--otone--
心配そうなニャヒルと目が合う。
「もう大丈夫か?」
「うん」
私を囲んでいた数人がわざとらしく「心配させやがって」とか「勘弁してくださいよね」とか言いながら座り込む。
手が縛られているからドサドサと音を立てながら。
「お前ら座れ」と喚きながら覗きこもうとしていた敵勢力も、大人しく下がった。
少しの間うずくまっていたから腰や首が痛い。
「うぅ、もうちょっとマシな隠し方なかったの」
「いやー、迫真の演技だった」
「乙音ちゃんの『うっ!吐く……!』のあたりの演技は本当に吐いちゃうのかと思って焦ったわ」
ニャヒルもあーやもひどい……。
とりあえず外と連絡をとるにあたって、ニャヒルと協力して縛られた手に水晶を持ったまでは良かった。
問題はその後。
私がライフウェポンを使えば目や手先から魔力光が溢れてしまう。
隠すために演技をする、のはしょうがなかった。
「でも『本物の武器を目の前にして怖さと緊張で吐く』真似ってもう少しなんとかなんなかったのかな」
「初めて乙音をすごいって思った」
「ニャヒルはこの1年間私をどう思ってたのかな……?」
あっ、目線逸らした!
ひどい、今度ぜ〜ったいご飯奢ってもらうんだから!
確かにうずくまってたから光を押さえ込めてよかったけどさぁ。
「これで咲等とスギが一緒に動けるとして、私たちはどうしよっか」
明るく笑うあーや。
そう、咲等ちゃんと連絡をとったものの、私達も諦めたわけではないのだった。
大事な親も来ているのだから尚更。
「そうだな、いい加減両親の視線もウザいしな」
「ニャヒルん家すごいよね」
「言うな」
すごく溺愛されていたみたいで、ニャヒルの姿を見た途端泣き出したのは面白かった。
ニャヒルちゃん大丈夫?誰かにいじめられてない?
って言われたときのニャヒルの顔は私の心のネタ帳にしっかりメモした。
……あっでもさっきの演技で私嫌われてないかな。
出来ればニャヒルとは卒業したあとだって一緒にいたいしご両親とも仲いいほうがいいよねって思う。
そのためには今日この場をなんとかしないとね!
「せめて真由たちと合流できればいいんだけどな」
「あからさまに動くと怪しいしなにかいい方法があればいいんだけど」
撃たれてしまった真由さんたちは端っこ。
親と一緒にいた私たちは真ん中あたり。
親とは離されて、どちらかというと警備がきついのは親と生徒会側。
特に美月ちゃんと元会長さんには数人が銃を突きつけている。
「なんとかしてあげたいな……」
顔は暗くていつもの美月ちゃんじゃないみたい。
咲等ちゃんの隣でほわほわ笑ってる美月ちゃんはもっと可愛いのに。
そのうえ咲等ちゃんと話すと固定された笑顔が緩んでいろんな色を見せてくれる。
呆れたり寂しそうだったり驚いたり。
今は辛そうで見てるだけでしんどいなって。
ニャヒルの親御さんには嫌われたくないけど、お世話になってる人たちのためならなんだってする覚悟だ。
「もう一芝居うっちゃう?」
「いや、今怪しいことをしたらさっき演技した意味がなくなる」
慎重に、確実に。
イチかバチかが通用したのは1年生まで。
2年生になると難易度も高く、みんな成長して強くなっていく。
この学校を嘗めないほうが良かったのではないかと相手を不憫に思うほど。
--mayu--
あっちがなんだか騒がしい。
落ち着いたかと思うと心配そうなニャヒルとあーやが目に入った。
中心は乙音ちゃんか。
なにか小細工をしたことは伺えるけど、あまり無謀なことはしないでほしいな。
「人の心配をするより自分の心配をしたら」
どこからか包帯を取り出して私の足を治療してくれていた愛梨が足を強く押した。
痛みに慣れた私でもそれは痛い。
麻奈ほどではないけれどこいつも過保護だなと思ったのは記憶に新しい。
前はいつでも絆創膏を持っていた気がするけれど今では包帯まで持ち歩いているのか。
怪我人がいるせいか私たちは3人だけは手が縛られていない。
不幸中の幸いといったところかな。
「なんとかあっちと合流できないかな」
「……あれだけ騒いだらあちらから来るのは無理でしょうね」
面白くなさそうな顔をした後に、冷静に助言をくれる。
たぶんこいつはこいつで麻奈のほうが心配なんだろう。
生徒会側をたまに確認している。
冷たい人間でないことは知っているし、そのうちに隠された情の熱さはたぶん私や麻奈よりよほど強い。
「アレクサンドさんだけやけに厳重ね」
「ってことは人質うんぬん抜かしてたしお父様関係かな」
「アレクサンドさんは入学して5年目だと思うのだけど今更?」
うーん、新しい論がどうとかってニュースでやっていたけれど関係あるんだろうか。
……ただ、そんなことで来るような父親ではないとも思うけど。
きっとそれを一番理解しているのは美月だろう。
あの表情を見ているだけでこっちまで気が滅入りそうだ。
こういうときになんで咲等が側にいないのか。
最悪の場合、タオと愛梨は置いて行動することも視野にいれたほうがいいな……。
「真由、大丈夫?」
「は、なに?」
突然心配そうになった声に面食らう。
無表情でタイミングが読めないから苦手だったんだよな〜って今思い出すことでもないか。
それが面白かったから最初のうちは付きまとって遊んでいたんだけど。
「珍しく随分慎重に見えたから」
「そうかな」
愛梨は父を知っている、たぶん余計なお世話だとわかっているから直接は言わないんだろう。
当の私はといえば、彼がいることをすっかり忘れていた。
そうか、父がいるならあまり無茶をすると後が怖いか。
頭のうちを占めていたのはどうやって“この二人を危険に晒さずに”美月とニャヒルたちを助け出すかだけだった。
1年ですっかり優先順位が変わってしまったなと内心苦笑する。
父の順位などもともとあって無かったようなものだけど。
「一度撃たれているなら慎重にもなるでしょう」
ずっと黙っていたタオが不思議そうにこちらを見る。
「そうだといいのだけれど」
「愛梨、その呆れた目は止めてくれる?」
「実際呆れているから」
一人で強引に抜け出す案は言わないほうがいいね。
撃たれる前に愛梨に燃やされそう。
「タオならどうする?」
個人的にはやっぱり乙音ちゃんの能力をフル活用したいところかな、と思うけどタオは乙音ちゃんの能力をあまり知らない。
タオはじっと考え込んだあとで人数の多い方を見た。
窓、出入り口、人、目で確認する仕草は新入生とは思えない。
実家で鍛えられていたというけれどどんな生活を送っていたんだか。
魔力がないから成績が悪いというけれど、魔力で殴る自分と魔力を持たずに殴るこの子のやっていることは変わらない。
「人数の多さを利用できないでしょうか」
「誰かが成功すればいい、という考え方?」
「軍隊的ね」
3年生にもなると大人数でのミッションも増えてそういう作戦をとることもある。
特に私達の学年は一番強い人間にパートナーがいないのだから必ず二対二になるものは少ない。
「できれば怪我人は出したくない」
はっきり言ってやるともう一度考え始める。
普段の魔法戦ではなく銃でその作戦はとりたくない。
甘い考えだとは思うけど私たちは学生だし、まだ死ぬのはもったいないしね。
「……確率を重視しますか?犠牲になる人間を絞ればあるいは……」
「却下」
「だってさ」
「では成功率が下がるものばかりです」
「その中で一番可能そうなものは?」
間髪入れずに犠牲を拒否した愛梨の肩を抑えるように触る。
そうなれば生存率の高さで私が囮役だ。
どうしようもなければそれに賭けるしかない、と思うけど愛梨は嫌なんだろう。
どうしてそこまで……と、言えばまた喧嘩になるから自分の言葉は飲み込んだ。
「……お手洗いを進言する」
タオの想像以上にお茶目な意見に思わず吹き出した。