Lily memo %



第二話 前編


「あんた、意外と手がはやいな」
「へ、なんで?」

なぜだか自然と反省会のように部屋に集まった私たち。
ニャヒルも野中先輩も部屋に戻らなくていいのかな…。
今日私が起こったことを整理すると、ニャヒルは真っ先に突っ込んできた。



「契約ってさ、キスだろ。ちゅーだろちゅー。マウストゥマウスだよ」



「え、えぇぇぇええ!!?」

してないよ!?
してないよね!?
しっかりとあの時、違う場所に触れられたはず…っ!

「初対面でキスなんて手が早いよ」

私の反応なんて露知らず、ニャヒルはにやにやと私を見てくる。
恥ずかしいよ!そんなこと人前でできないよ!

「キスって、お、おでこにしかされてないよ!!」

慌てて叫んだ言葉にニャヒルと野中先輩は思いっきり噴出した。
…なんだかここはひどい人たちばっかりだ。

第二話 異文化コミュニケーション、またの名を餌付け




「なんだ、仮契約か。びっくりさせるなよー」

詳しく起こった出来事を説明させられるハメになった私はもうすでに満身創痍だ。
あんなことがあった後だし、もう疲れた、ちょっと寝たい。

「つまり、仮契約は顔のどこか、本契約はその、まぁ、マウストゥマウスなわけだね」

野中先輩やニャヒルの話を元に自分の考えをまとめる。
パートナーっていっても2種類あるんだね、知らなかった。

「そう、契約を結べばマスターは相手の魔力も自分の魔力も好きにできるんだよ。全部奪うもよし、邪魔なら渡すもよし」
「魔力魔力って、そもそも私たち接近戦の武器なのに何に使うの、魔力」
「ライフウェポンは水晶に魔力をそそぐことで成り立ってるんだから、全部渡し切るとその武器すら出せなくなるよ」

野中先輩は爽やかに笑うと、嫌なことを言った。
…それって魔力がないとすごくやばいってことだよね?

「じゃあ空っぽにするわけにはいかないんだね」
「空っぽの状態じゃまともに立ってられないらしいけどなー。っつーかさ、あんたはいつまでここにいんのよ」

当然のように布団の上をゴロゴロしている野中先輩にニャヒルの足が当たった。
ニャヒル!その人一応先輩だよ!
でも野中先輩は気にする様子は無くって、むしろ楽しそうに笑っていた。

「今日はなかなか容赦なかったからさ、アフターケアを先輩は命じられてんのさぁ。っていっても部屋にまで来る必要はないんだけどね」

そう言ってカラカラと笑う野中先輩はけっこう面倒見がいいのかな?

「そうそう。鍵ちゃんとかけとかないといつ戦闘不能にさせられるかわかんないよ。戸締り大事。あと、先輩はいらないかな。堅っ苦しい」

ときどき言葉の爆弾を落としてくるのは面倒見が良いうちに入るのかな。
いろいろ教えてくれるのはうれしいけど心臓に悪いことばっかり…。

「げぇ、これから寮生活なのに寝込み襲われるの!?」
「そういうこともあるね。寝てる間に咲等の武器みたいな鎌でさっくりやられたら1日はそいつを好きにできるから」

同じく知らなかったらしいニャヒルががっくりと頭を抱えた。
それを見てまた楽しそうに笑う。
とにかく笑う人だな、この人。
ぼんやりと落ち込む私にニャヒルが更に追い打ちをかけてくる。

「…咲等、やるなよ?」
「や、やらないよそんなこと!」
「友人だからって安心できないよー?」

必死で否定しても野中先輩が変な後押しをしてくる。
変に煽らないでください…。

「脅すなよ!真由!」
「…先輩はつけなくていいって言ったけど呼び捨てにしろとは言ってないよーん」
「痛い痛い痛い痛い!!!!」

ニャヒルは怖いもの知らずだなぁ…。
あぁ、痛いんだよね。こめかみグリグリされるのって。

「なんだよ、真由で十分じゃん」
「あの、野中先輩、落ち着いてください。ほら、ニャヒルも悪気はないですから!」

私の後ろに隠れるニャヒルの頭をゆっくりと撫でながら先輩に向き直る。
喧嘩するほど仲が良いっていうけど暴力はダメだよね。

「まったく、咲等はこんなに良い子なのになんでこいつはこんなに生意気なんだか…。あ、咲等は真由って呼んでもいいよ。良い子だからね」

う…先輩を呼び捨てかぁ…。

「ひいきだ!公平に扱えよ先輩!」
「ふーんだ。ひいきしちゃうもんね。ざまぁみろ!」

あぁ、また食ってかかるし…。
止めないと。
…うーん、よし、私も呼んでみようかな…。
真由。
真由…。

「あ、あの…」
「うん?」
「え、えと、ま、真由…で、いいのかにゃぁ!?」

全部言い切る前に視界が真っ暗に!
首をちょっと強引に回すと呆れたようなニャヒルの顔が見えた。

「かぁっわいいなぁー。ニャヒル、これ、拉致ってっていい?」
「えぇ!?」

あれ、もしかして頭抱えられてる?
いや、それどころじゃないよ。
首!締まってる!
キマっちゃってる…っ!

「ダメ。そもそもあたしのじゃない」
「それもそうだな。パートナーは私一人で対抗するには少ーし難しい相手だし」
「うぐぐ…、く、苦しいです…」

プロレスのように手をパンパンと2回叩くと、軽いゴメンが聞こえた後に視界がクリアになった。
ふぅ、死ぬかと思った。
ふとさっきの真由の言葉を思い出す。

難しい、相手?

「って、え?そんなすごい人だったんですか?」
「あれほど魔法使いらしい魔法タイプは珍しいよね。ライフウェポンの力添えもあってか大規模魔法だって出せるし。私なら敵に回すなんて考えたくもないねぇ」

そうだったんだ…。
あんな大きな魔法初めて見たからすごいと思ってもどれほどのものかわかんないし…。
そもそも魔法って家事炊事に使うものだと思ってたし…。

「おぉー、そんな凄い人なわけ?。玉の輿じゃん」
「それはちょっと違うんじゃ…」

玉の輿って…考え方がちょっとアレだよ、ニャヒル。

「まぁ確かに玉の輿ではあるかな。現代の魔法の研究の第一線にいる人が父親なら給料もいいだろ」
「え」

魔法研究の第一線?

「そ、それ!大魔法使いのことじゃんか!そもそもの魔法を研究してる偉い人たちだろ!」

大魔法使いっていうのはさすがに世間知らずの私でも知ってる。
電気の代わりに魔法を作り出し、一躍有名になった人たちだ。
昔のことだからだいぶ代替わりはしてるみたいだけど、それでもいまだ新しい研究を重ねて世界でも引っ張りだこ。
そこにはもともとの魔力と天才的な頭脳を持ち合わせた魔法使いと呼ばれる人たちがたくさんいるとか。

「うん。フランスのクォーターでね。そっちの国で生まれて大切に育てられたらしい。魔力の量は膨大だし、お金持ち。うーん、すっごいなー」

はっはっはっと豪快に笑う真由の横でニャヒルは悔しそうに机をバンバン叩いていた。
…それ、私の机なんだけどな。

「くっ…あのときあたしが根性で起き上がっていたら…っ!」
「あはは、それはないなー」
「にゃんだとう!?」

軽く否定する真由の横でまたニャヒルは激昂する。
…真由って火に油を注ぐのが好きな人なのかな…。

「で、どうなのよ。どういう関係なわけ、あんたがた」
「うん、そこは聞いとかないと。どうなのよ」

途端におじさんのようにあぐらを掻いて迫ってくる二人。
…二人は息が合ってるの?それとも似た者同士なの?

「ど、どうも何も…。ちょっと色々あってなんか急に話しかけられて…。か、可愛い子だとは思ったけど…」
「む、前に出会ってたの?」
「実は…」

かくかくしかじか。
朝の出会いを大体覚えてる限りで話す。
猫さんのこと、話したこと。

「おぉー、ベタだねぇ。猫を助けたところを見られて胸キュンなんて、やだ、ツボにはまりそう」
「あんた、胸キュンは死語じゃないか?」
「それで?マスターはどっちなんだ?あの子か?咲等か?」

ニャヒルの茶々はもはや耳に入らないみたいで、ずいずいと真由はこっちに顔を寄せてくる。

「わ、私みたい。マスターって呼ばれたから…」



-今これより、あなたは私のマスターです-



うわ、思い出しても恥ずかしい。
おでこに触れた優しい感触が…。

「ふむ、それで?柔らかかった?」

ぶっふぉー。
含んでいたお茶が宙に舞う。

「って!な、何を聞いてるんですか!」
「咲等、水芸みたいになってたぞー」

慌てて口を拭いて顔を隠す。


すごい、絶対、真っ赤だ。


おでこに触れた小さな柔らかい感触と目の前いっぱいに広がった白い肌。

「いやぁ、あんな小さい子のちゅーだよ。さぞお楽しみではなかったのかと」
「お、お楽しみ!?」
「おい、おっさん。咲等が沸騰しかけてる」

ニャヒルに言われて頬を挟むとすごく熱かった。
やっぱり向いてないよこの学校…。
そんな私の様子を見て真由はまた笑った。

「あっはは!ウブだねぇ。そんなんじゃあ本契約までいけないよー」
「うぅ…」
「そういやさ、本契約ってなんか女子高的にありなの?」

今更だけど、と付け足してニャヒルが真由の裾を引っ張る。
確かに他のことに驚きすぎてその辺が曖昧だった気がする。
どうなんだろう、だって、本契約だと…ねぇ?
私達の顔を見て真由は少し苦笑した。

「女子高だからじゃない?人によってはそんな感情捨てて強くなるためだけに本契約を交わすやつもいれば、卒業後もパートナーであることを誓って一回だけ我慢して本契約に持ち込むやつもいる。まぁ、結構な割合の人が本契約まで行かずに卒業してるよ。安心なさい。逆を言えば契約せずに高校生活を終えるヤツもいるしね」

そこまで一気に喋ると真由は布団にボサッと倒れこんだ。
説明疲れたのかな?
昼からいっぱい聞き通しだから。

「へぇ、じゃあ別に無理にファーストキスを奪われなくてもいいわけだ」

ポツリとそんな声が聞こえた。
その声に反応してダルマみたいに真由が起き上がる。

「ファースト…ねぇ。ほほぉー」
「な、なんだよぅ。気持ち悪い目で見るなよな!変態!」

真っ赤な頬を隠しながらさり気にひどいことを言うニャヒル。
これには真由も傷ついたみたいだ。

「へ、変態!?」

ここぞとばかりにニャヒルはヤケになることにしたらしい。
…でも、まだほっぺた真っ赤だよ?

「ふんっ、そもそもパートナーなんて私はいらない!独立だ独立!」
「最初のころと言ってることが違うよ?」
「いいんだよ!成績だって戦闘をさけて取ることはできるんだろう!」
「一応、ミッションだってレベルに見合うものがもらえるからそうそう失敗するもんでもないし。まぁ変な先生に気に入られたら無茶も言われるけどさ」

ニャヒルの勢いに押されて真由の笑顔はまた苦笑に変わった。

「え、そうなんですか?でも今日のミッションはあからさまに難しかったと思うんですけど…」
「そうだそうだ!勝てるわけないじゃん、あんなの!」
「まぁあれは新入生の小手調べってもんだから勝たせるつもりはあまり無かったし。魔法使い相手に接近できただけすごいほうだよ。そうだ、咲等。陸上か何かしてたの?すごいジャンプ力だったけど」

興味の矛先はこちらへ向いたらしい。
私の足をまじまじと興味深げに覗きこんでいる。
…ちょっと恥ずかしいよ。

「全然。体育は得意だったけど特別に何かしてたわけじゃないよ」
「ふーん?」

実際に体操もしてなければ足だって速くない。
ちょっと身軽なくらいかな。

「…咲等は鈍そうだと思ったのに…。ドンくさいやつが隣にいれば少しは自分がすごく見えると思ったのになぁ〜」
「見込み違いだったね。咲等は化けるんじゃないかな。パートナーの魔力量も膨大だし」
「うぅぅ…裏切り者ー!」
「えぇぇ!?う、裏切ったわけじゃないよ〜!」

なぜか私に怒りだしたニャヒルの腕を必死に止めながら、少しだけ楽しかった。
初日なのにすぐにこんな友達ができて良かった。
そんなのんきなことを考えていたら視界の端で真由が不敵に笑ったのを見てしまった。

「気をつけなよ」

声は相変わらず薄っぺらいままで表情をころころと笑わせる。

「強い人と一緒にいるってことは周りからそれを横取りしようとするやつも出てくるし、先生もそれ相応の難題を押し付けてくる。ライバルと思って寝込みを襲われることもしばしば。…気をつけないと、怪我じゃ済まないかもよ」
「うわあ…」
「まぁ、あの子が頑張って守ってくれるとは思うけどね」

頭に?を浮かべる私たちを余所に真由は少し楽しそうだ。
できれば、平和な生活でありますように。

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