天気の良い放課後下がり。
「悪いねぇ、今日は部活だし。あたしはそんなミッションもらってないんだ」
かるっとさくっと。
「え」
「3日前の遅刻が響いたんじゃない?」
「えぇええええ」
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私の小さな咆哮が終わると、ドアが激しい音を立てて開いた。
…こないだは人だかりでギシギシ音立ててたし、大丈夫かなぁ、あのドア。
「ニャヒル!あんまり遅いから迎えにきちゃった!」
ドアをひらいた人はこっちを見ると爽やかににこっと笑った。
あれ、ニャヒル?
隣を見ると、ニャヒルは呆れた顔でドアの方に立っている人に声をかけた。
「麗華先輩!あたしの周りであんまり目立つことしないでくださいって言ったじゃないですか!
もう!乙音もなんで止めないんだよ!」
ニャヒルの声に、麗華先輩と呼ばれた人の後ろからぴょこっと人影が覗く。
「ごめんなさーい。麗華先輩止まらないんだよー?ノンストップで走るから追いつけなくてぇ」
てへへと笑うとニャヒルはすかさずそのおでこをパーンと叩いた。
あ、痛そう。
でも女の子は嬉しそうに笑っている。
「もういいよ。それより、急いで部室に戻ろう。まだ終わってないんでしょーが、情報まとめ」
呆れた声のままニャヒルが声をかけると、麗華先輩さんがひらひらと手を振ってニャヒルに笑いかけた。
「そんなに急がなくても大丈夫よ。情報なんてまとめてもまとめても出てくるんだから〜」
「それ余計ダメじゃないかぁあああぁぁあ」
のんきな声に頭を抱えて走り去ったニャヒル。
あぁ、部活動の人たちかな。
新聞部に入ったって言ってたもんねぇ…。
「…楽しそう。そういえば、私まだニャヒル以外友達いないんだなぁ…。
放課後っていっても家事ぐらいしかすることないし…でも寮に帰るわけには…」
ぼんやりとニャヒルたちが去って行った方向を見ながら今日の予定を思い浮かべる。
「おや、私は友達じゃないのか。さみしいのぅ。毎日会ってるのにぃ」
「真由、いたんだね」
「そう、コンセプトはいつだって神出鬼没。大変なんだよ、スタンバイも」
急に湧いて出た真由に笑いかけると大げさに指を振った。
いつも急に出てくるからなんだか慣れちゃったなぁ。
ところで毎回違うところを怪我してるのはなんでなんだろう。
今日は肩が赤黒くなっている。擦りむいたのかな。
「はぁ、お疲れ様、かな?」
「うぐ…良い子なのはいいんだけど突っ込むとかボケるとか覚えないかい?
一人漫才はさみしいんだよ」
「えぇ!ご、ごめんなさい!」
真由はたまにお笑い器質なのか私にいろいろ要求してくる。
それ自体は楽しいんだけど本当にどうしていいかわからないことが多い。
…もっとテレビとか見たほうがいいかなぁ?
「いや、謝るところでもないから!ふむ、もう5日目になるのに馴染めないねぇ。
授業も始ったんでしょー?家事をこなすより筋肉を鍛えなさい。もしくは魔法を勉強しなさい」
ぐりぐりと頬を指で刺される。
こういう時はほんと楽しそうだなぁこの人…。
「あ、あぅ。そうしたい気持ちもあるんだけど寮まで戻るわけにはいかなくて…」
「うん?ミッションでももらってるの?」
「あ、うん。これだよ」
さっきもらった一枚の紙を真由に手渡す。
「ふむ。完全下校時刻のちょっと前か。用具室の防衛…」
がっちりしっかりのとっても強そうな基礎体力の牛尾先生から手渡されたものだ。
『奥井咲等 またはそのパートナー
ミッション 6時40分 用具室の防衛
基礎体力 牛尾』
ミッションってこんな風に渡されるんだなぁ…。
先生の名前を見ると、真由は楽しそうに笑った。
「おぉ、ジャンプ力で目をつけられたね。じゃあ美月のせいではないわけだ」
う…、美月に迷惑をかけちゃうことを考えると憂鬱になる。
こないだのお昼に遅刻したことも原因らしく、私の足がもっと速ければいいのになんて自分の足を恨んでしまう。
「はぁ…。あ!そ、そうだ!ミッションもらったら連絡くれって言われてたんだ!」
「ん、だったらちゃんとかけてあげないと。忘れてたじゃすまされないぞー」
「う、うん!」
慌てて携帯から美月のアドレスを引き出す。
急ぎだしメールじゃなくて電話だよね?
S組ももう授業終わってるかな?
数回コールしたあと、控え目だけど凛とした声が聞こえてきた。
『はい。美月です。咲等さん、どうしました?』
「あ、うん。ミッションをもらったんだけど…」
『!…早いですね。今すぐそちらに向かいます。今は教室ですか?』
い、いますぐ?
「え!?いや、時間は完全下校時刻の前って書いてあるからまだ大丈夫だよ!?」
『ミッションをもらったということは敵がいるかもしれないということです。用心に越したことはありません。
もう少しだけ待っていてください』
「あ、はい」
プツっと音がして電話が切れたことに気付く。
展開が早いなぁ…。
茫然と携帯を見ていると真由がまた楽しそうに笑った。
「あはは、美月も大きな声出せるんだねぇ。私にも聞こえたよ。
さすが、内部生はミッションがどんなものかわかってるだけに行動が迅速だ」
「そんなもんなんですか?」
能天気な私にニッと笑いかけると一呼吸おいてから真由はいつも怖い言葉をかけてくる。
性格、結構悪いよね。
「ミッションをもらった瞬間ライバルに行動不能にさせられるかもね」
「う、うわぁ」
ブルっと身震いするとジーンズのベルトにいつでも簡単に着脱できるように付いている水晶を握りしめた。
あ、でも気付かないうちに倒れるなら痛くないかも…?
いやいやいや!それじゃあ成績が!美月の足を引っ張っちゃう!
…足掻くしかないこの学校ってけっこう恐ろしい?
「お、遅くなりました!」
パンッていう音がしてドアに手をかけた美月がいた。
…ほんと、この教室のドアって大丈夫かな?
「早かったね!大丈夫?!」
「っ…はぁ、平気です」
どうやら全力で走ってきたみたい。
肩で呼吸している美月の背中をさすってあげながら鞄から水をとりだす。
「私のだからちょっとぬるいかもだけどどうぞ」
「あ…ありがとうございます」
水を飲むと、呼吸が落ち着いたのか一つ大きな息をするとくりっとした目が私の全身を見た。
「怪我はありませんか?」
あ、私の身を案じてくれてるんだ。
優しいなぁ、美月は。
「うん。平気だよ。なんにもなかったから」
「良かった…S組と同じミッションだったらさすがに厳しいかと思って、少し心配しました」
美月はほっと一息をついてから背筋を伸ばした。
彼女は結構気をつかうタイプなのかもしれないな。
「けっこう楽そうだよ。体育用具室の防衛だって」
「真由さん。いらしてたんですね」
「うん、暇なの。かまってください」
真由はケタケタと笑うとそう切り出した。
…よくニャヒルが真由は暇だって言ってたけど本当に暇だったんだ…。
「4月は先生方が新入生にかまってばかりで先輩方は少し退屈になるそうですね」
う…新入生としてはかまってほしくないな…。
ミッション怖いよぅ。
美月の言葉を受けると真由は手を後ろに組んでニヤリと私を見た。
「そうなんだよー。でも今年は咲等がいるからまだマシかな」
「なんで私?」
「ふふ…真由さんは相当咲等さんがお気に入りのようですね」
美月は視線を真由に移すとクスクスと笑い始めた。
私、そんなに変かな…?
ぞんざいに手を頭の後ろに組みかえて真由は美月に笑いかける。
「この子のお友達もなかなか面白いよ。今度話してみるといいね」
「ええ、機会があったらぜひゆっくり話してみたいです」
それはまるで昔馴染みの友人達の会話を聞いているみたいで少し居心地が悪い。
なんだか自分は場違いというか空気が合わないというか…。
さっきニャヒル達が楽しそうにしてるときも思ったけど、みんな私の居ない時間があるんだな。
当たり前だってわかってるのに落ち着かなくて少し寂しい。
こういうとき、自分にもっと欲が無ければいいのに、なんて思ってしまう。
やっぱり私、この学校に馴染めてないんだなぁ。
楽しそうに会話する二人がやっぱり、うらやましいよ。
「…仲、いいんだね」
ぽつりと本音が漏れると、真由がまたニヤニヤしながらこっちを見た。
「ふふーん、妬けた?」
「えぇ!?ち、違うよ!」
「どっちに妬いたのかな?ん?このお姉さんか?それともこっちのかわいらしいパートナーか?ん?」
「だから妬いてませんってば!」
またおじさんみたいになってるよ真由…。
でも本当に妬いてたのかな?
そう思うとちょっと落ち込むな…。
「真由さん、あまり咲等さんをからかっちゃダメですよ?」
「うーん、可愛くてついつい」
美月がたしなめると、真由は乗り出していた身体を元に戻して私の帽子を一撫でした。
「もう、気をつけてください。そういえば咲等さん、私にもミッションを見せてもらっていいですか?」
「うん、プリントで渡されたんだけど、防衛って何から守るんだろうね」
プリントを手渡すと美月はくるくると手紙を軽く裏返したりしてから文面を読みだした。
しばらくすると美月は軽く首を傾げた後、眉間にしわを寄せた。
「…どうしたの?何か、変なところでもあった?」
不安になって美月の顔をのぞきこむと、苦笑いになって口をひらいてくれた。
「今日は確か…生徒会の見回りがあるんです。恐らく、今回の敵は生徒会じゃないかと」
「え…生徒会って…。また!?」
脳裏には仁王像のように立ちふさがる風紀委員長さんと体育委員長さん。
その様子はさながら生徒会室を守る門番だ。
またブルリと身震いをすると美月は困ったように笑った。
「恐らく、体育用具室に何か隠されておられるのでしょうね」
「う、うぅ。また風紀委員長かなぁ。体育委員長も一緒じゃあ勝ち目がないよぅ」
泣きそうな声で頭を抱える私に軽い声がかかる。
「いや、見回りならたぶん一人でしょ」
「ほんと!?」
水を得た魚のように真由を見ると犬のようだと真由に笑われた。
魚なのに犬?
私達が顔を合わせていると美月は顔を渋らせて注意を加えた。
「でもたった一人といえど侮れません。生徒会は全員強い方ばかりです」
「つ、強いよね…やっぱり」
「はい。いくら私たちが契約を結んでいても勝てるかわかりません…」
そっか、契約してるとちょっと強くなってるんだよね。
…私、たち?
それって…
「…もし、私がもう少しでも強かったら?」
真由と美月の顔を見ると少し喋りづらそうな顔をしていた。
「それは…」
「体育委員長あたりなら勝てただろうね。美月の魔力は半端ない。
それを上手に使いこなせるマスターがいればこの学園でも最強を目指せるね」
声を詰まらせる美月とは正反対に真由はスッパリと言いきってくれた。
わかってはいたけど落ち込むなぁ…。
「やっぱり…」
「真由さん!」
「咲等は真実を言ってほしかったでしょ?」
美月が真由に食ってかかるとついっと流されてしまった。
うん、確かに。ここで微妙な変な同情されても悲しいよね。
ちょっと元気でた。
「それでも…」
「うん、ありがとう。大丈夫だよ」
心配そうな顔をしている美月に精一杯笑いかける。
弱いくせに、更に心配かけちゃダメだよね。
そんな私達をまったく見ずに真由が突然大声を出した。
「そう!ぜんぜん大丈夫!」
「わぁ!びっくりした!急に声を張り上げないでよ」
真由は私のことなんてお構いなしにビシッと指差すと先輩らしく爽やかに笑った。
「なぜなら!咲等クン、君はまだまだ素人なのだ!これはつまりどういうことかわかるかね!」
「んー…っと?」
「まだまだ成長するということです。幸い、咲等さんはツールバトルのセンスはあるようですし、がんばりましょう。
それに、最強なんていりません。私はただ、一緒にミッションをこなしたいだけです」
真由の言葉を受けて美月が優しく笑いかけてくれた。
そうだよね、これから頑張ればいいよね。
「…ありがとう。がんばるからね」
美月の手をとって真剣にうなづいた。
…そのついでに真由が後ろを振り向いて肩を震わせているのを見てしまった。
「何してるの?真由」
「ご、ごめん。あまりの青臭さにちょっと笑いが…」
笑ってたの?
やっぱり性格悪いよ、真由。
「一生懸命な人を笑うのは悪いことですよ」
美月にたしなめられると真由は楽しそうに振り向いた。
この人、本当に先輩らしさがたまにしか滲み出ないなぁ。
「はーい、ごめんなさーい。お詫びに咲等にいいこと教えるから」
「いいこと?」
「うん、前にライフウェポンは魔力で成り立っているって言ったでしょ。覚えてる?」
どうやらこれから始まるらしいバトル講座に姿勢を正して真由を見る。
確か、この水晶に魔力とやら(この時点でまだよくわかってない)を集めて武器ができる。
見た限りは実物だとしか思えないのに。
「…おぼろげに」
「咲等、おぼろげって…こほん、まあいいや。まあつまり武器は魔力でできてんだよ」
「はぁ」
「その話をしたときに魔力を共有できるのってあんまり意味がないって言ったね。
残念ながらそれは間違い。魔力は人それぞれ持ってる量が違う。魔力で与えられるのはダメージだけ。
なら武器に込める量を2倍にしてみるといいよ。ダメージも二倍になる」
じゃあ大きさも倍になったりするんだろうか。
あ、でもそれじゃあ元々魔力が強い人はみんな武器が大きくなっちゃうよね。
難しいな、量より質ってこと?
いや、そもそも魔力うんぬん言われてもやり方わかんないし…。
たしか担任の先生が魔力実践学とかいう授業が本格的に始まったら魔力の使い方がわかるって言ってたっけ。
「私まだ魔力実践学とかいうのをならってないから魔力の使い方があんまりわかんないよ?」
「まだ時間もあるし練習してみましょう。水晶を出してください」
美月も乗り気なのか、にこにこと指示を出してくれる。
「い、いきなり実践しちゃうの?」
「習うより慣れろってやつだね」
「う、うん。これでいい?」
真由からもニコリと微笑まれておずおずと水晶の鎖部分を指に通す。
確かぐっと握ってくるりと回せばできたはず。
「利き手を握るとき、ライフウェポンをしっかりとイメージしてください」
イメージ、イメージ。
漠然としか思いだせないな。
大きな鎌。まるで死神のような鎌。
「…こうかな?」
「ダメだなぁ。失敗してるよ」
パッと見で真由は判断したけど見た目でわかるものなのかな?
やっぱり大きくなるの?
一度鎌を消してもう一度水晶を見る。
「もう一度やってみましょう。もっと、はっきりと、強くイメージしてください」
「頭でイメージしないで、手の平に集中!手の中にあるのは水晶じゃない、すでに武器だと思って」
すでに、武器。
よくわからないな。
さっきとは違って目をつむって右手に握った感触を指で確認する。
これはすでに、武器?
すでにというか私の中じゃいつでも武器に見える。
この水晶<ライフウェポン>自体が、鎌そのもの。
うぅ、気持ち悪い。
ふと目を開けると、無意識で回していたのか、手の中には大きな鎌があった。
相変わらず良い気はしない。
「…見た目は、変わらないけど出来たのかな?」
困って真由を見ると、少し唸ってからニッコリ笑った。
「よし、ちょっとためしに私の左手をさくっといってみよう」
え?
「えぇえ!?できないよ!痛いでしょう!」
考えるだけで恐ろしい!
鎌だよ!?本物だったら血飛沫モノだよ!?
あれ、でも本物じゃないしいいの?いやいやいや、痛いよ絶対!
「そうですよ。そんなことしたらまた『血染めの獅子』と呼ばれますよ?
それに普通でも痛いものなのに2倍になってるかもしれないんですよ?」
さすがにこれには美月も呆れたのか、真由を止めようと一歩前に出た。
あれ、そういえばまた『血染めの獅子』だ。
なんだかんだで聞き忘れてるんだよね。
そう思って真由に向き直るとがっしりと私の肩を掴んできた。
「血は出ないし、ダメージだけだから1日で戻るでしょ。大丈夫、大丈夫。ほれ、さくっと、ほれ。ほ〜れほれ」
「うぁううぁう」
「なんだか怖い人みたいです。真由さん」
うぅ、新手の変態さんだ…。
「大丈夫だって、ほら、怪我はしないんだからさ」
切らないと収まらなさそうな真由。
真由って実はドM?
いいのかなぁ、切って。でも、当の本人が一番ワクワクしていらっしゃる。
「じゃ、じゃあ、行くよ」
「おう、どんとこい!」
目の端を押さえてあーぁといった顔をした美月が見えた。
「ぎにゃぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
思い切って左手首に鎌を振り落とすと断末魔のようなちょっと年とった猫みたいな声があがった。
「い、痛い!いたいたいたたたたああ!」
「だから言ったのに…」
「だ、大丈夫!?」
慌てて真由の左手を見るけど魔力ダメージなせいで体にはなんにもない。
こういうときの応急処置ってどうすればいいんだろう!?
真由の左手を手にとっておろおろしていると右手で思いっきり叩かれた。
「痛いわ!手加減しろ!」
「んな無茶な!!」
じんじんする頭を庇いながら自分の無実を訴える。
…もっと他に方法無かったのかなぁ。
美月は相変わらず呆れた顔で笑っている。
「自分で言い出したんだから耐えてください」
「ひどい!」
「友人に自分を切らせる人のほうがひどいです。
咲等さん、心配しなくて大丈夫ですよ。すぐ元気になりますから」
それなら、良かった、かな?
でも…。
「うぬぅぁああぁああ」
しばらくは痛いんだろうなぁ。
「そろそろ倉庫前に向かいましょうか。
できるだけ、場所はよく知っておいたほうがいいんです」
「うん、わかった。行こう」
あと、今ので美月は真由の扱いはちょっと冷たいんだなってわかった。
これも付き合いの長さからくる慣れかな。
私も真由の奇行におどろかないようにがんばろう。
「き、君たち、ドライすぎやしないかね…」
真由は最後に一言呟いて机に突っ伏したけど、私は美月に手をひかれてそのまま教室を出ていった。
これで、いいんだよね。
…よかったのかなぁ?