見事な桜が咲いている。
状況のせいでちょっと間抜けではあるけど、私は少し穏やかな気持ちになった。
大人しくしていた腕の中の猫が一鳴きした。
「…綺麗な桜だねぇ。登りたくなる気持ちもわからないでもないよ?」
にゃあ、なんてのんきな声をあげる猫。
可愛いから許せるかな、なんて考えながらぼんやりと桜を見上げる。
「でも降りられないようなとこには登らないほうがいいと思うんだ。…そもそも猫ってどうやって木登りしてるんだろう?あ、塀から移ってきたんだね。…あれ、でも塀にはどうやって?」
気になって考え出すと止まらないのは昔から悪い癖だ。
多少の時間が流れていたことに気付かない。
また猫が鳴いてくれたので慌てて自分を取り戻した。
「あぁ、ごめん。今降ろすね」
昔から木登りだけは得意だった。
だから高いところから飛び降りるのはちょっと得意。
「んー、よっと」
そっと木の上から飛び降りると、桜吹雪に似合う素敵な笑顔の女の子が立っていた。
女の子の目線はまっすぐ私に向いている。
ずっと見上げてたのかな?
見られてたのかな?
やっと高校に着いたと思ったら木の上に猫が居て、それを助けようとして木を登っていたのだけれど。
少し変な人と思われたかもしれない。
何か言わなきゃ。
「えーと…」
じっとこっちを見つめているのはなんでだろう?
何かついてるかな?
何か話しかけたほうがいいのかな?
腕の中に居る猫の存在を忘れそうになっていたときに女の子がそっと口を開いた。
「私と契りを交わしてもらえませんか?」
「はい?」
--sakura--
ちょっと、頭が真っ白かもしれない。
「…やっぱり、ストレート過ぎましたか?ごめんなさい、つまり、あなたと契約を結びたいのですが…」
間が空きすぎたのか、女の子は少し慌てた調子で言葉を付け足した。
でも残念ながら何の話かすらわからない。
契りってなんだろう。
「えっと、なんの?」
「あなたのパートナーになりたいということです」
「んー…と…ぱぁーとなぁ?」
ダメだ、混乱してきた。
頭がぐるぐるし始めてきた私を余所に女の子はニコニコとしている。
私、頭良くないからもうちょっと説明がほしいんだけど…。
「はい、パートナーです」
…何のパートナーなんだろう。
「あ、あの、そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど…ほんとに何のことか…」
「…そうですよね、急に初対面の人にパートナーになってくれと言われても無理ですよね…」
私の言葉に急に女の子は落ち込み始めた。
無理とか以前に何の話かをしっかりと話してほしいのだけれど…。
学校でパートナーって言ったらやっぱり学級委員か何かかな?
それとも体育会系の部活動だろうか。
考え込むとろくなことはないので正直に聞いてみるのが早いよね。
「だから、なんのパートナーか教えてくれると嬉しいんだけど…。友達とは違うの?」
女の子は少し俯いていた顔をあげて驚いた顔で私を見た。
よく見ると小さくてとても可愛らしい女の子だ。
同級生かそれ以下かな。
「…あら、もしかして…外部生の方ですか?あんまり軽やかに動くものだから内部生かと…。それでも知らないということはもしかして何も知らずにうちの学校を受験したのですか?」
少し胸に痛い。
悪気はないのだろうけど何も知らずに受けたことをちょっと非難されたかのように感じてしまう。
悪いのはほんとに何も知らない私なんだろうけど…。
「親戚の勧めで…」
「そうでしたか…。すみません、早とちりをしてしまいました」
ほんとに悪いと思ったのか女の子はすごくシュンとして小さな体がさらに小さくなったように感じた。
これ以上小さくなって消えちゃうと困るとかあり得ないことを少し考えながらフォローを入れた。
「いえいえ、悪いのは何も調べずに大事な思春期を迎える学校を選んだ私だから」
おどけながらそう伝えると今度はおっとりと笑ってくれた。
そういえば彼女はさっきからくるくると感情を変えながらもずっと笑顔でいた気がする。
不思議な人だな。
「先ほど猫を助けたときの俊敏さとはかけ離れてのんびりした方なんですね。ちょっとだけやんちゃな方だと思ったのですが」
「昔から体力には自信があるんです。ただ性格があんまりマイペースなのですぐドジるんだけど…」
なんだか心地良い空間に支配されてなんとなく自分も笑顔になってくる。
ふと腕の中からにゃあって聞こえてきて慌てて床に下ろした。
あ、猫のこと、すっかり忘れてた。
「ごめん。すっかり忘れてた。もうあんまり高い木にのぼっちゃダメだよ」
しゃがんで猫に目線を合わせると猫はふいと顔だけを背けた。
どうやら桜を見ているらしい。
「まあ見事な桜だものね。上にのぼってみたくなる気持ちはわかるんだけど、でも桜の木って毛虫が多いからのぼらないほうが…」
「猫さん、もう行ってしまいましたよ」
私も桜を見上げていたから、猫がすでに去って行ったことに気付かなかった。
「え…。あー…しょうがないかなぁ。猫だもんね」
ちょっぴり寂しい気持ちをぼんやりと空気に漂わせながら少し地面にのの字を書きたい気持ちになった。
クスクスと可愛らしい笑い声に少しだけ恥ずかしくなる。
「…やっぱり私、あなたのパートナーになりたいです」
そんな私の何に惹かれたのか、女の子は呟くようにそう言った。
当然私にはやっぱり何のことかわからないので生返事を返すしかない。
ふと、時間をすっかり忘れていたことに気付いた。
なぜならチャイムの音が聞こえたから。
「あら?この時間では遅刻するかもしれませんね。急ぎましょうか」
「え、うわぁ!?」
慌てて走って校舎へ向かってから、女の子の名前を聞き忘れたことに気付いた。
…結局パートナーって何の話だったんだろう。
「あー…間に合わないかと思った…」
走って走ってたどり着いた教室でぜぇぜぇと息を切らせて少し乱暴に椅子に崩れる。
あぁ、喉が痛い。
全力疾走なんていつぶりだろう。
「…自分、入学早々遅刻ギリギリなんて度胸あるねー。教室に着いて帽子もとらないし。はい、水」
すっと手が伸びてきて水を手渡される。
隣の女の子はどうやら親切らしい。
特徴的ななきぼくろの少女はニッと笑った。
「あ、ありがとう。私、奥井咲等」
「太秦ニャヒルだよ。まぁ、来てないやつらよりマシかぁ。こんな学園じゃあねぇ」
太秦さんは皮肉のような口調でぼやきながら周りを見渡した。
確かに数人分は席が空いている。
言ってることはあまりよくわからないけど悪い人じゃないみたいだ。
水を有り難く頂くことにしよう。
「…こんな学園?」
「こんな、で十分でしょ。危ない学校だよほんと。もっと楽な高校行きゃ良かったなぁ」
あーぁ、なんて呟くと太秦さんは体を伸ばした。
楽な高校…?
ここは楽じゃないんだろうか。
「何が危ないの?」
「…あんた、何も知らないのか?」
う…。
また胸に言葉のナイフが刺さる。
やっぱりもっとちゃんと色々話とか聞いておけばよかったなぁ…。
とにかく急いで学校決めたから…。
「勧められて受験したのはいいんだけど何も知らなくて…」
そう告げると太秦さんはびっくりしたのかぐっと顔を近づけてきた。
怒ったような顔で私の顔を指差しながらちょっと物騒なことを言われた。
「あんた、バカだろ。あんまりぼんやりしてると命落とすよ?」
「えぇ!?命!?」
どういうことだろう。
ふと頭にさっきの女の子が浮かんだ。
何か関係あるんだろうか。
「ここ、玉子山学園には特別なルールがあるのだ。その名もツールバトル制度」
「ツー…?」
聞きなれない言葉にはてなを浮かべる。
「科学によって魔法が一般化してる世の中、自分の身は自分で守れる乙女になりましょうっていうのがこの制度の目的でね。学園の理事長が昔開発した怪我をしない武器を一人一個もてるんだよ」
魔法が一般化している。
それは誰もがわかっていること。
ガスの代わりに魔法、電気の代わりに魔法。
…けど、武器ってどういうこと?
「えぇ!?武器って…、じゅ、授業は?」
「大学みたいに選択性だよ。昔みたいに高等学校必履修科目とかないからね。その代わりある程度進路が決まってるんだけど」
選択性ってことは好きに授業が選べるということ。
それはそれで楽しそう…あ、いやいや…なるべく穏便な授業をとろう。
それにしても…
「詳しいねぇ」
隣の女の子は口が悪い割にとても丁寧だ。
そのうえどうやら情報通みたい。
感心して声を漏らすと太秦さんはふふんと鼻を鳴らした。
「学習したわけよ。怪我したくないもん」
そのうえちょっぴり努力家さんなのかな?
きっと成績もいいのだろう。
感情も豊かなようで、得意気だった顔を今度は難しい顔に変えた。
「そのツールバトルっていうのがなかなか厄介なもんでね。先生から出されるミッションやらテストやらあるから平穏に暮らすってわけにはいかないみたい」
…授業だけじゃないのかぁ。
やっぱり、ちゃんと考えてくるべきだったかな?
でもあまりそんな余裕もなかったし、入学してしまったものはしょうがない。
とりあえずは親切なこの人に色々聞いてみることにしよう。
「失敗するとどうなるの?」
「痛い思いするだけでとくに問題はないよ。あ、でもクラス分けに支障があるかも」
「クラス分け?」
次々と出てくる疑問は止まることがない。
質問ばかり繰り返してる私に愛想を尽かさずに一つずつ教えてくれる彼女はとても面倒見がいいのかもしれない。
「あたしらみたいに外部から来た学生は適当に真ん中のクラスに振り分けられるんだけどさ、中学からこの学園に通ってる連中はきっちりと強い順にクラス分けわれてるんだって。SからJまで強いヤツから弱いヤツ。揃ってるってことだね」
「へぇ」
私たちはDクラス。
ちょうど真ん中だ。
彼女の話は全て本当らしい。やっぱり親切な人だ。
「…って、なんでライバルになるかもしれない相手にこんな一生懸命説明してるんだあたしは」
やっと気付いたのか急に自分に突っ込み始める太秦さん。
面白い人だ。
「で、でも助かったよ。ありがとう。知らなかったら明日には私その辺に転がってたかもしれないから」
冗談まじりにそう答えると太秦さんはぞっとしたように眉を寄せた。
「うわ、リアルにいやだなそれ」
そう呟いた後、また得意気に笑う。
彼女は本当に良い人っぽい。
…良くも悪くも正直、なのかな?
「でもまぁ、そんな素人の君にも朗報があるのだよ」
「朗報?」
「今から水晶を配布する。各自大切に扱うように」
前に立っている担任らしき先生がこの騒がしい教室で一際大きな声をあげた。
次から次へとわからない単語が出てくるなぁ。
「…すいしょう?」
とりあえず聞こえた単語を繰り返してみる。
すいしょうって、あのすいしょう?どのすいしょう?
ぐるぐると考えていると自分の番が来たみたいで、手に小さな石のついたキーホルダーを渡された。
「朗報の話はまた後。この水晶ってのは力を込めると武器になるんだ…っと、今やっちゃだめだよ。何になるかわかんないんだから」
この小さな石が武器になる…。
武器ってなんだろう。
「何になるかわからないってどういうこと?」
「水晶はその人の今までの生き方を写す鏡のようなものなんだ。別名ライフウェポン。だからその人に合った武器に変わる。たとえば大きな剣になったりしたらここで使っちゃ大変でしょ?」
ライフウェポン、また新しい単語だ。
つまりこの水晶がライフウェポンとやらに変わる、ということでいいのかな?
そろそろ頭がパンクしそう。
爆発しそうな頭を必死に抑えてわかったことだけを覚えることにした。
「なるほど…。私のは何になるんだろ」
ぼんやりと水晶を持ち上げると、それは軽くも重くもなく不思議なものだった。
透明なわけでもなくでも特に色があるわけでもない。
まるでちょっと綺麗な水でできる水球のようだ。
もう頭が朦朧としそうな私の呟きを聞いて太秦さんは意地悪く笑った。
「そうだな。あんたは能天気だから湯呑にでもなるんじゃないか?」
「…うーん、楽しそうだね」
「皮肉を言ったんだよ。調子狂うなぁ、まったく」
皮肉であることはわかっていたけどそうだったら楽しいかもしれないなんて考えが緩々と私を楽しい気持ちにさせる。
もし湯呑になったら授業はどうなるのかな、とか。
もし湯呑になったらやかんを持ち歩かなきゃいけないのかな、とか。
湯呑を持ってオロオロしてる自分を思い描いてリアルだな、とか。
「争いごとには向かないからねぇ」
私の呟きを聞いて太秦さんはまた眉を寄せた。
「なんであんたこの学校来たんだよ…」
どうやら呆れられてしまったみたい。
「せいぜい良いパートナー見つけてJ組とか辺りでのんびりしてなよ」
ちょっとした話の中にまた気になる単語が出てくる。
パートナー、って朝も聞いた気がする。
そうだ、あの可愛い小さな女の子だ。
…太秦さんも結構ちっちゃいみたいだけど…。
「パートナー…って?」
「そうそう、そのパートナー制度っていうのが朗報でね。我々のような戦闘ってなんですか?っていうひとでも強いパートナーと組めれば超安心」
なんだか通販のような文句に苦笑しながら意味を捉える。
そっか、パートナーってこのことか。
「つまり一緒に戦うってこと?」
「まぁそうともいう。ライフウェポンの相性もあるから気をつけなよ。例えば水晶が盾のようなものになるときもあるんだ。そんな二人が一緒に居たってしょうがないだろ?」
「うーん…そうだね。守るばかりじゃ疲れそうだね」
盾を持って構える自分と朝の女の子の姿を思い浮かべて苦笑する。
攻撃ってなると二人して盾をぶんぶん振りまわすんだろうか。
想像しかけてこれはないと頭をぶんぶんと振った。
「ほら。だからまあ強けりゃいいって話でもないのかもしんないけどさ」
「…そこの二人、勉強熱心なのはいいが、人の話はちゃんと聞くように」
いつの間にか教室は静かになっていた。
そういえば、先生何かしゃべってたのかな?
聞いとけば良かったかな?
でもさっきのパートナーの話がちょっと気になる。
あの女の子は私をパートナーにしたいって言ってたけど、パートナーってどうやってなるんだろう?
書類みたいなのを学校に提出しなきゃいけないのかな?
…それじゃまるで結婚届けじゃないか。
恥ずかしくなって慌てて太秦さんに聞いてみることに決めた。
「そのパートナーっていうのは本来どうやってできるもんなの?」
太秦さんは先生の話をあまり聞く気がないのかウォークマンを出そうとしていた。
先生が話しているような内容はもしかして全部知ってるんだろうか。
それとも少し不真面目さんなだけなのか。
質問に太秦さんは初めて眉を顰めた。
「さぁ」
「さぁって…」
「知らないよ。こうやって友人が一緒になることもあるんじゃない?あたしだって新入生だもの。ぜーんぶネットとかで聞きかじっただけだよ」
ネット…って、インターネットのことでいいのかな?
パソコンはあまり触ったことないからなぁ…。
質問することを諦めて先生の話を聞こうと前を向いた。
そして、少し違和感を感じた。
…あれ?何か、騒がしい?
慌てて周りを見渡すとところどころ立ち上がったりしている。
そして生徒の数が異常に増えている。
…終わった、のかな?
「ふむ、聞きかじりだけでそこまでわかるなら頼もしいものだねぇ」
オロオロしていると後ろから急に声をかけられた。
これには太秦さんも驚いたようで変な声をあげていた。
「ぉわぁ!?」
「ど、どなたですか!?」
後ろを振り向くと、私よりも少し身長の低い黒髪を二つ括りにした女の子が立っていた。
頬には絆創膏が貼ってあって、少しやんちゃな印象を受ける。
その顔は私の質問に苦笑いしていた。
「その反応はマジで先生の話を聞いてなかったな?今からしばらく数人を特定の先輩が指導して履修やら学校案内やらするんだよ。して君たちの指導は私、野中真由です。よろしく」
そうだったんだ。
太秦さんもこれは知らなかったのかなるほどといった反応をしている。
「あ、奥井咲等です」
「太秦ニャヒルです」
慌てて自己紹介をすると、野中先輩は面白いものを見つけたように瞳を輝かせた。
「…すっごいかっこいい名前してんね。ハーフかなにか?」
どうやら面白いものとやらは太秦さんの名前だったみたいだ。
確かに、珍しい名前だなぁ。
この質問にはさすがに気分を悪くしたのか、太秦さんは私のときとは打って変わってふてぶてしい態度をとった。
「バカにしてるでしょう。悪かったですね変な名前で。これでもトルコ人のハーフなんですよ」
「へぇ、ハーフ。いや、楽しくなりそうだし、いいんじゃないかな」
まるで煽るような口調だなぁ。
…怖い人なんだろうか。
そう思ってオロオロしていると、太秦さんは怒ったみたいでガーッと怒鳴りだした。
「楽しいもんか!おかげで変な偏見もたれて受験失敗してこんな学校に来ることになったんだから!!」
あ、それで嫌々な態度だったんだ。
ちゃんと調べてる割に「こんな学校」なんて言っていたからどうしてだろうと思ってたらそれじゃしょうがないかも。
「あらまぁ。こんな学校とは失礼な。それにしても威勢がいいなぁ。で、こっちは大人しそうな顔して遅刻ギリギリの悪人。そして教室でも帽子をとらない。どれ、おじちゃんに顔を見せてごらん」
「あ、あの遅刻には事情があるんです!」
しまった、矛先がこっちに向いてしまった。
帽子を庇いながら、話を逸らすことにした。
話の内容が気になったのか、太秦さんも身を乗り出してきた。
「事情?」
「猫さんが木から降りられなくなっててそれと…」
「まぁ、事情はなんにせよ。罪はかぶらないと」
これ幸いと説明しようとしたのに、強引にスルーされた。
なんだかニコニコしてるのに掴めない人だな。
朝の女の子の笑顔に比べると少し無機質な笑顔に見える。
…考えすぎかな?
「罪?」
「君たちはあまりに熱心にしゃべっていたのでね。先生から伝言という名のミッションが届いている」
ミッションという単語はさっき太秦さんの口から聞いた気がする。
…もしかして、初日から穏便じゃないことに!?
「入学初日から!?」
「そ、そんなぁ!」
悲観にくれる私たちを野中先輩は豪快に笑い飛ばした。
「喜べ!つまり他の人よりいい経験ができるんだから!」
もちろんそんな気休めで私たちが納得するわけがない。
「横暴です!」
「そうだそうだ!」
まるで負け犬のようにキャンキャン吠える私たちに野中先輩は呆れたように苦笑いした。
「私に言われてもなー。まぁ、サポートはするから安心したまえ」
そう言われて少しは安心する。
良かった、サポートとかあるんだ。
「信頼できるかー!あんた弱そうじゃないか!」
太秦さんは全然安心できなかったらしく、顔を少し青ざめさせながらも野中先輩を指差して叫んだ。
…先輩を指差しって強いなぁ…。
野中先輩はそこまで気にしてない風に腕を頭の後ろで組みながら不敵に笑ってみせた。
「あ、しっつれいだなー。これでもS組なんだぞ」
「嘘だ!」
間髪いれずに入れられた太秦さんの突っ込みにはさすがに気分を害したらしい。
「嘘ついてどうすんの」
さっきまで上がっていた口角はすっかり下げられ、今は唇がとがっていた。
そういえば、ミッションとやらはいいのかな。
私たちはだいぶ長いことここで話している気がする。
ふと周りを見渡すと、ところどころで生徒がこちらを見ている。
「あ、あの…」
「あぁん!?」
「んぁ?」
口論していた二人は私の声に噛みつくように返事した。
あまり怖いの得意じゃないんだけどな。
「み、みなさん、こっち見てます」
でも、目立つことも好きではないから…。
私の言葉に我を取り戻したのか、二人はわざとらしく咳をしながら離れた。
「…ごほん。まぁ、罰を受けるのは君たちだけじゃない。話を聞いてなかったもの、登校初日からサボったもの。みんな同じ任務だよ」
あ、良かった。
私たちだけじゃないんだ。
「それはどういうミッションなんですか?」
「こちとら初心者だぞ、簡単なんだろうな?」
太秦さんの喋り方が柄悪くなっていっているのも気にかけず、野中先輩は淡々と話す。
口の端はうっすらと上がっている。
「生徒会に一泡吹かせる。毎年恒例行事なんだよ。先生方は生徒会が大層お嫌いらしい。だから新入生を生徒会に仕向けるんだ。生徒会も新入生相手に手酷くはできないでしょ」
そんなのっていいのかなぁ。
生徒会と先生の間で派閥とかあるんだろうか。
そうなったら中間って言ってても平和には暮らし難いかな?
「…うわぁ、それ大丈夫なんですか?」
「去年は怪我人が3人」
怪我人が3人?
…そりゃ、出るよね?そういうところだもんね?
痛いのはいやだなぁ。
「それから理想のパートナーに巡り合えた人が4組」
「なるほど。つまり新入生同士のパートナー探しの場も兼ねてる、と」
「そういうこと」
そっか、ミッションを通して誰かと仲良くなるってこともあるんだ。
そのほうが相手が何を得意とするかわかるから確かに探しやすいかもしれない。
「んあ?そういや他の人たちはどうしてんの?良い子はないんだろ?」
「もっとレベルの低い先輩たちが付き添って模擬の戦闘をしてみてるはずだよ。使い方を教えるだけだからすぐ終わって寮の割り振られた部屋に戻るとかね」
…いいなぁ、そっちの方が楽そうだなぁ。
そういえば私たちはこの水晶の使い方だとかまったく知らないけど大丈夫なんだろうか。
「私たちはその使い方とか教えてもらえないんですか?いきなり実戦なんて無茶じゃ…」
「君たちは習うより慣れろ、という方式をとられたわけだ。どれ、まぁ行ってみよう。教室でたむろしてても何もわかんないしね」
「え、えぇ!?速いだろ!」
「そうですよ!私たちほんとに何も知らないんですよ!?」
野中先輩はぐっと伸びをすると歩きだした。
一瞬、付いていかないという選択肢が頭をよぎったけど、彼女の背中を見るとなんとなく追いかけたくなった。
なんだろう、逆らえない重圧のようなもの。
なんにせよここで振り返って走って逃げても後々大変になるのは目に見えた気がしたから普通に後を追うことにした。
「予備知識があるだけマシなほうだと思うけど。ま、これで武器の形状もわかるし倒される痛さもわかるし一石二鳥!いや、一石で何鳥もとれるよ〜」
顔は見えないけどまたうすら笑いしているのだろう。
野中先輩は大きく笑うとまた一つ上を見上げて伸びをした。
「ひ、ひっでぇ〜」
「横暴だ…」