携帯は没収されたんだろう、繋がらない。
「あの銃声が美月に対してのものじゃないといいけど……」
美月は賢いからきっと大丈夫、と思ったら次に浮かぶのは高確率で撃たれていそうな人。
真由ならあり得る。
そこまで考えて今重要なのは中の人たちの心配じゃないなと頭を振った。
自分がどう動くか。
見てみぬふりはできない。できるわけがない。
あの中には私の友達がみんないる。
なによりこんな事態になったのは警備にあたっていた人たち、つまりは私が不甲斐ないから。
「どうにかして中の人を解放しないと」
知恵のある友人も力のある友人もみんな中だ。
--sakura--
そういえば、タオは大丈夫かな。
あ、でも真由に連絡がつかなかったということはたぶん一緒にいるはずだから捕まってるかも。
私自身は必死の思いでなんとか空き教室に隠れていた。
「これで全員か」
「わからん。寮に残っている生徒もいるらしいが、それは放っておけだと」
聞こえるのは男の声ばかり。
姿を見るのは危ないな。
こちらから見えているときは相手からも見える。
物陰でそっと気配を潜めた。
はやく出ていってくれないかな。
心臓がうるさくてバレないか心配だ。
自分の心音を静めるためにゆっくりを息を吐いた。
「お待ちなさい」
知った声にピタリと息を止めた。
「残っている生徒を発見。ただちに……っ!ぐぁ」
「このっ!……かはっ」
ひんやりとした空気を感じた。
それから水音。
「……キリがありませんわね」
「今の通信で場所が知られたな。すぐに移動しよう」
間違いない!
元風紀委員長と牛尾先生だ!
慌てて物陰から出た。
既に居なくなった二人を追いかけようとしたけれど、廊下から近づいてくる足音に引き返した。
窓の外を確認して、1階に落ちる。
幸い、外の見張りは校門と裏門付近にしかいないみたいだ。
目は学校側になく、すぐ草むらに身を隠せば見つからなかった。
「なにがおきているんだろう……」
今更な呟きだなと思ったけれど言わずにはいられなかった。
なにも考えず廊下を見回っていたら数名のスーツに追われた。
数人をのして逃げたはいいもののしばらくして学校全体が静かになった。
そしてさっきあった放送。
講堂にいる親ごと学校が制圧されたこと。
水晶は全て押収。
中の人はみんな丸腰。
見つかったら有無を言わさず即連行。
“人質”という名目で講堂に監禁される。
「鬼ごっこの次は隠れんぼかぁ」
乙音ちゃん一人とは違ってみんなを助けるミッション……と思うにはあの物騒な銃声が邪魔をする。
牛尾先生たちと合流、できるかな?
なるべく音を立てずに移動開始。
「二人が向かった方向は」
確かこっち。
動こうとした瞬間、すごい頭痛が襲う。
『さくらちゃんさくらちゃん聞こえるー!!!!?』
き、聞こえる。
聞こえるけど、これは……っ!
「い、痛いっ!乙音ちゃん痛いっ!」
『聞こえてたら……って、あっ、向こうの声は聞こえないんだった』
元副会長さんが前に話してくれたんだけど、乙音ちゃんのテレパシーは相手の思考にむりやり割り込んでくるものらしい。
身体の命令する部分に強引に命令を増やしているのだから激痛なんだとか。
理屈がわかっていてもどうにもできないんだからひどい。
『あまり長くは話せないから用件だけ言うね!スギはここにいないよ!あとはみんな講堂!真由さんとタオも捕まっちゃった!』
それじゃあね!と最後にプツリと音声はなくなる。
グワングワンと頭を揺らしていた頭痛が止まり、しばらくうずくまる。
加減とか、できないんだろうか。
頭が割れちゃったらどうしよう。
それより、スギがいない、だって?
確か両親が来るからスギも絶対に講堂に来るようにと言われていたはずだけど。
スギは「あーやが見てもらえればそれでいい」と言っていたからもしかして。
携帯を操作してスギの番号を呼び出す。
数回コールしたあと、カチャリと音がした。
『……なんだ』
「スギ!学校来てないの?」
『はぁ、あーやは撒いたはずなんだがな。咲等まで私にお説教か』
「いや、それどころの話じゃないんだけど……」
どうやら寮まで噂は漏れていないらしい。
自分の知ってる流れを簡単に説明すると、ガタンバタンと音がして即座に部屋を出たのだなと見えていないのに理解してしまった。
『すぐにそちらに向かう』
「うん」
1人ではないというのはとても心強い。
電話を切ってそっと息を吐く。
さて、スギと合流するまでどうしようか。
静かに動き回っているようで牛尾先生たちの足取りは見えない。
人質、と言っていたからもしかすると私達次第では中の人たちを傷つけることもあるかも。
こういうとき友人たちならどうするのだろう。
美月の頭は賢くて私には読めないので、えーっと、ニャヒル。
まず情報を集める。
こういった場合、どうやって集めればいいのだろう。
しまった、そこまでスギに聞いてから電話を切るんだった。
ブルブルと携帯が震えて肩まで震える。
び、ビックリした。スギからだ、早い。
「す、スギ?もう着いたの?」
『……すまない。中まで入れそうもない』
潜められた声。
ざわざわと音がする。
『校門裏門が塞がってるのは予測できたが、パトカーがいる』
はやい。
最初から交渉するつもりで、相手は随分用意周到に計画していたみたいだ。
「大人しく人質が解放されるまで待つしかないのかな」
『要求はなんなんだ?』
「わからない」
『要求を呑んだところで、人質が解放されなければ意味がないからな。
万が一を考慮して考えるのが一番だ』
万が一なんて、考えたくもない。
それに美月が怖い思いをしているなら、待っているなんてこと私にはできない。
「スギ、教えて。私は何をすればいい?」
『少しは自分で頭を使え』
「考えたけどわからないんだってば」
『授業で習っただろ。敵の数、配置、調べられるもの全部調べろ。
こそこそするのは得意だろ』
「……スギに言われたくないよ」
やっぱり、そうなのかな。
元会長さんとの秘密の特訓が役に立つときがきてしまった。
1年生のときに肌で感じた違和感。
真正面で物事を受け止めるのはどうにも苦手だった。
守るために鎌を振りかざしてみても不器用にカラまわってぐるぐる巡る。
それは私が弱いからではなかった。
脚力、存在感、そしてライフウェポン。
向いているのは、隠密行動。
あの時『こんな力、ニャヒルにふさわしくない』と漏らした乙音ちゃんの気持ちが今なら少しわかる気がする。
順調に進むたびに心にもやもやと霧が立ち込めていく。
自分だけの湯呑ではなく、大切な人を守る力を授かったのだと喜びたかった。
一緒に頑張りたいと言ってくれた美月。
単独行動でのみ発揮できる自分の実力。
何かの役に立てればと伸ばせば伸ばすほど、普段の頑張りを容易く追い抜いていく。
みんなと地道にしていた訓練より元会長さんとした訓練が力になって私自身を焦らせた。
「美月、誰か、今すぐ会いたいよ」
取り出した武器の無機質な温度。
いつもみたいにバカだなって笑ってほしい。
しょうがないですねって美月に微笑んで欲しい。
行動を始めると私の頭は真っ黒に塗りつぶされた。
この集中力も、隠密向き、らしい。