Lily memo %



第三話 中編




元気に復活して当然のようについてきた真由も連れて3人で倉庫に向かう。
左手はまだ動かないみたい。
痛いのと感覚は別物なんだって。私にはまだよくわからないな。
痛くったって動くものは動くって。
実際に咲等も切られたらわかるよ、なんて真由は笑うけど痛いのはやっぱり嫌だよ…。

体育倉庫ってあれかな?
…あれ?すでに人が居る。

「あれは…」

美月は見覚えがあるみたいだ。
もしかしてもう生徒会の人が来てるのかと思って一瞬背中がヒヤリとしたけど、私も顔に見覚えがあった。

「あ!体育委員長と戦ってた人だ!」

最初のミッション。

-おい!あんた!ぼーっとしてんな!邪魔だ!-

こげ茶色のショーカットと闇に紛れる黒のジャージ。

「あぁ、もう一組居たのか」

彼女は興味なさげに目線を寄こした後、目をいっぱいに開いて驚いた。
すっごい二度見…。



「『血濡れの獅子』!?」



そういえば真由にまた聞き忘れたなぁ…。
そんなに驚かれるほど真由ってすごいのかな。
…あれ、でも何か違和感が…。

「『血染めの獅子』じゃなかったっけ…」

そうそう、それそれ。
苦笑気味に呟いた真由の頭をよしよしと撫でる。

「あなたも呼び出されてたんですね。杉田良子さん」
「どうやら、同じミッションのようだ。大方、生徒会相手だろ」
「そうですね。あ、こちらの方は付き添いのお姉さんです」
「つ、付き添いのお姉さん!?」

美月…、ほんとに真由には容赦ないなぁ…。
そのうえこちらの杉田さんとも知り合いみたいだ。
内部生ってこんなものなのかな。

「うぅ…左腕も使えないしね、確かにただの付き添いだよ…」
「それは自業自得じゃぁ…」

突っ込む私にめげずに真由はニヤリと笑うと私のすぐ後ろに陣取った。

「後ろからニーヤニヤしながら見てる」
「や、やめてよぅ!なんか怖いよ!」

真由のニヤニヤは何考えてるかわからないからヤだよ…。
満足したのか、真由は笑って立ち位置を変えると私に指をさしてそれを横に振った。

「そういえば。咲等、そこに立つのはやめておいた方がいい」
「え?なんで?」
「後ろにガラスがあると吹っ飛んだとき怪我をする」

何も知らない私に杉田さんが即答した。
…うぅ…目がこわい…。睨んでる睨んでる…。
真由はコツコツとガラスを叩くと大げさにため息をついた。

「この学校ってどこもかしこもガラスはもろいんだよねぇ」

ガラスは普通もろいものじゃないかな?
水族館とかのガラスになると別だけど、アレ分厚いよ?重いよ?
でもそっかぁ、戦うときって立つ場所も考えないといけないんだ。

「そんなことも知らないのか?」

へぇーとか感心してたら杉田さんに呆れられたみたい。
しょんぼりしてると美月が少しフォローしてくれた。

「杉田さん、彼女は外部生です。まだなにも知らないのはしょうがないことです」
「…どうも、奥井咲等といいます」

ついでのように自己紹介をして手を差し出す。
握手はしてくれなかったけど無視はされなかった。

「よろしく。足を引っ張らないならいいけど」

…もしかして、即効嫌われたかな?
美月は私をかばうようにして少し前に出た。

「あなたこそ、今日はしっかりもののパートナーさんがいないけど大丈夫なんですか?」
「…ふん、あいつは今日はこないだのミッションが原因で寝てる。
 足にダメージがあったらしくて動けなくてな」

パートナーさん…、あ、あーや、って呼ばれてた子かな。
たしかポニーテールで…細い体で大きな金棒を持ってた人。
でもあのときは確か元気に動きまわってたのに…。

「もう3日もたってるのに?そんなひどいダメージを受けたの?」
「明日には戻るだろうとは思うけど…。
 そうだな、骨折ぐらいのダメージを受けたようだからどちらかというとマシなほうだ」
「まし…」

杉田さんは罰の悪そうな顔をしてそっぽを向いた。
心配だろうなぁ、なのにミッションなんて与えられて大変だなあ。
…それにしても骨折で<マシ>なのか…。

「お大事に、とお伝えください」
「私もお前らも無事に帰れたらな」
「そろそろ、お出ましだよ」

皮肉を言い合うなんて…美月と杉田さんも仲悪いのかな?
そんなことを考えていたら真由が釘を刺した。
…お出まし?



「見張りがいる、ということは要チェックな場所ととっていいのかしら?」



気付けば外は暗く、月の明かりが鈍く差し込んでいる。
下校時刻間近でグラウンドの明かりは小さい。
その少ない明かりの中なのに輝いて見えるその人。

「会長!?」

さっきまで皮肉を言い合っていた美月と杉田さんの声が被った。
漢字で認識できなくて音のまま真由の方を振り向いて尋ねる。

「…かいちょー?」
「生徒会長自らお出ましとは。人手不足なの?」
「えぇ!?生徒会長!?」

真由の言葉に我を取り戻した。
この人が生徒会長…。

「あら、真由。あなたが最近仲良くなった1年生に入れ込んでるって話は聞いてたけど、その子たちなの?」

会長さんはにっこりと笑うと親しげに真由に話しかけた。

「彼女が目をかけているのは私のパートナーだけですよ、会長。
 もう一人仲良しさんがいるらしいんですが彼女は今日のミッションを受けていないそうです」
「あらあら、大魔法使いの娘さんまでいるのね!これは私、張り切っちゃってもいいのかしら!」

嬉しそうに手を打ち鳴らす会長さん。
会長さんまで知ってるってことはやっぱり有名なんだなぁ、美月。
そのパートナーの私ってもしかして普段目立ってるのかな?
ご飯食べに行こうって二人で屋上に行くたびに廊下でじろじろ見られるもんね…。

「今回は基礎体力授業の牛尾先生に見込まれた新入生だけだから、あんまり張り切るなよー?学園No.1。
 あんたが頑張るとろくなことがない」

真由はげんなりとした表情で手を横に振った。
学園No.1って…。
生徒会長ってやっぱ一番強いものなんだ…。

「あなたが参加すればいいじゃない。大歓迎よ」
「左手が出せないからツールバトルにも手は出さない。その代り、その子が頑張ってくれるから」

真由は笑って私を指差した。

「えぇ!?私!?どうして一番素人の私を指名するのー!?」

涙目で周りに助けを求めると、両側から肩をポンッと叩かれた。



「がんばりましょうね、咲等さん」
「足引っ張るなよ、奥井咲等」
「うわぁあ、みんな敵だぁあ」



頭を抱えて全力で落ち込む。
まだ授業も少ししか受けてないのに〜…。

「嬉しいわ、今年は粒揃いなのね。…それじゃあ、ツールバトルを始めましょう!」

会長さんはハートが見えそうなほど舞いあがった声をあげると、右手に剣を出した。
その瞬間、まるで地震でも起きたかのように空気が震えた。
首元をぬぐうと、絞れそうなほどの汗。

「くっ…すごい威圧感だ…」
「…ビリビリする。強いんだね」

茫然と呟くと、平然と美月が隣に寄ってきた。

「咲等さん、手を貸してください」
「へ?なんで?今?」
「時間は稼いでみる。早めに頼む」

よくわかってない間に話はどんどこ進んでいく。
なんだか前のミッションもこんな感じだったような…。

「了解しました。咲等さん、戦闘前の儀式です。私に復唱してください」

ここに来てわけのわからないことばかり。
みんな知らない人だし、正直何が正解で何が間違いかもわからない。
それでも、少しでも良い人だと思ったなら信用しなければ動けない。
そんな自分に歯がゆさを覚えるけど、言われたことをやるしかないんだ。




<我、心を解き放つ>
<我、体を解き放つ>
<彼の者との運命を結び、力を求める。我らを繋げ!>




またおでこに前に感じた柔らかさを感じた。
…もしかして、チューって毎回やるの?

「わ、わわ。なんかここ数日間の疲れが吹き飛んだ気がする!」

目を開けると体が軽くて少し気持ち悪い。

「それは私たちがより深く繋がり、力が増幅しているからです」
「増幅…?」
「ごめんなさい、説明してる暇はありません。私が魔法で援護します。
 遠慮なく、会長に切り込んでください!」

…こういう展開、あと数こなしたら慣れるのかなぁ。
なんか全部行き当たりばったり。

「わかった」

水晶を握って、軽く回そうとしてすこし思いとどまる。
…2倍、したほうがいいのかな。
目を瞑ってイメージして、回す。
手にした武器は相変わらず気分が悪いけど、受け入れるしかないんだ、これも。

「いっきます!!」

手にしたモノを何回か練習した通りに振る。
人が立っていると想定した素振りのようなものだったけどそれでも最初よりはマシになった。
それでもやっぱり動く人というのは当たらない。
それも強い人なら尚更なんだろうな。
杉田さんと二人で(邪魔にならないように)攻撃するけど、一切当たらない。
会長さんは楽しそうに攻撃を受け流している。
美月の魔法は私たちがいるから大きいのは出さないみたいで小さいのを飛ばして会長さんの行動を制限している。
やっぱり美月ってすごいんだ。

「咲等ー、味方の行動パターンも覚えてけー」

後ろから真由ののんきな声が聞こえる。
味方っていうと今の場合、美月と杉田さんだ。
美月のパターンっていうとさっき考えたこと。
…杉田さんのパターンを読めってこと?

杉田さんの武器はナイフ。
手からは離さないみたいで少し近寄っては大幅に逃げる。
近寄るときも逃げるときもとても素早い。
気付けば会長さんの後ろに回っているときがある。
それぐらいかな…?
餅つきのように攻撃すれば効率がいいんだろうか。

「咲等さん下がってください!」
「え!?」

美月の声に何も考えずに体を引いた。
目の前を風圧だけが通り過ぎる。

「あまり考えすぎると隙だらけになるわよ」

頭が真っ白になって声が聞こえたほうの逆へ横っ跳びに逃げる。
落ち着いて元の場所を見るとにっこりと会長さんが笑っていた。

「少し判断が遅いかしら。経験値ってやっぱり必要ね。
 ちなみに2回目は剣を弾いてから逃げたほうが確実に逃げられたわ。
 これからゆっくり判断力というのを身につけていかないといけないわね」
「はは…」

あれが本物の剣だったら私の前髪はなくなってたのかな…?
真夏のような汗が地面に滴り落ちる。

「いつの間に…。さっきまでこっちに居たと思っていたのに…」
「杉田さんも、少し自分のスピードを過信しすぎかしら。
 結構な距離でヒット&アウェイしてるけどあれなら私は詰めれるわよ。気をつけて」
「は、はい…」

杉田さんですら遊ばれてるのか…。
会長は避けているだけで攻撃してきたのはさっきの1回だけ。

「咲等、行動パターンが読めたなら、餅つきなんてしなくていいんだよ」

行動パターンが読めたなら…?
餅つき…をするんじゃなくて、しなくていい?

「真由、手は出さないんじゃなかったの?」
「口を出してるの。おませさんだから」
「まぁ小憎たらしい」

会長さんと対等に皮肉まで言いだす真由ってやっぱりすごいのかな…。
右手に握りしめた鎌をちらりと見る。
…せっかく2倍の強さになっても、当たらなければ意味がないんだな。
あまり人に当てたくないと思っても負けず嫌いな自分だから当たらないのも悔しい。
ちょっと我侭になったかな。



「諦めないぞ!」



杉田さんは一つ吠えると、今度はさっきよりも速くヒット&アウェイを始めた。
私がするべきことはこれから。
美月が行動を制限してくれてる。
杉田さんがパターン通り(意図的かどうかは置いといて)に、会長を攻めてくれている。
そして真由の一言。


杉田さんの邪魔にならないように、でも、同時に?


できるのかな。
杉田さんの邪魔にならないって…。


あった、一か所だけ。


杉田さんは速いからこそ、攻撃する場所が限られてるんだ。
問題はタイミング。
杉田さんが刃を当てたあと、じゃ、間に合わない。遅すぎる。
同時?うん、それぐらい。

死角が少ない、できるかな?
美月の魔法、大きいのと小さいのとバラつきがある。
大きいのが来て、杉田さんが刃を当てた瞬間。

考えるより先に、脊髄を使え。耳はいらない、目だけでいい。








飛ぶ!!








会長、気付いてない。
あとはタイミングを合わせて、   落ちるだけ!

「!」

気付かれた!?
剣に弾かれる!

「くらえぇっ!」

杉田さんが開いた胴めがけてナイフを振る。
剣は私に向いたまま、イケる。
躊躇せずに落下する!

「いっけぇええ!!!」

上空から刃先を下に。
剣が当たった、でもこれなら!





「ごめんなさいね」





今度は真っ黒だ。
何が悪かったんだろう。
考えが浅かった?
気付かれたもんね…。


あぁ、もう少し、強くなりたいなぁ…。


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