
どうやらニャヒル達は終わったみたい。
咲等たちも気付けばバトルを終わらせていた。
相手もそれに気付いたのか、すっと斧を下げた。
「…あーあ、麗華が負けたんやったらパートナーの私はもう戦うこたないわ」
なにしくさっとんねんアイツなどとよくわからない言葉で文句をたれるその人は本当に戦う気がないようだ。
「仇打ちとかしないんですか?」
「そんなんせぇへんよ。そもそもうちらの間にはそこまでの絆あらへんもん。
成績やって足りてるし、そこまで頑張らんでええわ。あんただけ倒してもミッションはクリアになるけど、
その前に他のヤツらから袋叩きにされるの目に見えてるし」
そういえば2年生のミッションはなんだったんだろう。
私だけ倒してもってことは倒すこと自体がミッションだったのかな。
それにしてもなんとも淡泊なパートナーだこと。
「あーらら。淡泊ですねぇ」
「もともとお互い便利やからパートナーになっただけやしなぁ。
ま、しゃーないしおぶって帰るぐらいしたるか。いくら1年生といえど手加減無しの一撃や。1日は寝たきりやわ」
悪い人ではないみたい。
きっとそれぞれの事情ってもんがあるんだろうね。
「お気の毒です」
ゆっくりと去っていく関西弁のお姉さんにゆっくりと手を振っていると、ざりざりと土を踏む音がしたので振り返った。
声もかけずに寄ってくるその人はもちろん私のパートナーだ。
「全部終わったみたいだな」
「スギ。物品とれた?」
その手を覗きこむと、カメラが見えた。
「ニャヒルたちの大健闘。私は必要なかったかもしれないな」
カメラを受け取ってぶらりと手にぶらさげる。
へぇ、良いカメラ。いいなー。
でも返さないといけないんだよね。
あ、でもあの人たち帰っちゃったけどいいのかな?
ふとスギの声が少し元気が無かった気がしてニヤリと口角を上げる。
「ちょっと拗ねてるんだ?」
「うるさい。拗ねてない。しかしまぁ、咲等も物品はとったみたいだしほんとに必要なかったかも…」
本気で落ち込み始めた困ったお姉ちゃん。
思いっきり落ち込ませると後が面倒臭いんだよね。
フォローぐらいはしておこうかな。
「まぁまぁ、成功したんだしいいじゃない、ね?」
「むう」
スギはまだまだご機嫌斜め。
帰ったら肩叩きぐらいしてあげようかな。
--sakura--
「う、ううん」
「咲等さん!気がついたんですね!」
ぱっちりと目を開けると、ドアップの美月が居て少し驚いた。
「あ、あれ?うわっ、いたたたた…」
慌てて起き上がろうとすると、背中にジリジリとした痛みが走る。
「咲等さん!?」
「手加減はしたけど、痛みはしばらく残るわ。我慢して」
「は、はい…」
そっか、副会長さんに最後に気を抜いて燃やされたんだっけ。
本当なら火ダルマかぁ…、うわ怖っ。
「いたた…。結局負けちゃった…」
「そうね。戦闘としてはあなたの負けだわ」
副会長さんは言葉にも容赦がないみたい。
「初心者にしては大したものだけど、やっぱり経験不足。…それより、私のストラップ、早く返して」
「え!?あ、はい。あ、でも、えーっと…?」
差し出された手にストラップを返しかけて、ちょっと止まる。
これ、誰かに確認してもらわなくていいのかな?
やっぱりミッションを出した牛尾先生かな。
でも周りにそれらしい人は…。
「大丈夫よ。ちゃんとミッションクリアは確認したわ」
「会長?今日は用事があるって…」
木の陰から出てきた生徒会長さんはペロリと舌を出してクスクスと笑った。
「えぇ、でも予想外に早く終わっちゃったから牛尾先生の代わりにこの場を監督してたのよ。
愛梨、私の代わりを務めてくれてありがとう。あなたもミッションクリアよ」
「…?…ミッション?」
「2年生のテストも兼ねていたということですね」
「そう。2年生はあなたたちの中から一人でも完全に戦闘不能にすればクリア。
1年生はグループで相手の所有物を1つでも強奪できればクリア」
「それで私のストラップを…」
完全に戦闘不能って…私のことだよね、やっぱり。
美月は目が合うと申し訳なさそうに笑った。
申し訳ないのはこっちだよ…。
また足を引っ張っちゃった。
「さ、咲等ちゃん、早く返してあげて、そのストラップ」
「あ、はい。どうぞ」
慌てて落ち込んでいた体を伸ばしてストラップを手渡す。
副会長さんは少し寂しげに(表情変わってないけど)手にとったストラップを見つめた。
ライオンの可愛いマスコットだった。
意外と可愛いもの好きなのかな。
「…紐のところが…」
「千切れちゃったわね。今度一緒に新しいストラップでも買いに行く?」
「お気持ちだけ受け取っておきます。それでは、私は寮に帰ります」
「はいはい。私も帰るわ。じゃあね、みんなちゃんと帰るのよ」
はーいと返事をすると、会長さんは満足そうに帰っていった。
「ねぇ、そのストラップもう使い物にならないんじゃない?私がもらってあげようか?」
「遠慮します。それに会長はストラップをつけすぎです」
「いいじゃない。可愛いものが好きなのよ」
二人は仲がいいのかな。
会長さんと副会長さんってぐらいならたぶん仲良しだよね?
「…さて、咲等さん。立てますか?」
「うん。痛いけど足は大丈夫だから」
「手をお貸しします。捕まってください」
先に立ちあがった美月に手を差し出されて、条件反射で手をとろうとして慌ててひっこめた。
「え、でも私土いっぱいついてるし汚…」
「そんなことより、咲等さんがちゃんと部屋に帰るほうが大事です」
これ以上迷惑かけたくないっていうのが本音なのを気付いたのか遮られるように断言された。
美月はきっとバトルだけじゃなくて心も強いんだと思う。
傍に居て、彼女の心はとてもまっすぐに感じる。
こういう優しい人には、きっとその場しのぎの嘘なんて通じないんだ。
「…うん、ありがとう」
観念して手をだすと、ふわりと笑った美月と目が合って恥ずかしくなった。
…私、ちっちゃいなぁ。
いや、体は大きいんだけど。
美月の肩に少しだけ体重をかけながら、みんなが集まっているほうへゆっくりと歩いて行く。
「みなさんすみません、遅くなりました」
「おっつかれー」
ニャヒルのほうに顔を向けると、その肩には乙音ちゃんの安らかな寝顔があった。
何があったのかはわからないけど、ニャヒルのほうもすっきりした顔をしている。
ほっとしていると、隣から私よりも嬉しそうな声で美月が笑っていた。
「あら、ニャヒルさん。乙音さんと仮契約を結んだんですね!おめでとうございます!」
「な、なんでわかるんだ!?」
わかりやすいほどのうろたえかた。
ほんとに、なんでわかったんだろ。
「美月ぐらい魔力が大きくてしっかりとした魔法使いなら魔力の流れとかいうのでわかるんだろう?」
「ましてや契約ほやほやなら魔力の流れが見えやすいし、一目瞭然だよね」
意地の悪い顔で笑う姉妹。
二人って変なとこ似てるね。
っていうか魔力ってすごいなぁ。
そんなことまでわかっちゃうんだ。
あれ、でもすごいのは魔力じゃなくてそんなに大きな魔力を持っている美月のほう?
「えぇ、乙音さんのとても優しい流れがニャヒルさんの中に流れてるんです」
「や、やめて!そういう恥ずかしいノリは苦手なんだ!」
「どうして?すごくいいことじゃない。乙音さんも穏やかな顔で寝てるし、ニャヒルは信頼されてるんだねぇ」
「ひぃっ、冗談じゃない!り、利用してやるつもりなんだ!そういう信頼とか!ないからな!絶対!」
美月と二人で良い事だと微笑むと、ニャヒルは逆に真っ赤な顔で怒りだした。
変なの、良い事じゃないの?
「またまたぁ。本当はけっこう気に入ってたでしょ?乙音ちゃんのこと」
冗談だと思って美月につかまってるのとは逆の手で肩をポンポンと叩く。
ニャヒル、耳まで真っ赤だよ?
みんなもニコニコしながらニャヒルのほうを向いている。
「素直じゃないな。たたき起こさずにおんぶまでしてやって…」
「ニャヒルさんも口ではいろいろ言いますが優しい人ですよ」
「今はやりのツンデレってやつかな。可愛い!」
「やぁめてくれぇえええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!」
「んにゅ…幸せだなぁ…ふふふ」
かくして、ニャヒルにもようやくパートナーができました。