Lily memo %



第二話 後編



--nyahiru--


「へっきし!」
「うわ、汚な」

購買で買ったパンを手に廊下を歩いていると突然隣できらきらと唾が舞った。
…マジ汚ぇ。

「うー、なんで私がおごらにゃいかんのか」
「あったりまえだろ!なんで昨日のうちに教えといてくんないんだよ!なんだあの人だかり!まるで人がゴミのようだったぞ!」

あれはミッションと同じ戦場だ。
武器こそ無かれとても突っ込んで行く気がしなかった。

「あんなもんでしょ。購買って」
「女子高なんだからもっとお淑やかな感じだと思うじゃん」
「ばっかだなぁ。今時そんなお嬢様学校ないに決まってるって。本物のお嬢様はたまにどこかしら居るみたいだけど」

本物のお嬢様?






「くしゅんっ」
「美月、大丈夫?春といえどちょっと寒かったね、ここ」





しばらく2年の廊下をうろうろして、人の居ない教室を見つけると真由はするりと教室へ入っていった。
その後ろを付いてドアを閉める。

「それで?話ってなにかね」

真由は教卓に腰かけるとおもむろにパンを開いた。
マナー悪ー…。
まぁ、マナーの悪さは似たようなものだから気にしないことにしよう。

「ずばり聞くけど、強い人とパートナー組みたいなら、どうすりゃいいの?」

時間は無い。
核心をついて質問を重ねるしかないんだ、あたしには。

「…ずばり聞いたね。そうだね、強くなりなさい」
「は?なんだと?」

返ってきた普通の言葉に耳を疑う。

「強くなってミッションを1,2個こなせば自然と噂が立つさ。現にあの咲等だってもうだいぶ目をつけられてる」
「…そんなにすごかったの?あいつ」
「うん。武器の使い方は拙かったけどジャンプ力が半端ないね。体育委員に突っかかっていったナイフ使いもいい素早さを持ってたけど、咲等と戦ってみるほうが楽しそう」

ナイフ使い?
そんなの居たっけ。
まぁいいか。

「んー…それだけ?」
「それだけってお前さん…。全員が武器を持ってるんだ。少しでも身体的に飛びぬけてる方が強いもんなんだよ」
「ううー…もっと楽して良いパートナーが手にはいる方法はないのかぁー!」

強くなればいい、そんな言葉は強いヤツの方便だ。
あたしには縁がない。

「甘いなぁ。そこで喜ばない辺り、ニャヒルは体力がないんだ」
「ぜんっぜんないよ!」
「そこで威張るなよー…」

全然無いというのは誇張した表現だと我ながら思う。
でもこの学校で生き抜くにはきっと普通ではいけない。
あたしの体力は良く言えば人並みだ。
悪くはないけど良くもない。
それでもなんとかして、そう、頭を使ってやっていくのだ。
それが普通の人間である<賢いモノ>のやり方だってあたしは信じてる。
真由は少し目線を外へずらすと、おもむろに口をひらいた。

「まぁ、それが嫌なら情報集めが一番だね」
「情報?」
「そう、広報活動は果てしなく面倒くさいが情報が真っ先に手に入り、なおかつみんなが知らない情報まで仕入れることのできる素敵な部活動!その名も新聞部!」

オーバー気味に声を張り上げる真由。
そこまでするとなんか罠くさいな…大丈夫か…?
うさん臭そうな態度に難色を示すと、真由はまた大きく笑った。

「うっわ、面倒くさそう」
「そういうない。強い相手から連敗してる相手までなんだって知ることができる。自分も情報を仕入れるかわりに他の人の情報がもらえる面倒くさいがとても活用できる部活動!」
「ふーん、真由は入ってないの?」

湧いた疑問をすなおに口にすると、真由はゆっくりと首を振った。

「残念ながら部活動系は全部お断りされていまーす」
「なんで?」
「生徒会と親しいから」

まるで当然と言ったように出された言葉はあたしには理解しづらい。
どうして生徒会と親しいと部活動できないんだ?

「親しいほうがいいんじゃないの?生徒会の情報も入ってくるじゃん」
「そうもいかんのよ。部活動からすれば生徒会はピラミッドの頂点。
 リスクが高すぎる。大抵の部活動はなにかやましいところがあるものだからさ。
 ライオンの隣で巣を作るようなモノだよ。怖い怖い。
 新聞部なんて毎年新聞内容のチェックでやりすぎた記事とかに使ったカメラ、道具を没収されたりしてるから」
「ふぅん」

よくわからない例えが途中で使われた気がするけど、だいたい内容はわかった。
そしてこいつは帰宅部らしい。

「面倒だから部員は少ないんだけどデマの情報をつかむことは少ないよ」
「…なるほど」

面倒くさいのは苦手だけど、情報は魅力的だ。
それこそ、このうさん臭い先輩の弱点をも知れるかもしれない。
少し卑怯だけどこれも弱者の強みだ。

「気になるかな、新聞部」
「うん、それなら有効活用できそうだ。…ふふっふふふふふ」
「悪い笑顔してるねぇ」

ニヤリと笑みをこぼすと、真由が一歩引いたのがわかった。
なに、悪いようにはしないさ。







--sakura--


「御馳走様でした」
「お粗末様でした」

にこっと笑うと同じように笑い返してくれる。
うん、なんとかやってけそうだね。
お弁当は綺麗すぎるほど空っぽだ。

「ごめんね、ほんとにありがとう。おかげで昼から頑張れそうかも」
「ほんとは少し、迷惑かもと思っていたのでそう言ってもらえると嬉しいです」
「迷惑なんてとんでもない!こうやって誰かの手料理を食べるのは久しぶりで嬉しいよ、すごく」
「まぁ、ご両親はいないのですか?」
「お母さんはいるんだけど料理下手だったから自分で作るしかなくて…、だから本当にうれしい」

昔にお母さんが作ってくれたカレーを思い出す。
…カレーってめったに失敗しないのにな。

「…よろしければ明日も作ってきましょうか?」
「い!?いいよ、大変でしょ!?」

気を遣わせたかな…?
本当に嬉しいのは確かだけど…。
慌てて手を振っていた私の手をとると、美月は照れてるのか頬を赤くしながら笑いかけてくれた。

「一人分も二人分も大差ありません。それに、二人で食べたほうが美味しいでしょう?」

ほんとに綺麗な笑い方をする子だな。
発想も少し上品で可愛らしい。

「…ありがとう、そういうとこは真由の言ってたとおりお嬢様だねぇ。
 たしかに、二人で食べたほうが美味しいよね」

私はよく思ったことをすぐ口にして後悔することがある。
言ってすぐ誤解を与えたことに気付いた。

「よくわからないですけど、お嬢様というのはあまり…」
「ごめん!気に障った?そうだよね、お嬢様って言われて喜ぶ人なんてあまりいないよね…」

やっぱり、賢くなりたいなぁ…。
どうして私の頭は弱いんだろう…。

「い、いえ、大丈夫です。私、褒め言葉でお嬢様と言われたことはなかったので素直に受け取れなくて!
 本当にごめんなさい」
「いや、悪いのは私だから!ごめんねあまり気はきかないタイプなんだ」

しょんぼりしたままいじいじとのの字を書く。
あぁ、私がしっかりものだったら良かったのに…。
美月は私を覗きこむと、少し苦笑いしてまたフォローをしてくれた。

「そうでしょうか。本当に気が利かない人は勝手に作ってきたお弁当にお礼なんていいませんよ」
「さすがにそれぐらいは言うんじゃないかな?」
「言わない人もいますよ。咲等さんと親しい先輩は言いませんね」

親しい先輩かどうかは置いといて先輩といえば一人しか出てこなくって思わず似たような顔で苦笑してしまう。

「あぅ…なにやってるのあの人はもう…」




「へっきし!」
「うわ、汚。風邪ひいてんじゃないの?」
「う…おかしいな、生まれてこのかた風邪なんて引いたことないんだけど…」
「あぁ、あんたマジでバカなんだ」
「失礼な…。あー、ティッシュティッシュ」




「そうだ。携帯は持ってますか?」

空気を変えようと思ったのか美月はポケットから携帯を取り出した。
なんだか美月と携帯ってミスマッチだなぁ。

「うん、ある。アドレス交換?」
「はい、最近は便利ですね。赤外線でプロフィールが簡単に送れるんです」
「それ、けっこう昔からあるシステムだよ?」

あ、またやっちゃったかも。
私の言葉にちょっぴり不思議そうに首をかしげた美月。

「…そうなんですか?」
「うーん、まぁ携帯の機種によってはない人もいるけど…。はい、完了っと」

ピロリと音を立てて私の携帯に美月のアドレスが送られる。
お返しに美月の携帯に私のアドレスを送るとまたピロリと音が鳴った。

「これでいつでも連絡が取れます。ミッションを受け取ったり、何かあったらいつでも呼んでください。仮とはいえ、私はあなたのパートナーです」

携帯をぎゅっと抱きしめると、しっかりと私の目を見て美月は微笑んだ。

「うん、美月も何かあったらちゃんと呼んでね。いつだって守りにいくから。
 …あ、れ?でもおかしいな。私のほうが弱いから守りにいくなんて…」

普通に考えて守られちゃうの私のほうだよね?
あ、でも盾ぐらいにはなれる?
でも痛いのヤだなぁ…。

「いいえ、嬉しいです。私は、あなたと二人で戦いたい」

私の言葉に頬を上気させた美月が目に映って私も頬が赤くなる。
二人で…戦う…。

「な、なんか、プロポーズみたいだね」
「…そ、そう、ですね。なんだか変ですね」
「へ、変じゃないよ!うん、だいじょぶだいじょぶ」

変に考えちゃダメだって…!
なんか微妙な空気に…。



キーンコーン



「あら、今のは昼休みが終わった本鈴じゃ…」
「え、えぇ!?わぁああ!?また遅刻だぁああああ!!」

慌ててご飯のお礼を言ってお弁当の箱はしっかりと握って階段を駆け降りた。
明日、洗って返そう。うん。

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