「ここにきて早2か月が過ぎました。だいぶ学校生活にも慣れてきていい感じです」
「誰としゃべってんの?」
茹だるような暑さの夏の放課後、クーラーのついてない寮の部屋には帰る気がしない。
でも、クーラーのついた寮のロビーは人が多くて暑さが増して行く気がしない。
「うん、ちょっと自分の心を落ち着かせてた」
「現実逃避だなぁ」
しょうがなしに自分の教室でうだうだと机の金属部分にくっついている。
そんな、夏の放課後。
「…しょうがなくないかな」
「しょうがないな」
ニャヒルも私も、限界です。
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「授業もだいぶダルくなってきたねー」
「だねー。ほんっとやになってくるよ」
ここ最近はダラダラしてるのに今日は更にダラダラしてる私達。
そんな私たちを見ていると更に暑くなると怒られる。
「ダラけるな。授業も強くなる一環だ。まじめに受けろ」
「スギさん。この季節はしょうがないですよ。梅雨でじめじめしてますから」
フォローに入る美月も暑そうだ。
涼しげな顔してるけどこめかみには汗が伝っている。
「…っていうかいつの間にこんな団体になったんだろうあたしら」
ニャヒルにならってぐるりと顔を上げると、隣どうしの私達の前の席に、他の教室から来た美月とスギが座っている。
美月は授業が終わると、いつも私のところへ来てくれる。
スギは色々とお説教しつついつもこの教室へ来る。
それが定番化して、いまやこの教室は私たちの溜まり場状態だ。
「団体というか4人ですが…。と、5人目がいらっしゃいましたね」
美月がふいにドアを見やると、ドアが元気に開いてその元気さを象徴するトレードマークの肩出しパーカーが現れた。
…ドア、そろそろ壊れそう。
っていうか今度はおでこに絆創膏が…。
どうやったらそんなに毎回怪我するの。
「やっほー。ってなに!?2人ぐらい溶けてる!?」
机にひっつく私とニャヒルを見て、真由は突っ込んだ。
真由って結構お笑い器質だよね…。
「暑いんだよーう。体がべたべたするぅー」
うだうだと机にひっつく私を見て真由はうわぁとげんなりした声をあげた。
「ふっ、ふふふ…とければいい、とければいいさ、この世界の理にとけてしまえばいい!」
「ニャヒル…ついに頭まで溶けたか…」
「そうっとしといてあげなさい。ストレス社会なんだよ…」
呟くスギの肩をそっと叩き、涙をぬぐう真由。
それが癪に障ったのかニャヒルはがばっと起き上がると発狂した。
「だあぁあ!暑いんだよ!いいじゃんか溶けるぐらい!みろ!咲等なんて喋る気力もないぞ!」
ビッと指をさされたけど人を指さしちゃだめだよーなんて言う気力もなく、更に机にすがりつく。
あー、机きもちいいー。
でもすぐ体温でぬるくなるー。
ぬるい机気持ちわるいー。
「咲等さん、しゃんとしてるほうがまだ涼しいですよ」
「がんばる…」
美月に苦笑されたのがちょっぴり悲しくて名残惜しげに背筋を伸ばす。
そもそも帽子なんてかぶってるから余計暑いんだけどね…。
それに冬生まれなせいか暑いのは昔から苦手なんだよねぇ…。
「で?熱いだけじゃないでしょ、理由。なんでそんなにやる気がないの?」
真由の言葉にニャヒルと二人で顔を見合わせた。
「決まってるじゃん…」
「中 間 試 験 !!」
あぁ…言葉で聞くのも嫌だ…。
どうしてどんな学校に行っても試験ってあるんだろう…。
「試験って聞くと…どうしても胃が痛くなってくるんだ…」
あぁ、そんなこと言ってる傍からお腹が痛くなってきた…。
机にまたへばりついてお腹抱えて呻く。
美月が頭を撫でてくれるけどそれでは落ち込んだ気分は持ち直しても体の拒否反応は収まらない。
「筆記テストを終えて次は実技テストですものね」
「実技って…授業でなんとか武器の扱いに慣れてきたけど、どういったものがでるんだろー」
「中学校の時は筆記しかなかったからな。真由さんはご存じですか?」
スギが振り返って真由を見た。
真由は得意そうに胸を張ると、スギのおでこをデコピンした。
どうでもいいけど昔、ペンでデコピンするの流行ったよね…デコペンデコペン…。
「はいはい、ご存じですよ。先輩だもの。実技というか実力テストだね。
担当の先生からミッションが渡されるから楽しみにしてなさい」
「やっぱりミッションか」
苦い顔をするスギと楽しそうな顔の真由。
真由が私たちを見て楽しそうな顔をしているのを、ニャヒルが許すはずがない。
「噂じゃ先生によって毎年違うらしいよ。2年生もあるんだろ、テスト!」
ニャヒルはほんと真由に突っかかるの好きだなぁ。
新聞部でもこんな感じなのかな…。
たまに楽しそうに廊下で騒いでるのを見るけど、誰が先輩かとかわかんないしなー。
その代表といえば真由だ。
ちっちゃいし威厳無いし…。
「そりゃね。今年はどんな難題を出されるやら…。その点、一年生はまだいいよ。
外部生の追加で力量がまだあまりわかってない一年生は難しいミッションはあまり出ないし。
そのうえパートナーだっていない人が多いし」
腕を組んでぶーぶー言ってる真由はほんとに先輩には見えない。
会長さんや副会長さんぐらい威厳があったりしたら先輩っぽいかもしれないのに。
何が違うんだろ。顔は真由だってそこそこ綺麗なのにな。
「やっぱりいろんな人と一緒の合同ミッションだったりするんですか?」
少し嫌そうにそう切り出すスギの方が先輩っぽく見えるのはなんでだろう。
この礼儀正しさとか真面目なとこかな。
「そうだね。クラス別のときもあれば、先生のお気に入りのメンバーだったりするし」
「パートナーと別のミッションっていうことは?」
「ありえない。パートナーを持つとミッションを渡されるのはマスターのみだから。
だから契約を結ぶと筆記以外の試験は全部マスターと成績を共にしてると思うといいよ」
あれ?それってマスターは私だから、美月が私の成績と一緒ってことだよね?
「つまり、ミッションで私が成績を落とすってことは美月も成績を落とすってこと?」
「そうなるね」
う…、やっぱり美月には大きな迷惑をかけるなー。
思ったよりパートナーという二人三脚は重いモノみたい。
美月は気にしてないって言うけど…。
「だからみんな自分に都合の良い相手とパートナーになりたがるんだよ」
「ふーん…」
机にあごをつけたまま美月を見上げると、目が合ってにこっと笑ってくれた。
なんだか申し訳ないなぁ。
スギはそう思うなら強くなれって簡単に言うけど、ちょっと道が長すぎる気がするよ…。
一つため息を吐くと、美月はまたゆっくりと頭を撫でてくれた。
「おーっほっほっ。そんなことも知らないなんて、今年の一年生は頼りないわね!」
またドアがバンッと大きな悲鳴をあげた。
…なんだか変に応援したくなるドアだな…。
でも出てきた人を見て自分も悲鳴をあげたくなった。
「どっから湧いてでた、風紀委員長」
真由がわざとらしく嫌そうに顔をゆがませる。
忘れもしないその自信に満ち溢れた立ち姿はまさに風紀委員長さん。
「うっ…魔法を受けたトラウマが…」
「ニャヒル、大丈夫?」
地味にコントをする私たちは一切目に入ってないのか、風紀委員長さんはツカツカと真由に歩み寄ってきた。
「さて、野中真由。手伝ってもらうわよ」
にっこりと腕をとられ、今度は心底嫌そうに真由は頭を振った。
「なに?こないだは会長自らが動いていたし、生徒会はそんなに人手不足なわけ?」
「人手不足は否定しないけど、今回は生徒会じゃないんですのよ。
ミッションよ、ミッション。今年の2年生は…っと、ここでは言えないわ。とにかく来て頂戴」
「痛い痛ーい!なにさもう!耳をひっぱるなぁー!耳がのびるー!」
「おほほ!あなたの耳なんて飾りみたいに人の言うことを聞かないんだから伸びたほうがちょうどいいんじゃなくて!」
仲良しなのか仲が悪いのかよくわからない二人だなぁ。
真由もあれぐらい強引なら先輩っぽくなるのかな。
あれ?でも今でもけっこう強引なような…。
「んなわけあるかーい!!」
「チビでガリガリなんだからせめて耳だけでも伸びればいいわ!」
「ギャー!放せー!」
廊下からイタズラ小僧とスパルタおばさんのような会話が聞こえてくる。
…仲、良いのかな、悪いのかな。
風紀委員長さんがキャラが濃いせいかなぁ。
ぼんやりとドアの方を見つめて素直な感想をぼろりと漏らした。
「あの人、なんかすごいね」
「私もあの人はなんだか怖いな」
「正直に強烈だと言え」
スギもニャヒルも失礼だよー。
私も人のこと言えないけど。
「あの方はああ見えても社長令嬢なんですよ。少しパワフルな方ですが礼儀作法にとても厳しいんです」
「え、そうなの!?」
美月はそんな私達に苦笑すると、ちょっと信じられない話をしてくれた。
社長令嬢ってそんな身近に居るもんなんだなぁ…。
令嬢っていうともっと周りにSPとか大量に居るイメージがあるよね。
…漫画の見過ぎかな?
スギも少し考え込むと、うむと頷いた。
「…あー、中学の時噂になってたな。金融会社がどーのこーの…」
「人間ってわっかんないなー」
「ニャヒル、それは失礼だよ…」
金融会社の社長令嬢?
それだけで頭にはたくさんのお金が想像された。
お金持ちって毛皮ーとかリムジンーとかそういう世界でもないのかぁ。
「しっかし、真由がいっちゃうと一気に情報が乏しくなるなぁ。
新聞部に入ってもめぼしいパートナー候補もいないし。
強いヤツの噂を拾っても大概パートナー持ちか性格異端者だし」
ニャヒルって真由のこと気に行ってるよね、結構。
つまらなそうに言葉を漏らすニャヒルはちょっと寂しそう。
それにしてもパートナーって意外と見つけるの大変なんだな。
私は美月が居てくれたから良かったけど、もし美月が歩み寄ってくれてなかったら私は今頃どうなってたんだろう?
…やっぱり湯呑生活?
「もう時間も経ちましたから、強い人にはほとんどパートナーがいますからね」
「かといってまだ不慣れな外部の生徒から探すのも難しいな。
一年生の全体でもミッションはまだ20回に満たないそうだ。
大抵は負け戦だから強い生徒を見極めづらい」
よく事情をわかっている内部生二人が唸る。
そっかぁ、大体は負け戦ってことは成績下がってるの私たちだけじゃないんだよね。
うん、そう思うとちょっと元気出た。
あれ、でも強い人はもうみんなパートナーがいる?…ってことは…。
「そういえば、スギのパートナーは?たしかいるんでしょ?」
最近は授業が終わると真っ先に今日の訓練はどうだった、昨日はちゃんと夜に筋トレしたかなどと聞いてくる。
私のところに来てばっかでパートナーさんと一緒に居なくていいんだろうか。
「そういえばまだ見たことないな」
そっか、ニャヒルは出会った時には気絶していなかったもんね。
「可愛い人ですよ。妹さんなんですよね?」
「う…そうだ…」
美月ににっこりとそう言われて渋い顔をするスギ。
「妹?」
でもあのミッションは1年生のモノだったから…。
あれ?妹?
「妹だが同い年なんだ。…重い話だが、私は父の友人の子どもで、引き取られたんだ。
あいつがちゃんとした子ども」
「う…たしかに重い話だね」
つまり、血は繋がってないってことだよね。
パートナーさんの家にスギが養子としてきたってことかぁ。
「でもまあそれでよく仲良くしてるよね。嫉妬とかしないの?」
ニャヒルはなんていうかとてもストレートだ…。
だから真由とぶつかるのかな?
「まあ、親が違うからって仲良くしちゃダメってことはないだろ。
あーやは私の妹にはもったいないくらい良い子だ。
嫉妬なんてありえないさ。むしろ本当の家族以上に仲はいい…と、思う」
少し顔を伏せるスギはとても素直な性格なのだと思う。
私に早く経験をつめとか、もっと筋肉つけろとか、全部私に期待してくれているんだなと思うとすごくうれしい。
そうやってとても行動や顔に出るスギだからちゃんと家族にも馴染んでるんだろうな。
妹さんとの連携も良かったみたいだし、本当にスギの言葉に偽りはないんだと思う。
「素晴らしいことです」
「そうだね、良いことだよ」
美月と二人で笑顔を交わす。
けどニャヒルはなんだかつまらなさそうだ。
「…友人がたまに眩しいわー」
「何が?」
「素直なことは良いことだということです」
「そうそう」
ニャヒルと美月の言うことはたまによくわからない。
そういえば、テストのことはどうなったんだろう。
いつ出されるかわからないテストってすごく嫌だな…。
「真由がミッションで呼ばれたってことは私たちももうすぐ呼ばれるのかな」
急に話を変えた私に、みんなきょとんとした顔をした後、少し頭をひねった。
「どうだろう。必ず同じ日に起こるってことはないからな」
「でも、あの反応は怪しくない?絶対1年生絡みだって」
「でもそうなると不安ですね」
「あん?なんで?」
「2年生が関与してるなら運悪くとても強い人と戦う可能性もあるのでは…」
美月の顔は少し暗い。
いつもニコニコしている美月がそれだけ考える、ということはその可能性は高いのかもしれない。
「げぇ!また負け戦かよー!」
「まぁ、1年生同士っていうのはまだバラつきすぎて先生方も不安なのかもな」
「うー、ミッションのたびに痛い思いをするよう…」
またキリキリしだした胃をぎゅーっと抑え込む。
登校拒否になりそう…。
「まぁ、それで生徒を減らそうとしているのかもしれませんね」
「なんで?生徒は多いほうが良くない?」
私もニャヒルと同じことを思った。
生徒が多いほうが知名度とか、費用とか、なんだか学校的には良い気がするのに。
「なんだかんだで辞める生徒が多いからな。うちの学園は本当に強くなりたい人を育てて有名にしたいんだ」
「つまり、弱い人は学園から追い出すってこと?」
「弱くっても精神が強ければ追い出されることはないさ。痛いのに耐えられるなら大丈夫」
不敵に笑うスギ。
…私にはあまり笑えない話だよ…。
「太秦、奥井。まだ教室に居たのか」
今日一番の音を立ててドアが開く。
せめてあのドアに私ができることってないんだろうか…。
今度衝撃クッションか何か買ってこようかな、百円均一で。
「基礎体力授業の牛尾先生じゃん」
「どうしたんですか?」
「おっ、杉田もいるのか。ちょうどいい、ミッションだ」
噂をすれば。
ビシリと凍りついた私とニャヒルの代わりに、美月が反応してくれた。
「テスト、ですね」
「その通りだ!頑張れよ!」
「うわっ、きた!」
「うー、いやだなぁ」
テストの言葉に凍りつくのをやめて逃げ出したい衝動に駆られる私たち。
美月の手前、逃亡なんてことはしないけど不満ぐらいは言わせていただきたい。
「何を嫌がることがあるか!お前たちは仲がいいからな。一緒のミッションにしてやったぞ!喜べ!」
喜べと言われて反射的にばんざいをしたけど、それっていいの?
「わ、わーい?」
「スギがいるならまだ心強いほうか。咲等がいるってことは美月も一緒だし」
うわ、ニャヒルの中で私はオマケなんだね!?
「それで?ミッションは?」
「おう、先生は優しいからわかりやすくプリントにしておいてやったぞ!ほら」
「牛尾先生プリント好きですね…。えーっと…なになに」
「どれどれ?」
『指定のバトルエリアにて待ち受ける先輩から物品を一つ強奪せよ。
以下のものをチームと認め、全員で取りかかるべし』
「…物品ってなんですか?」
「なんでもいいぞ。身につけている物ならなんでもいい。武器である水晶なり、キーホルダーなり好きなものをとれ。
あぁ、しかし戦闘が終わったらちゃんと返してあげるんだぞ」
なんでも?
…強奪ってなんだか嫌なひびきだなぁ。
「えーっと、メンバーは?」
「咲等さんと私、スギさんにそのパートナーである綾美さん、ニャヒルさん、
それから最後に新聞部の山本乙音さんですね」
聞きなれない名前がひとつ。
新聞部…ってことは?
「え?なんで乙音が?」
ニャヒルのお友達かぁ。
「同じ新聞部だろう?彼女もなかなか面白いウェポンだからな、一緒にしておいた」
「えー。強いの、あいつ」
「…すみません、私は知らない人ですね」
今までいろんな人の説明をしてくれた美月が知らないと言った。
じゃあそこまで有名じゃないのかな。
でも先生が面白いって言ったってことは強いのかな。
優しい人だといいなぁ。
「名前だけなら聞いたことあるぞ。確かC組じゃなかったか」
C組ってことは私より1個上?
でも私は外部生だから実際はどれぐらいの強さなのかわからないんだよね。
…どうしよう、2年生になった瞬間に本当にJ組とかになったら。
私はそれでもいいけど美月に迷惑がかかるのかなぁ…うーん…。
「まぁ、なんでもいいから仲良くしておけよ。仲間は大事だぞー、はっはっはっ!」
それだけ言うと牛尾先生は笑いながら去って行った。
「言うだけ言って帰っていきやがった」
「まぁまぁ、とりあえずバトルエリアに行く前にあとの二人を呼んでおこうよ」
悪態をつくニャヒルをなだめて、次の行動を急かす。
ミッションは受けてからがミッションだもんね。
スギがパートナーの綾美さんを、ニャヒルが山本さんを呼ぶことになった。
「メールはすでに送っておいた。すぐ来るだろ」
「んー、気が進まないけどメールするかぁ…」
そう言ってニャヒルが携帯をとりだそうとすると、ドアがカラカラと久しぶりにゆっくりと開いた。
…ドア、良かったね…!
「…あのー、これから牛尾先生のミッションを受ける人たちっていますかー」
ドアから覗き見えた綺麗なおでこ。
そこからゆっくりと大きな目が覗いた。
「うわっ、メール打つ前にきやがった」
「ニャヒル!良かったぁ、一人じゃ心細かったからニャヒルと一緒で助かったよ」
ニャヒルの姿を見ると、彼女はぴょこんっと出てきて思いっきり抱きついた。
「わぁ!ひっつくなよぉ!こ、こどもじゃないんだ、ちゃんとしろよ!」
「あ、そ、そうだね!すみません、遅くなりました。私、新聞部所属、C組の山本乙音と申します」
あわあわとニャヒルから離れると、さっきまでのおどおどした態度は消えてとても元気な笑顔に変わった。
とても明るくて元気そうな子だ。
私たちが自己紹介をすると、しっかりと名前を反芻するのは忘れないためかな。
名前を聞いてときおり頷いたりもする。
「わぁ、噂の期待のルーキーさんと大魔法使いの娘さんだね!
あと杉田さんは確か基礎体力の授業で今年素早さで一番の人!」
期待のルーキー?
美月を見ると、咲等さんのことですよと微笑まれた。
「そ、そうなんだ…。期待のルーキーなんだ…」
「えぇ、初めてであれだけ動ける人はそういませんから」
負け続けなのにいいのかな?
ここに来て気絶するばっかりなのに。
なんかもう気絶しすぎて寿命縮んでそうなのに。
気持ち的には毎回死んでるような気分なのにー…。
「そうか、私は新入生では一番速いのか」
「うん、杉田さんとアレクサンドさんは中学の時から有名だったからよく記事にも書いていたし覚えてるよ」
ほぅ、と声を漏らすスギに山本さんは得意気に胸を張った。
新聞部ってやっぱり色々知ってるんだなぁ。
スギが足速いのは知ってたけど学年で1番だなんて知らなかった。
「お〜と〜ねぇ〜!なんでそんなに物覚えはいいのに情報まとめがあんなに遅いんだよ!
お前ってやつは!お前ってやつは!」
「い、痛いいたぁ〜いー!やめて頭グリグリしないでぇ〜!」
少し大人しくしてたニャヒルはここに来て急に怒り出した。
…もしかして大人しくしてたのは叫ぶの我慢してたの?
その元気な様子に少し苦笑しながらもちょっと楽しかった。
「元気のある方ですね」
「うん、楽しいね」
「騒がしいだけじゃないか?」
スギはあまり騒がしいのは好きではないと首を横に振った。
じゃあ真由のことも実はそんなに好きではないのかな?
あれ、でも私もあんまり大人しくしてないよ!?
でも毎日教室に来てくれるほどだから嫌われてるわけではないと思ってるんだけどな。
ひとり悶々としてるとドアがカラリと開いた。
本日2度目のドアの休息だ。
「ごめん、スギ。遅くなった」
最初のミッションで笑いかけてくれた人だ。
目があったのでへらっと笑うとにこっと笑い返してくれた。
…この人は良い人だ…!
「あーや」
「二人きりじゃないんだね、珍しい」
「これで全員だ。ミッションは咲等が持ってる」
スギと二人で並ぶと落ち着いた雰囲気が流れる。
姉妹というよりは長年連れ添った夫婦みたいだ。
また目があったのでスギに言われたミッションを手渡す。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。私、戸波綾美っていいます。スギとおんなじであーやって呼んで」
「うん、わかった。私は咲等だよ。奥井咲等」
「咲等ね、うん、いい名前」
あーやは名前を聞くと、またにこっと笑った。
綺麗な笑い方をする人だな。
あまり笑ったりはしないスギとはちょっと正反対?
「こんにちは、あーやさん」
「美月。パートナーができたって聞いたけど、もしかして咲等がそうなの?」
美月がはいとうなづくとそっかそっかとうなづいて今度はあっちでわあわあ騒いでいる二人を見た。
「そっちの二人は?パートナーではないみたいだけど…」
「私、新聞部の山本乙音といいます!こっちは同じ新聞部の太秦ニャヒルです」
「お前が私を紹介するな!」
元気に手をあげて答える山本さんとそれに全力で突っ込むニャヒル。
新聞部って楽しそうだなぁ。
「楽しいメンバーだね。最近教室にいないと思ったらこういうところに居たんだ。
部屋に帰ったらいつも楽しそうにニコニコしてるものね」
「よ、余計なことは言わなくていい!」
珍しくうろたえるスギ。
…スギが、ニコニコ…?
すごい、想像つかない!
「ほぅ、楽しいのかね。ふふふ…スギったらかわいいとこあんじゃん」
「いつも無愛想にしてるけど一緒にいて楽しんでくれてたんだねぇ、ふふふ」
ニャヒルと二人で顔を合わせてニヤニヤすると、スギは顔を真っ赤にして抵抗してきた。
「う、うるさい!少し楽なだけだ。上のクラスはギスギスしてて居るのが辛いんだよ!それだけだ!」
「心中お察しします。私も自分のクラスは少し居づらいので」
「強い人って変な人が多いもんねぇ」
同意する美月と山本さんはふぅと溜息をついた。
強い人がいっぱいいるとやっぱり大変なんだなぁ…。
うちのクラスは仲が悪くもなければ良くもない。
外部生が多いせいか、みんな部活に入っていて教室にあまりいないことが多い。
それでもクラスメイトで喋ったりするときもあるし、授業中の雰囲気も悪くないからちょうどいい感じかな。
「なんだ乙音、変人が強いって自分が強いって言いたいのかお前」
「違うよ!私変じゃないよ!」
あぁ、また漫才が始まってしまう…。
「あ、あの、全員そろったならそろそろ指定ポイントに行かなくていいのかな。
相手の先輩待ちくたびれてるんじゃない?」
「そうですね。行きましょう」
「おー!」
「だからお前が張り切ってどうすんだってば」
…6人って結構多すぎやしないかな?
みんな私なんかより経験あるんだから大丈夫だよ…ね?