きっかけはふとしたものだった。
「あ……」
「美月!」
ちょっとよろけた美月を支えただけ。
足元には小石。
美月の体が倒れないようにさっと手を出しただけなんだ。
ふに
最初は全くわからなくて、ただ美月自身が柔らかいんだと思った。
ちょっとして美月の顔が赤くなってからやっと気付いた。
「あぁあ、ご、ごめん!」
「い、いえ」
美月の体はちっちゃくて、まさかそんな柔らかいものだと思ってなくって。
意外と大きいんだなーっていうか自分の持ってるものと全然違う……。
ってそれどころじゃなぁああい!!!!
「ほ、ほんとにごめんっ」
「助けようとしてくださったんでしょう?気になさらないでください」
そうは言うけど……。
嫁入り前の女の子のむ、むむ、胸に触ってしまうなんてほんと重罪だよ。
もっとなんか、土下座しろって言われても仕方ないよこれは!
美月の顔も赤くなって、色っぽくてってだから違う違うってば!
せめてニャヒルとか真由とかいてからかい倒してくれたらせめて笑い話にできたのに!
こんなときに限ってミッション終わりの二人きり。
6限目が体育だったのか、美月は体操服でこちらを見上げていた。
「ごめんね、ほんと……」
「もう、咲等さん。あんまり言うと怒りますよ?」
美月は腰に手を当てて「まったくもう」と怒るポーズを取った。
最近気付いたことだけど、美月は私の機嫌をとるのが上手い。
私が少し落ち込むと、励ましつつも怒ってくれる。
「それにしても、咲等さんは本当に強くなってますね」
話を切り替えると、私の腕をぷにぷにと突いた。
「最近は元生徒会長さんも特訓に付き合ってくれるんだ」
「咲等さん……」
あ、しまった。
「訓練内容は全部話してくださいってこないだ約束したでしょう?」
そうだった。
これだけは内緒にしていたのに。
2年生になってからも相変わらず私は訓練を続けていた。
強くなりたい理由はまだ美月には話していないけど、訓練内容は大体美月に伝えてしまった。
美月曰く。
「仲間ハズレは嫌です!」
とのこと。
美月を仲間ハズレにした覚えはないけど、でも確かに私だって同じ立場ならそんな隠し事は嫌だ。
そう思ってなるべく話せることは話そうと思っていたんだけど……。
「ごめんね、元生徒会長さんがあまり他の人には話してほしくないって」
「確かにみんなの憧れの先輩が一人の後輩に入れこむのはまずい気がしますが……それでも私には話してほしかったです」
「ご、ごめん」
申し訳なくて、やっぱり落ち込む。
思えばこの学校に来てから落ち込むことがいっぱいだ。
あぁ、私にもっと力があれば……。
「で、でもちょこっと強くなったよ!」
「……咲等さん」
あ、また少し寂しい顔。
まただ。
美月は、私が強くなっていくたびに寂しそうな顔をする。
……強くなれば、美月との距離ももっと縮まるかと思っていたけど、逆に広がっている気がする。
いろんな話をしたけれどそれでも埋まらない。
「咲等さんは、どうして強くなりたいんですか?」
「え?」
「……なんでもありません。さ、晩御飯までに帰りましょう」
美月はニコッと笑うと、私の手を引いて走りだした。
私も聞き返すことができなくて、ただ後ろを走る。
どうしてって、美月は私が強くなると、嫌、なんだろうか。
「さてさて、どんな子がいるのかな〜っと♪」
「去年もそんな風にうろちょろしてたの?」
「そうそう、そんで運良く咲等とニャヒルに当たったわけだ」
春。
去年はこの桜の下で歓迎される側だった。
それが今年は歓迎する側に。
「美月は大丈夫かなぁ」
「生徒会様はご多忙だよねぇ」
二年生になり、美月は生徒会に入った。
部活動でも良かったみたいだけれど、2年生から部活動に入るのは抵抗があったみたい。
「えーっと例のミッションは美月が担当なの?」
「ううん」
去年のミッションは風紀委員長と体育委員長のコンビだったけれど今年は一人みたい。
私の知らない女の子で、名前は……なんだったかなぁ。
「井出瑠卯子ちゃん、じゃなかった?」
「よく知ってるね」
「よく働くって愛梨が褒めてた」
へぇ。
元副会長さんが褒めるなんてすごいなぁ。
私たちが二年生になってということは真由たちは三年生になったということだ。
受験はないけれど、それでも「時代は移り変わるものよね」と生徒会長さんと副会長さんは舞台を降りた。
そして新しい舞台に今美月が立っている。
「正直、咲等は入んなくて良かったの?」
「私はそれどころじゃないから」
訓練訓練、日々自主訓練。
「それに、少しでも時間が空けば美月とお話とかしたいし」
「はぁ、相変わらずラブラブなこって」
「真由もそうじゃないの?」
「……一緒にしないでくれる?」
少し真っ赤になった真由は可愛い。
最近の真由は元会長さんと元副会長さんの話をするとこうやって薄ら笑いを消してくれる。
その顔は年相応に幼い。
トン
背中に軽い衝撃があって、後ろを振り返る。
「す、すいません!」
後ろに居たのは小学生のように小さい女の子だった。
私自身が大きいから本当に小さくみえる。
「ううん、私こそぼーっとしててごめんね」
いうが早いか否か、少女は走っていった。
「ミッションかなぁ」
「っぽいね」
真由はニヤリと笑った。
う……悪い顔。
真由がこういう顔してるときって大概嫌な予感しかしないんだよね。
今日はストッパーのニャヒルもいないし。
新聞部は朝から大忙しだ。
あぁ、ニャヒルと乙音ちゃんが恋しい。
「おいかけよーっと♪」
「待ってよ」
本当に趣味悪いんだからもう。
と、いいつつ私も少し気になってたりして。
本当にちっちゃかったなぁ。
ちっちゃいのに長い黒い髪でお人形さんのようだった。
「咲等、ちっちゃいもの好きな」
「え!?」
「ロリコン」
「ち、違うよ!」
確かに美月もちっちゃいけど、ロリコンじゃないよ!?
しかも同じ年だからね!?
「いたいた、アレかな」
どうやらパートナーはいないみたい。
でも、あれ?
水晶の使い方がわからないのかな。
ライフウェポンを取り出す気配がない。
「んー、切り札か。もしくは単純に使えないのか」
「“使えない”?」
「個人差による問題かな」
真由はひゅるりと自分の水晶をまわしてみせた。
「魔力量が自分のスタイルに合ってないとライフウェポンは形成されないんだ」
「……んーっと」
「咲等は今年もDクラスだっけ?」
「うん」
ミッションはそこそこ成功してはいるものの成績は上がらなかった。
と、いうのも私の頭が悪いから、です。
「じゃあJクラスの人とあまりかかわらなかったでしょ」
そういえば。
Eクラスとかだと合同授業があったりして仲が良いとはいわないまでもそれなりに話す。
でも他のクラスって正直あまり会わない。
それどころか会えばミッションで敵だったりするので増えていくのは敵ばかりだ。
「Jクラスは大体がそういう人たちだよ」
「そういうって……」
「例えば、花火みたいな性格のヤツがいるとする」
はっぴ着てお祭りみたいな……うーん、乙音ちゃん?
どうしても元気というと乙音ちゃんを想像してしまう。
「じゃあそいつのライフウェポンが大砲です、とする」
うんうん。
似合うね。
「大砲を撃つには大量の魔力がいるとして、でもそいつの魔力量が足りなかったら……」
「あ、撃てないね」
「そ。そんな感じでライフウェポン自体が作り出せない」
なるほど。
でもそんな人って結構いそうな気が……。
「魔力っていうのは生命力の余りみたいなもんだから大抵の人は多いよ」
「え、それなんか怖い」
「そう?」
「使いすぎたら早死にしない?」
「ぶはっ」
あ、ひどい。
思いっきり吹いて笑った。
「な、ないんじゃないかな!あははは」
「どうして?」
「そうだね。細胞みたいなもの、と発表されているみたいだけど実際どうなんだろうね」
「無くなっても作られるってこと?」
「いやー、それもちょっと違うかな」
つまり、真由が言うには。
定期的に体内で必ず生命力が作られている。
定期的なので、使っていない生命力があれば溢れていく。
その溢れていた部分だけを使っている、のだとか。
んー、難しいなぁ。
「細胞は細胞でもガン細胞、かな」
「難しい……」
「うーん、Dクラスめ」
うぐぅ……だって文字読むのあまり好きじゃない……。
しょうがないじゃない。
本とか読むと眠くなるんだもん。
授業も聞いてたら眠いんだもん。
「お、格闘技はできる感じ」
「おー!」
小さな子はぐっと足を開くと構えの姿勢をとった。
とても独特な形だ。
動きが最小限の元副会長さんとは違う。
「愛梨は合気道だけど、あの子は中国武術か」
小さな体なのに動きは大きく、消耗が激しそうだ。
「でも、重いなぁ」
真由の呟きに相手の、えーっと、井出さんを見る。
なるほど、確かに辛そうだ。
一撃が重いみたいで相手の子の体がよく揺れる。
接近戦同士だからラッキーってとこかな。
「お、助っ人登場!」
「生徒会側だけどね」
押される井出さんのためにもう一人登場!
「あれは1年生だね」
「助っ人なのに先輩じゃないんだ」
「うーん、期待のホープとか」
「真由ってば適当」
今度は小さい子が圧され始めた。
うーん、がんばれがんばれ!
「……咲等さんはやっぱり、ロリコンなんでしょうか」
だから違うって……あれ。
「美月!?」
「こんにちは。真由さんとデートだなんて後で刺されても知りませんよ?」
「やめてシャレにならない!」
あれ、真由。
なんでそんなにおびえてるの?
「懐かしいですね。去年は私たちがあそこで初めて交わったんですよね」
「こらこらこら怪しい言い方をするな」
「事実だよ?」
「うん、純粋なのはわかったから咲等は突っ込むことを覚えようか」
?
どういう意味だろう。
美月を見てもニコニコと笑いかけられるだけで何も説明はしてくれなかった。
……契約したってことじゃないの?
「まぁそれはそれとして、今年も生徒会の勝ちですね」
「あっ」
いわれて目線を戻すと、確かにほとんど全滅しかけていた。
あの子も地面に転がっている。
「ごめん、二人とも。私、あの子を介抱してくるね」
「え?放っておいても生徒会が……」
「なんだかちょっと話してみたいんだ!」
困惑する美月の横で、懐かしいような目で笑う真由が見えた。
まるで自分を見るみたいに私を見ていた。
今日、私は先輩になりました。