--sakura--
「えぇ!?負けちゃった!?あぁ痛ぁ!」
あぁ、よそ見なんてしてる場合じゃない!
世にも奇妙な恐怖のシャワーはまだ続いている。
「あら、よそ見するなんて失礼な子ね!」
「ひぃい!?や、やばっ!」
風紀委員長から出される水の量が増える。
これ以上されたら直撃してしまう!
こりゃかなわんと一直線に横へ走った。
距離は離れず地面を転がったり蹴ったりしながら必死に逃げる。
「ふふふ…そう。まだ逃げるのね。悪い子…おしおきだわ!アクアキャノン!」
シャワーが一瞬止んだかと思えば今度はキャノンだって!?
その名の通りすごいスピードで大きな水玉が飛んでくる。
「あ、そっか、叫ぶ名前によって魔法の大きさが変わるんだぁ…じゃなくて!やばい、わ、うわ、うわぁああ!!」
せっかく掴んだ魔法の法則も役にたたず、やはり逃げるばかり。
もはや逃げ切れてもいない気がする。
すっごい痛いです。掠っただけなのに…。
右足に大きめのものが掠って視界が低くなる。
「うわぁ!?」
お腹を打ちつけ、地面に転がる。
この分じゃ足も手も擦りむいたに違いない。
「これだけ逃げ続けて懲りたかしら。疲れたならいますぐ楽にしてさしあげてよ」
風紀委員長も疲れたのか、魔法が途切れた。
それでも手をのばしたまま、近寄りでもしたら撃たれそうだ。
「あの小さな武器から砲弾みたいに打ってくるんだ。せめて近づくことはできないかな…。あ、でも近づいたらもっと痛いかも…」
やっぱり堂々巡りになりそうな思考回路。
私、この学校向いてないかも。
いやいや、今はそんなことより現状打破だよね。
いっそ逃げようかな、いやでも逃げたら単位が…。
とりあえず立たないことには何もしようがない。
「あら立った。あきらめの悪い子ね…もう一発お見舞いしてあげるわ!」
あぁ、まずい。
そんな大きいのもう無理だよ…。
これを喰らえばさすがに限界、かな?
「防御します!アイスボール!」
「ほぅあ!?」
せめて痛くないようにと歯を食いしばっていたせいで変な声が出た。
目は開けていたおかげで何が起きたかは理解できた。
水が弾かれたのだ、氷に。
驚いて辺りを見回すと後ろには見覚えのある姿。
今朝の桜の妖精さんだ!
「…今朝の桜吹雪の子!君もミッション?っていうか今のなに?」
ぶしつけな質問に彼女は気を悪くすることなくニッコリと笑った。
「氷魔法です。私は全種類の魔法が使えますので対策をたてやすいんです。今朝のことを思い出しながらぼぅっとしていたら先生からミッションをいただいてしまいました」
少し顔を赤らめながら話す姿はとてもかわいい。
けどちょっと気分は置いてけぼりだ。
だって、…氷、魔法?
「私のクラスは少し話が長引いていたようなので今急いで来たところなのです。残っているのは5人とうちのクラスの数人だけですね」
首をかしげている私を変に思ったのか彼女はここに来た理由を教えてくれた。
でも私が理解してないのはそこじゃないんだけどね。
一通り説明を終えると、彼女は嬉しそうにポンと手をたたいた。
「パートナー制度についてはご理解いただけましたか?」
「親切なクラスメイトのおかげで、なんとか。あの、それより…ミッションが…。ご友人頑張ってらっしゃいますけど…」
ふとミッション中だったことを思い出して風紀委員長が立ってたほうへ顔を向ける。
どうやら彼女と一緒のタイミングでここへ来た生徒が頑張っている。
しかも結構善戦。…5vs2だけど。
「私考えたんですが、やっぱりあなたと仮契約を結びたいと思うんです」
いいのかなぁ、ミッション。
この子は結構目の前のこと以外目に入らないタイプみたいだ。
「仮契約?」
「えぇ。よろしいですか?つまり、パートナーになるということです」
よろしいですかと言われても私自身まだしっくり来てないんだけどな。
…正直に言ってしまえば良い人そうだし「いいかな」と思っているけど今この場で話す内容なんだろうか。
彼女の優先順位がわからない。
「別にいいけど…どうするの?っていうかミッションほっといていいの?」
「クラスメイトの方々が頑張ってくれているので大丈夫です。パートナーをもつと魔力は増え、力が湧きます。1人で2倍の力に、2人一緒にいればそれは何倍もの力になります」
あ、一応見てはいたんだ。ちょっと私ってば失礼だったかな。
それにしてもすごいなぁ、パートナー制度。
ちょっと朝にやってる女の子ヒーロー物みたい。
新しい情報ばかりで少し頭が混乱しているけどとりあえず悪いことじゃないんだよね?
「すごいねパートナー制度」
「私と契約することに興味を持っていただけましたか?」
女の子は私の言葉に顔を輝かせた。
「う、うん。えっと、つまり、これから二人で一緒に頑張ろうってことだよね?」
自分なりに要約した答えを出すと、彼女は少しきょとんとした。
…間違ったのかな。もしかしてこういうのって一回きり?どうなんだろ、そこまで詳しくは…。
「…そうですね。はい、二人で色々乗り越えていくんです。素晴らしい例えです」
ちょっと悩み始めたところでやっと彼女が反応してくれた。
良かった、間違ってなかったんだ。
それにしても、嬉しそうな顔してるなぁ。そんなに的を得た答えだったのかな?
ちょっと賢くなった気がする。
「そうかな。うん、それならしてみたいかも」
ちょっと嬉しくなった私は笑顔で頷いてみた。
悪い人じゃなさそうだし、いいよね?
…っていうか私でいいのかな?
決断を下して、ちょっと不安になったところで手を差し出された。
…握手?
「それでは、私に手を重ねてください」
「え?あ、うん」
<この場における全ての結合を拒絶します>
手を重ねた瞬間、ふわりと周りの空気が変わった。
暖かいようなくすぐったいような、変な感じ。
<今、この場にいるのは、運命を共にする二人のみ。魔力を結び、絆を結びます>
少し空気が動いた感触がして自分を取り戻してみると、視界が狭くて驚いた。
目の前にあったのは彼女の白い肌だった。
おでこに柔らかい感触がして、それが何か思いついたときにはまた元の空間に戻っていた。
「!?」
「仮契約を結びました。今これより、あなたは私のマスターです」
「マスター?っていうか今なんでおでこにちゅーしたの?」
あぁ、頬が熱い。
たぶん今私って顔真っ赤なんだろうな。ヤだなぁ、恥ずかしい。
そんな私の気持ちは知ってか知らずか彼女はニコニコしている。
…やっぱ女子高はハレンチだ。
「はい。あなたがマスターです。キスさせていただいたのはそれが契約の形だからです。顔への粘膜接触で魔力を繋ぎ、絆を結んだのです。それでは、手始めに風紀委員長さんを二人で一緒に撃破しましょう。いつまでもクラスメイトの人たちだけでもきついでしょうから」
そっか、ちゅーしたのは<やむを得なかった>ってヤツだね。
ちょっと、残念。
…あれ、なんで残念なのかな?
あぁ、ダメだ考えちゃ。ミッション!集中!
「うわ、なんだか体が軽いね」
「契約を結びましたからね。本契約になるともっと動きやすくなりますよ」
「へー。なんだかよくわからないけど、ありがとう」
動きやすくなった体でぎゅっと鎌を握ってみた。
あいかわらず私自身を頼りなく思うけど、この魔法とやらは信じてみてもいいかもしれない。
ふと手を上から握られて振り向くと、彼女は満面の笑顔で私を見ていた。
「お礼をいうのは私の方です。これでようやく私に本当にパートナーといえるパートナーができたんですから」
「へ?」
「魔法は全て私が打ち消します。あなたは隙を見て風紀委員長さんを打破してください」
「が、がんばるよ」
「はい。それでは、まいります!」
女の子は大人しい印象があったけど結構戦っちゃうらしい。
手に持った杖はあの風紀委員長さんと同じく魔法タイプってやつかな。
風紀委員長は私たちの存在に気付くと、目をギラつかせた。
…ちょっと怖いです。
「…この短い時間でパートナーを作るなんて…破廉恥だわ!ぃやああぁあああ!!!」
完全に怒らせてしまったらしい。
っていうか破廉恥って…。
よもや技名も無く、でたらめな大きさと速さで魔法が飛んでくる!
慌てて逃げようとすると、すっと女の子が前に出た。
「迎撃します」
迎撃?
「アクアキャノン!」
「フレイムキャノン!」
目の前で火と水がぶつかりあい、蒸発した。
風紀委員長さんはもしかして水しか出せないのかな?
っていうか一気にぶつかりあったせいで爆風凄い。怖い。
「さすがアレクサンドさん、魔力はあちらの方が上ね。ならパートナーごと巻き込む!ブルーウェーブ!」
「広域魔法…。それでは、アイスウォール!!」
波が来たかと思うと今度は氷の壁が現れて水の一滴も通さなかった。
…魔法ってこんなすごいものだったんだ。
家で見るようなものしか知らなかったから…。
むしろこんなのアニメでちょっと見たぐらいのもんだよ。
「…くっ、負けないわ!生徒会の意地を見せてあげる!」
「初めての共同作業です!負けるわけにはいきません!」
すでに気持ちは完全に置いてけぼり。
確実に共同作業ではなく1on1ですよねこれ。
…もしかして私はここで感心して傍観してる場合じゃない?
でも下手に動くと巻きこまれそうだしさっき魔法が掠った腕も痛いし…あうあう。
何か…何か方法が…。
「シャワーレイン!」
「ブリザードミスト!」
うぅ、なんか二人の攻撃の範囲がどんどん広く…。
距離をとって後ろに…は、不安だなぁ。
あ、魔法で力が増えてるって言ってたよね!だったら筋力とかも増えてるのかな…。
魔法合戦は結構地面近くでやってるし…。
「うん、やってみようかな。上手くいけば…」
思い立ったが吉日。
魔法の影に隠れるように(ほんとに隠れきっているかは微妙)なるべく平行に横に移動する。
前に進めば見つかって一人叩かれるかもしれない。
そしたら今度は起きていられる自信はない。…いや、成功する自信もないけどね。
「シャワーレイン!」
「さっきと同じ魔法!?」
「いいえ、いくらあの美月・アレクサンドといっても、生徒会が1年生に負けるわけにはいかないわ!喰らいなさい、私が改良に改良を重ねた水魔法!シャワーミスト!!」
魔法合戦はどうやら白熱しているらしく、どんどん範囲は大きくなっていく。
これ、当たったらどうなるんだろう…。
やめよう、考えたくもない。
すでにちらちらと体に掠っているだけでも十二分に痛いんだもの。
「…量が多い!間に合わない!?きゃぁあ!?」
まずい。女の子が魔法に直撃した!
大丈夫かな、すっごい痛いよね、あれ。
あんなに小さな体だともっと痛いかもしれない。
戻ろうかな。でも、ここまで来たら戻った瞬間撃たれる?
頑張ってくれたんだから、成功、させないと。
「いくらあの大魔法使いのお嬢様でも魔法で私に勝とうなんて…あら、もう一人の子がいない!?…もう一度よ!高域魔法、ブルーウェーブ!」
頭が真っ白になって、気付けば足に力を入れていた。
足の下を青い青い水が通り過ぎていく。
「…さて、どこに倒れたかしら?」
きょろきょろと見回す風紀委員長さん。
きっと、倒れているはずの私の姿を探しているんだろう。
でも残念ながら地面を探してみつかるはずないんだ。
だって跳んでるから。
あ、でもまずい。
「う、うわぁああぁぁぁあぁぁあああああ!!!?」
「き、きゃぁあああああああああああああ!!!!」
着地のこと考えてなかった。
それもちょっとタイミングが早過ぎたみたいで足にちょっとブルーウェーブとやらがかかった。痛い。
痛みと考えなしが引き起こしたのは盛大なズッコケだった。
…恥ずかしい。
「い、いたたっ…いっぱい掠った…。痛…」
「なっ、近っ」
「わ!?わ!?わぁああ!」
「きゃ!?ひっ!」
起き上がって顔をあげるとすぐそこに風紀委員長さん。
ひぃっ近い!
慌てて手にしていたライフウェポンをぶんぶん振りまわすとふいを突かれてよたよたと風紀委員長さんが逃げる。
それをまた足に力が入らない私がよたよたと追いかけている。
あ、当たるかも。そう思ったときに腕をガッと掴まれた。
「なんだその切り込み方は!」
「わわわ」
振り向くと背後に大きな人が立っていて、顔を確認して体育委員長さんだとわかった。
こんなに近くで見るとこんなに大きいんだ…。
「大した跳躍力だ!だがな、せっかくのチャンスに攻撃できなければ意味がないぞ!」
体育委員長さんは言うだけ言うと手を思いっきり振りまわした。…私を持ったまま。
「うわぁああ!!?」
投げられて思いっきり壁に叩きつけられたかと思うと、トドメのよう大剣を振りかぶってきた。
刺される!と思ったときにはもう意識は無く、気付けば世界はブラックアウト。
「はっはっはっ!!!!どうした!他にもっと面白いやつはいないのか!!」
まだ生徒は数人残っていたようだけど、私はそのまま起きることなく気を失った。
争いごとにはやっぱり…向かないな…。
--mayu--
「あぁ、やっと終わった。さっきは助かったわ。野蛮人」
「なぁに。面白そうだったから参加しようと思っただけだ。最後はとても残念だったがな」
なんという残酷な会話だろう。
1年生たちはあんなに必死にやっていたのに、やっぱり生徒会は気がしれない。
頭が良いヤツラっていうのは、どうしてこうも周りが見えないヤツが多いのか。
この学校の生徒会はその典型的な集合体だよ、まったく。
なんとなく腑に落ちない気持ちで爽やかに笑っている二人の間に水を差すことにした。
「…今年は粒揃いだねぇ。ちぇ、せっかく新入生に生徒会が倒されるという面白いシーンが見れるかと思ったのに」
わざとらしいくらい口角を上げて救護される生徒達を見下す。
二人は私の存在に気付いたらしく、上を見上げた。
「あら、戻ってきてたのね。血犬」
「略すな!それじゃ痴漢の犬みたいじゃないか!」
「あら、違うのかしら。人前で相手に了承を取らず勝手に契約結んでそのあと相手にビンタされた破廉恥な犬でしょう」
見下しているのは私のはずなのにどうやら態度で見下されているようだ。
まったく、痛いところばかりをキツツキのように突いてくる。
決めた、今度出会い頭に『キツツキ』って呼んでやる。
「あんた、私に恨みでもあるの?」
「えぇ、あなたみたいな野蛮人は嫌いよ」
「待て、誇り高い体育委員である自分とこの血犬を一緒にするな!」
同じく野蛮人と呼ばれていた一人が声を荒げる。
こちらこそ一緒にしてほしくない。
生徒会なんてヤヤコシイもの、嫌いなのだから。
しかしながら口に出せばまた面倒なことになるのでそこはスルーすることにする。
「野蛮人は否定しないんだ。っていうかだから人を変態みたいな呼び方するなというに!まったく…すこしは救護班を手伝ってやろうとは思わないの?さっきから目の前で当てつけのように倒れた生徒を運んで行ってるっていうのに…」
「私は悪い生徒に罰を与えただけよ」
「ふーん。その割に最後は楽しんでなかった?」
「うむ、楽しそうだったぞ」
「そうかしら」
体育委員長から突っ込まれても軽くスルーしやがった。
ほんと性格悪いよこの女は。
…でも、確かにあれは楽しかっただろうな。
鮮やかなジャンプに驚異的なその高さ。
思わず目を奪われそうになった。
「体育委員長に突っかかっていたナイフのやつも楽しそうだったけど特にあいつ、帽子被って超ジャンプしたヤツ。奥井咲等って言ったかな?あいつ、いくら仮契約を結んだとはいえすごい跳躍力だ。電柱ぐらいはジャンプで登れるんじゃない?」
「それは言いすぎだわ」
そうかな。
でもあれは高かったと思うんだけど。
「確かに魔法を避けるなら一番魔法が飛んでいない場所を選ぶのは妥当だよ。けど、あんな広域魔法をジャンプでよけるなんてよく思いつくなぁ」
「電柱は言い過ぎだが木ぐらいは一足跳びで登れるかもしれないな」
「でも空中で魔法をよけることはできなかったのか被弾しまくってたけどね」
「おかげで鎌を振り回したときはフラフラだったわね。使い方もなってないし」
「しかしあれは特訓すればとても良い動きをするようになるに違いない」
三者三様ベタ褒めか。
本当に期待大だね。
「特訓って直接かかわる気かね」
「楽しそうじゃないか。生徒会に入っては来ないだろうか」
冗談じゃないなぁ。
あんな面白そうな子、生徒会にとられるわけにはいかない。
「うん、ま、なんにせよ。楽しそうだね、今年は」
体育委員長の何も考えてないような言葉に軽く突っ込みながら木の上でぐっと伸びをした。
退屈しのぎになるなら、なんでも大歓迎さね。