Lily memo %



第四話 中編



--yuki--


「…遅いわ」

ぽつりと漏れる響きは誰に当てたものか。
とりあえず、うちらではないわな。

「人数多いんでしょう?そう焦ることないわよ、副会長さん」
「そうそう、もしかしたら今からもめとるんかも知らんで。気長に待ってあげようや」
「くだらない。そもそも、チーム戦であることが間違ってる。今年の教師は何を考えているのかしら」

今度は教師にケチつけるんかい。
うちの相方かてそうやけど短気なヤツが多いでほんま。
関西人の方が短気やってよう聞くけどそら間違いや、と思てる。
むしろ関西人のが寛大やしほんま。

「あら、くだらないなんてひどいわねぇ。あなたこそ大丈夫なの?
 忙しい会長の代理で来たらしいけど、マスターも無しで魔力はちゃんとあるのかしら」
「心配いらないわ。私のマスターは自分の分の魔力しか使わないどころか、余った魔力は私に流してくる。
 …ほんとに、余分だわ。全力を出さなくったって私が負けるわけないのに」

相方と副会長のコトバの小競り合い。
聞いてる方もイライラしてくるわぁ。
賢いヤツってーのはみんなそうやんなあ。頭で喧嘩するしほんま嫌やもー。
もう少し日本語喋ってくれって気ぃになるわ。

「えらい自信やなぁ。自分が失敗したら会長がミッション失敗したことになるんやで?
 あんま調子にのらんほうがええと思うけどぉ」
「あなたたちこそ、気をつけたほうがいいわ。牛尾先生の話では今年一番の期待の星を集めたそうだから。
 調子にのってたらあっさりやられるわよ。会長も今回参加できないことを残念がっていたもの」

副会長さんのイヤミに近い忠告に相方がフンッと鼻を鳴らした。
あんま女の子がやらんほうがええと思うよ、それ。品あらへんし。

「これだから生徒会長の犬は…。ちゃんとそれぐらいリサーチ済みよ、新聞部をなめないでほしいわね。
 あの美月・アレクサンドだっているんだもの。気合は十分いれといたわ」

十分、のところで鼻高々と胸を張った。
…相方として恥ずかしいわ。
突っ込みかボケかってーと確実にボケやん。

「そう。頼もしいわね」
「感情こもってないやん」

どっちかっていうと副会長さんもボケ倒しやな。
いやむしろボケ殺し?
しょーもない小競り合いに耳をぐりぐりほじくって前を見ると、ようやっと1年の登場。
あー、これで会話から逃げられるわぁ!

「お、きたきたぁ!待ってたでぇ1年生!勝負しぃ!」








--sakura--


活きのいい関西弁に3人の姿。
あれが私たちの相手の先輩方かな?
見覚えが…。

「うわ!?麗華先輩だぁ!」

山本さんが悲鳴じみた声をあげる。
よく見ればたまにニャヒルを教室まで迎えにくる先輩だ。
新聞部だから山本さんも知ってるんだな。

「3人…、うち二人はパートナーですか」
「へ?パートナーって…誰と誰が?」
「え?あぁ、あちらのお二人ですよ。あとの一人は副会長さんですから」

うわ、ほんとだ。副会長さんもいる。
…ってことはやっぱり負け戦?
美月の声にニャヒルが過剰に反応した。
…どうしたんだろう?

「なっ、なぁにいぃぃぃいいい!!!?」
「ひゃっ!?」
「ニャヒル、どうしたの?」



「パートナー持ちなんて聞いてない!っていうよりあの人パートナーいないって自分で言ってたぞ!」



あの人と言って指をさした先には例の先輩。
麗華先輩と呼ばれたその人は涼しい顔をしてこっちに微笑んでいる。

「麗華先輩ってひそかに狙ってたのにぃい」
「そうだったんだ…」

ひざをついてダンダンと地面をたたくニャヒルに心配そうに近寄る山本さん。
それを見てスギは他人事といった顔でフォローにならないフォローをした。

「残念だったな。恨みはミッションをこなすことで晴らせ」
「スギ、言いすぎよ。失恋した人はちゃんとレストランへ連れてってあげなきゃ」

…パートナーのあーやも結構良い性格してる?

「いつの時代のネタだよ!うっがぁああ!これだから弱肉強食社会はぁ!」
「…えっと、ニャヒル。落ち着いて。とりあえず今はミッションのことを考えよう」

誰もニャヒルを慰める気などないようで慌てて落ち着かせようと試みる。
けど太秦ニャヒルというお人はなかなか怒ると手がつけられないことをこの数カ月で私は知っているのでした。
…誰か止めようよぅ…。

「よし、私はあのパートナーズを倒す!同じ新聞部として負けないぞ!」
「じゃ、じゃあ私も!」

ついでと言った形にバンザイする山本さん。
…あのー、倒さなくてもいいんだよー?物品いただくだけでいいんだよー?
ヒートアップした二人には聞こえない。
ひたすらうぉーなどといった雄たけびを上げて気持ちを高めている。
…だから、あーやも美月も笑ってないでストップかけてよ。

「あの3人のうちのたった1人でも何かとればいいのよね。狙うならやっぱり新聞部の先輩がいるほうかな」
「そうですね。副会長さんはマスターが今いませんが、普通に戦って勝てる相手じゃないですから」
「だったら、私たち二人か咲等たち二人、どちらかが副会長を足止めしよう。もう片方はあの二人から物品を奪うことに集中する」

内部生である3人はミッションに集中することにしたのか、ニャヒル達をスルーして相談を始めた。
…協調性があるようなないような。
そして会話に混ざれない自分が少し悲しいので先輩たちの方を見ることにする。
副会長さんと目が合うと、すごく睨まれた。
…何かしたかなぁ…。

「ミッションの成功だけで考えたらスギさんとあーやさんが物品を奪うことに集中したほうがいいですね。
 こういうことには素早い人が適しています」
「なら、そうしようか」

話はまとまったみたい。
聞いた話を要約すると…?

「…つまり、私たちは結局また、生徒会が相手ってこと?」

おそるおそる美月を見ると、苦笑で返された。

「…そうなりますね。がんばりましょう」
「はい…うぅ、めげそうだぁ」

べそべそと前を向くと、待ち疲れたのか先輩方はゆっくりと歩み寄ってきた。
それでも少し距離を置いているのはこの間授業で習った<間合い>ってヤツかな。
自然とそれを掴むんだからやっぱり経験って大きいよね…。

「相談は終わったぁ?かわいい後輩たち」
「ちゃぁんと待ってあげたんよー。サービスっちゅうやつや」
「…低レベル」

三者三様に言葉を述べると、全員水晶をくるりと回した。
武器も見事に三者三様だ。

「ふん!覚悟しろ!今日のあたしは尋常じゃないぞ!」
「そ、そうです!麗華先輩には負けません!」

意気込むニャヒルと山本さんはもはや麗華先輩しか目に入ってない。
…たしかに尋常じゃないなぁ。

「なぁ、あいつらうちらのこと見えてへんみたいやねんけど」
「見えてないのはあなただけよ。私の相手はあっちみたいね」
「なぁんや。1年生やる気まんまんやん」
「ほんと、まっすぐで…嫌いな目」

…私、ですか?
私、目の形変だったっけ?
隣に立っている美月を見ると、頑張りましょうと微笑まれた。
そうだよね、嫌われてるからって何ができるわけでもないし…。
あ、でも容赦とかなくなるのかな、怖いなぁ。

「副会長さんは魔法がメインです。
 ただ彼女は武道も習っていて合気道が使えるそうなので接近戦にも十分気をつけてください」

ぶ、武道?
そっか、ライフウェポンを使わない方法というのもあるんだ。
そういえば前のミッションで真由がライフウェポンを使っていなかったことを思い出した。

「うん、わかった。儀式は前もって済ませておいてよかったね」
「今回は時間を稼いでくれるひとはいないですから。では、はりきっていきましょう」
「うん!がんばろう!」








--sugi--


「あーや、いけるか」
「うん、私はガンガン押していけばいいんだよね?」

あーやは全体を見回した後、にっこりと前を見て頷いた。
…あーやは少し表現が雑なときがあるな。
勉強はしっかりしている方だと思うがどうしてこうも緩くなるのか私には到底理解できそうもない。

「あぁ、その隙に私は物品をいただく」
「どれ取るの?」

教えておけばその分どこに隙をつくるかわかってくれているからこちらも行動しやすいというもの。
…つくづく優秀な妹だ。

「関西弁の武器の水晶か、新聞部の先輩とやらの腰についてるカメラポーチだな。
 カメラポーチが一番取りやすそうだが問題はちゃんと接近できるかどうかだ」
「わかった、こちら側の新聞部の二人はあの先輩に固執してるみたいだから私はあの関西弁に集中するね」

関西弁…。
見た目通り力押しなタイプか。
なら、あーやが負けるわけないな。
しかしこないだのように万が一があるかもしれない。

「…無茶はするなよ」
「もう、心配症なのは悪い癖よ?おねえちゃん」
「おねえちゃんだからだ」

私の言葉に、あーやはやれやれと首を振った。
…間違っていないはずだ。
姉だからこそ、妹は守らなければ。

「いっけぇえええええ!!!」
「勇気!打撃系は任せた!」
「はいはい、よっこら!」
「な!?斧!?」

左を見ると、既にニャヒル達はバトルを始めている。
ツールバトルの名にふさわしい道具と道具のぶつかりあいだ。
そう思うと、やはり力の無い私のこのナイフというのは少し寂しい気もしないでもない。

「斧やない。アックスって呼んだほうがかっこええやろ」
「かっこつけんな!って、え!?」

ニャヒルは怒りであまり先を考えていないようだ。
力の差というのを考えなかったのだろう。
まっすぐに棒を振り下ろして当然のように斧で防がれる。

「あかんなぁ、そんな棒とうちの武器やったらうちのほうが強いに…決まってるやろぉ!」

赤子のように弾かれたニャヒルはそのまま少し後退するが、諦める気はないようだ。
咲等もそうだが、こちらは少し力の差というのを教えないといけないな。

「くっ…そぉ!」
「ははは!威勢がええわぁ!」

相手は文字通り、痛くもかゆくもないのだろう。
こういうパワータイプには少し小回りの効く者か、その力を上回る力を持つ者が適当だ。

「ニャヒル!下がって!」
「何がきたって無駄無駄…うぁ!?」



「ふふーん、そんな斧と私の太ーい金棒じゃあ私のほうが強いに決まってる!」



…油断はするなと言ったのに。
どうしてああやって人を煽るんだ、あいつは。

「くっ!このうちが押し返されたやって!?やるやんか、1年生!」
「あーや!」
「大丈夫!ニャヒルはこいつのマスターをお願い!っきゃ!?」

あぁ、よそ見なんてするから!
いつもよそ見するなって言ってるだろう!

「あーや!よそみするな!」
「っつぅ!大丈夫だってば!スギは物品奪うことに集中して!」
「!…わかった」

あーやは怒ると手がつけられない。
ここは素直に引きさがろう。
しかし…また、無茶をしたりしないだろうか。

「このっ、ガンガンガンガン痛いじゃない!」
「当たり前や!力だけやったら1年先輩なうちのほうが強いに決まってんねん!」
「んなのっ、わかんないでしょおっ!」

心配だ、早く終わらせよう。








--sakura--

本がバラバラと開く。
魔法を扱う人たちでもその媒体はとても違う。
美月は杖だし、この人は本だ。
それは少し青白く光って、副会長さんの幻想的な部分をより強調していた。

「…奥井咲等」
「そ、そうですけど」
「そう、あなたが…。アレクサンドさん、悪いけどこの子は倒させてもらうわ」
「嫌です。そんなこと、私がさせません」

あ、やっぱり面識あるんだ。
美月も結構、生徒会の人たちと仲いい?



「そういう、パートナー愛って嫌い」



ぼそりとそう呟くと、バラバラとページを変えまくっていた本がピタリと制止した。
その瞬間、青白い炎が浮かび上がる。

「わっ!?」
「少し下がってください咲等さん!アクアキャノン!」
「フレアバースト!!」

うわ、うわわ。
これが本物のドンパチか…。
いや、それどころじゃないよ!うん、とりあえずジャンプしよう!
っていうか私の持ち味ってこれしかないし…。

「くっ…数が多い!これじゃあ咲等さんがあの人に近寄れない!」
「近寄らせない。手で触れずに全滅させてあげる!」

「覚悟しなさい。ブレイズカノン!」
「ブルーウェーブ!」

ぎゃー!これはジャンプしたって避けれませんー!近寄れませんー!
予想以上の大きな魔法の打ち合いに半分ビビリ腰の私。
ビビらないほうがおかしいよ!

「…弾かれた。さすが、魔力量は3年生を凌ぐと言われてるだけある」
「負けません!もう一度!ブルーウェーブ!」
「二度も同じ魔法は食わないっ」
「きゃあ!?」

あ、ヤバい。




「止めを…」




なんのための大きい体だ!
今動けなくてどうする!




「ぐっ、あ、あつーーーーっ!?」
「え…、さ、咲等さん!?」

背中が丸焦げになった気がして慌てて地面を転がるけどそういえば魔法でしたっけ、と思って地面に突っ伏する。
うぅ…無様だ…。

「大丈夫ですか?咲等さん!私をかばうなんて…」
「うん、熱かっただけ!平気!」

せめて心配をかけないようにすっくと立ち上がるけどほんとはまだ背中が痛い。
ハロゲンとか背中に投げつけられたらこんな感じかなぁ。
いや、真夏の太陽の下にあったプールサイドの鉄板とか…。
それにしても美月が私よりちっちゃくて良かった。
スッポリ収まったから美月はどこも痛くなかったみたい。

「よし、反撃!」

痛かった、でもおかげでちょっと気合い入った。
べそべそ言ってる場合じゃないよね。

「…咲等さん、お願い、してもいいですか?」

ちょっと控え目に上目づかい。
これで断れる人なんているんだろうか。
美月は可愛いなぁ。

「なるべく、大きな魔法を使って私がおとりになります。
 その間に咲等さんはバレないように近づいてほしいんです」

もちろんやりますとも。
私はちょっぴり頭が弱いから、むしろありがたい。
けどそれってお願いというよりは提案じゃ…、あ、でももう少し強要したいならお願い?
…どっちにしろやるんだけどね。

「さて、勝負はこれからです!ブラストスパーク!」
「…目ざわり」

ゆらりと青白い炎が大きく立ちふさがる。
炎の壁、といったところかな?
でもおかげで彼女の視界は不明瞭だ!
今のうちに近くにある木の影に隠れる。
遠くに跳ぶなら、高いところから!
あれ、ところで美月の提案っていつものパターンだよね。
…私がもっと賢くって経験があればこんな提案、美月がするはずないんだろうなぁ…。

「プラズマボール!」

美月は私が移動したのを確認すると、大型の魔法から細かく広範囲な魔法に変えた。
雷を使うのは少しでも相手の目を眩ますためだ。
やっぱり美月は賢い。

「…猪口才な」

やっぱり!
効率が良い方法を選ぶ副会長さんはまた炎の壁を広げた!
これで私が近寄りやすくなる。
思いっきり跳んで鎌を構える。
上からじゃない、今度は後ろから!
足音を立てないように一足で近寄って鎌を振りかぶった。

「甘い!」

気付かれてた!
鎌の柄の部分を取られ、空中に投げ上げられた。
い、意外と力持ち!?
どうにかしたい一心で、足を振りあげると、体がまたくるりと回った。

「っとぁ!?」
「なっ…」

自分の意思で鎌を水晶に戻して、右腰にぶらさがっているモノに夢中で手をのばした。




「てぇえい!!」
「!?」




右手に確かに何かをつかんだと思うと、土に転がりこんだ。
痛いけど、なんとか顔をあげて手の中を覗き込む。

「と、とった!物品!」

やった!と言おうとして、背中にひんやりと何かを突き付けられた。




「…返して!」




体中に走る燃え盛る炎の熱さに声も出なかった。
今度こそミッションクリアしたい一心で両手をぎゅっと握りしめた。

「咲等さん!」

う…目が開かない。
これが、真由の言ってた全身麻痺状態ってやつかな。
美月の叫び声と副会長さんの荒い息が聞こえる。

「咲等さん!大丈夫ですか!?咲等さん!」

ごめんね、大丈夫じゃないかも。
やっぱり美月には不相応なのかな。
…ちょっと、悔しいな…。

「ミッションクリア…。まさか投げられてる途中で体をひねって背中に回るなんて…強引だわ。予想できなかった。
 安心して。思わず近距離で魔法を使っちゃったけど、すぐ目が覚める」
「は、はい…」

ブラックアウトする意識の中、もっと強くなりたい、とちょっとだけ願った。

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