--mayu--
廊下で愛梨に捕まってなぜか小一時間説教を受けてからが本題だった。
大したことではないのだけれどと前置きをおいてまっすぐに見上げてきた。
「なにか知ってる?」
話は最近目立ち始めた辻斬りについてだ。
『元』生徒会のくせによく働く。
「なにも」
首をふると、じっと見つめられる。
前の事件からそういうのは少し意識してしまうから勘弁してほしいのだけど……。
私より愛梨のほうがよっぽど無防備だ。
「嘘、ではなさそうね」
「疑ってたんかい!」
「あなたがなにか企んでいたらあからさまに怪しいし。よく嘘を吐くし」
……否定はできない。
「そのうえ誰にも姿を見られない、なんて芸当なかなかできるものじゃないし」
うーん。
困ったことにやられた人ですら顔を見ていないのだ。
覚えていないんじゃない、どんな姿も見ていないと答える。
「割と楽にできることだったりしないかな」
後ろから不意討ちとか。
手刀の素振りをしてみせると、察したのか首を横に降った。
「被害者に、体育委員長がいるのよ」
そりゃ無理だ。
仮にも女子といえどあの筋肉ダルマを背後から一撃で落とすなんてなかなかできないことだ。
あれを倒すとすると、前から顎を狙うか。
とりあえず愛梨が気にかけている理由はわかった。
……だからといって関わる気もないけれど。
--sakura--
今日のお昼休みは、美月と二人きりじゃなかった。
廊下でスギに出会い強引に食堂に引っ張りこまれたのだ。
幸い、美月も今日はお弁当ではなかったらしく、後で購買で何か買おうという話をしようとしていたみたい。
「さあ、食え」
わぁ……。
スギは奢りだといって大量のご飯を私の机に置いた。
「お前は筋肉が少な過ぎる。もっと食べろ」
いや、あの、人間のお腹には限界というものが……。
あ、でも目線が許してくれない感じ!
すっごくにらんでる!
「い、いただきます」
無心で食べることにしよう……。
普通の量のご飯を食べている美月がちゃっかりとスギの隣にいるあーやと談笑を始める。
私の口はご飯で塞がっている……。
「それにしても、みんな今度の授業参観の話で持ちきりですね」
「この学校で親来るって尋常じゃなく恥ずかしいもん」
でも来ちゃうんだよねー、と呟くあーや。
そっかぁ、みんな親が来るんだ。
てっきり誰も来ないものかと思ってすっかりスルーしてたなぁ。
「美月はやっぱり来ないんでしょ?」
「まぁ……」
それもそっか。
美月のお父さんは有名人だもんねぇ。
「それに今ちょっとややこしい立場だもんね」
「ややこしい?」
スギがご飯を食べる手を止めてあーやを見た。
その様子にあーやがやれやれと首を横に振る。
「スギってほんとにニュースとか見ないよね」
「う……」
私も「う……」ってなったけど気付かないふりをしておこう。
美月がニコニコとこっちを見ているけど、気付かない、うん。
「美月のお父さんが新しく論文を発表したらしいんだけどそれがかなりバッシングを受けてるんだよね」
「魔力論はそのままに、それを魔力からエネルギーに変換しているものがある、という論です」
魔力からエネルギー?
あ、ダメだ、また頭が痛そうな話だ。
「それは道具で変換していることだろう?」
「まぁそれはそうなんですけど、そもそも道具がなくても元々存在していたものはどう説明するのかってことですね」
「歴史はあまり強くない」
「魔法学の一部でしょ?」
どれも強くない私には辛いです。
あの、だから、こっちをニコニコとした顔で見ないで、美月。
無心で食べよう、無心で。
それにしても量が多いなぁ。
スギは突然どうしたんだろう。
ちらりとスギを見ると、逃げ道を探していたのか私の目線に食いついてきた。
「どうした、箸が止まっているぞ」
「……吐くよ?」
「吐いても食え」
そんな無茶な。
私のお腹はもうすぐ限界を迎えそうだよ。
「咲等、お前最近痩せてきているだろ」
「そう?」
「咲等さんってば、最近体重計に乗りました?」
「少なくとも学校に来てから乗った覚えがないなぁ」
美月が私のお腹をぷにと触る。
「引き締まったというよりは痩せた、が確かに似合いますね」
う……。
食べてないわけじゃないんだけど……。
「今度からお弁当の量増やしましょうか」
あ、それは少し嬉しいかも。
でも負担にならないかな?
「考えていることが手に取るようにわかりますよ?」
美月が困った顔をして今度は私の頬を突いた。
……面目ありません。
どうして美月は私にかっこいいフリをさせてくれないんだろう。
嬉しいけど、申し訳なくて恥ずかしい。
「とにかく、強くなる前に倒れられたら困るからな」
「……と、いう咲等ちゃんラーブなスギの独白でした」
「おい!」
スギは顔を赤くしてあーやを突くと、ごほんと咳払いした。
「それに最近は辻斬り事件とかもあるしな」
「あぁ、ニャヒルたちもなんだか言ってたね」
巻き込まれたわけではないけど、被害者を第一発見してしまったとぼやいていた。
乙音ちゃんの興奮っぷりが一番すごかったけど。
「完全な気絶だったんでしょ?」
「そ、魔力関係なしの手加減なし」
「どうやら水晶目当てらしいな」
ライフウェポン?
そんなもの奪ってどうするんだろう。
「水晶にも少なからず魔力が込められているからな」
「魔力なんて集めてどうするんだか」
「まぁ、いろいろ使い道がないことはないですが……」
美月は右手に水晶、左手に何かを取り出した。
購買で売っている魔力に反応する紙だ。
文字を書いても字が浮かばず、魔力を込めることであぶりだしのように文字が浮かび上がる。
「紙に文字を書いて、水晶を上に乗せておきます」
美月はそれだけ言うと、ご飯の続きを食べ始めた。
「え、で?」
「んん?」
あーやとスギもよくわからなかったらしく、頭にハテナを浮かべていた。
「まぁ、しばらく待っていてください」
言われるとおり待ってみる。
しばらくご飯を食べていると、さっきまではなかった文字が浮かび上がっている。
「あ」
「水晶に込められた魔力がじわりと染み出しているんです」
なるほど、と三人で関心する。
んー、なるほど。
なるほどなんだけど……。
「美月、他に書く内容なかったの?」
紙に浮かび上がる文字はなんとも恥ずかしい。
『咲等さん、好きです』
とりあえず紙を没収して懐に入れる。
べ、別に部屋に飾ろうとかしてないよ!
可愛いなとは思ったけど!思ったけど!!
「咲等、顔がやましいぞ」
「顔がやましいってどういうこと!?」
うぅ、美月の顔が見れない。
でもってひっそりと左手を握ってくるのはさすがにやめて美月……。
恥ずかしさでつぶれそうだよ……。
「ほら、お返しは?」
「え!?」
「まさか好きって言われてそのまま何も無しってことはないよね?」
あーやがにっこりと笑いかけてくる。
な、なんか怖いよ?
美月も怒ってたりする?
顔を見たいけど怖いし恥ずかしくて見れない。
「わ、私にどうしろっていうの!?」
「ヘタレだなぁ、ちゅーするなりなんでもいいから美月の気持ちに応えたら?」
いきなり難問すぎるよ!
意を決して、でも恐る恐る美月のほうを見てみる。
あぁ、ニッコリ笑ってる……。
これはあれだよね、何かを期待されてるよね。
「み、美月?」
「はいっ」
「……」
わぁ、良い笑顔。
「後で、ね。後で」
「期待しています」
何を!?
「まぁそんな与太話はおいといて」
「あ、はい」
置かれちゃった……。
安心したような残念なような。
「辻斬り事件が解決しないまま授業参観は不安だね」
「確かに」
「父兄の方々に迷惑がかからないといいんですが……」
生徒会としても不安なのか、美月の顔が曇る。
うーん、当日警備の募集とかありそう。
入学式みたいに有志のお手伝いを募集っていうのがよくあるんだけど、今回もお手伝いしようかなぁ。
美月がいると思うとどうしても頑張っちゃうんだよね。
そうだ、今回はタオも誘ってみようかな。
ぼんやりと話を聞き流しながら私は大急ぎで残りのご飯を口に詰めた。