--aya--
「私、思うんだ」
「はぁ」
「私ってキャラ、立ってないよね」
いきなり何を言い出すんだろう、この子は。
いやいや、立ってますよ。
私より十分に、と言っても聞きもしない。
「だからさ、思うんだよ」
だから、何を?
「私が!伝説を作るの!」
乙音ちゃんがダッシュで走り去ってから、数時間後。
慌てたようにB組のドアを開けたのはそのパートナー。
「あーや!乙音見なかった!?」
「ニャヒル、おひさ〜」
「朝ごはんぶりだろ!ぜんぜん久しぶりじゃねーし!」
相変わらず律儀な突っ込みだこと。
汗だくで走りこんでくるあたり、最近のニャヒルのパートナーバカっぷりは半端ない。
「誰がパートナーバカだ!」
「人の回想にまで突っ込みいれないでよ」
どの子もデリカシーがないんだから。
ま、でもニャヒルは咲等やスギよりはマシかぁ。
「乙音のやつ、こないだ新聞部の引継ぎで呼ばれなかったことが気に入らなかったらしくてさ」
あぁ、確かに。
すごくむくれていたねぇ。
咲等と美月と3人で一生懸命あやしてたっていうのにスギとニャヒルってば横槍ばっかいれてくるし……。
大変だったなぁ。
「でもそれで伝説かぁ……なるほどね」
「はぁ?伝説?」
さきほど乙音ちゃんが現れた経緯をニャヒルに掻い摘んで話す。
乙音ちゃんが私に会いにきたのは、学校の七不思議についてだった。
「七不思議ぃ?」
「そ。学校の情報については乙音ちゃんのほうが詳しいのかと思ってたけど、こういう人の噂話には私のほうが詳しいみたい」
まぁ一重にこれも私の日ごろの愛想のおかげってね。
っていうかほんとみんな愛想無さすぎだよね!
他の子たちがクラスメイトと喋ってるの見たことないんですけど!
「ところで咲等は?」
乙音ちゃんが一番に頼りそうなのって私より咲等だと思うんだけど……。
こういうとき大概、咲等はニャヒルの横で困ったみたいに笑ってるイメージがあったんだけどな。
「あぁ、咲等なら今日はいないよ」
「え、何?体調不良?」
「いや、親しい人に不幸があったとかで……」
葬式かぁ。
なんか会ったばかりの頃のスギを思い出しちゃうな。
全然笑ってくれなくて一生懸命笑わそうとしてたっけ。
「とにかく!乙音が何かしでかす前に止めようって言ってんだよ!」
「あー……基本的に何かしでかすイメージしかないもんね……」
こないだの乙音ちゃん救出ミッションは本当につらかった。
できればあんな事件はもう二度と勘弁なのだけれど。
「で、乙音に教えた七不思議って?」
「なにー?ニャヒルも知らないわけ?」
「うぐ……」
「しょうがないなー」
それ自体はどこにでもあるようなお話ばっかりだ。
喋るベートベンに踊る人体模型、増える階段やトイレのリリーさん。
それからある場所で必ず鳴る携帯に廊下に響く悲鳴、図書室の迷宮と理科室の椅子が一つだけ電気で……。
「おいおいおい待て、今ので8個目だよ!」
「数えてたの?律儀だね」
ガックリと肩を落とすニャヒル。
でもしょうがないじゃない。
全部、私が聞いた噂だもん。
「で、全部調べに行ったの?」
「そ、全部調べに行ったの」
お礼にと乙音ちゃんから渡されたチョコプレッツェルを咥えた。
ちょっと安上がりだったかな。
まぁ可愛い乙音ちゃんのお礼だし、許そう。
「しょうがないなぁ、あいつ」
「まぁでもそこが可愛い、とニャヒルは思っているわけだ」
「思ってない!」
まぁまぁ。
真っ赤になっちゃって、妬けますこと。
「それで、探しに行くの?」
ニャヒルは私のお菓子を口から直接掠め取ると、ニヤリと笑った。
「パートナーだしな!」
「ちょっとあたしのお菓子……!」
声をかけるも虚しくニャヒルは走り去ってしまった。
あーあ。
噂はまだまだあるのに。
ま、乙音ちゃんのほうがすぐめげるだろうし、いっか。
チョコが無くなってぼんやりとそろそろ帰ろうかなと鞄を持つと、後ろからぼんやりと人が現れて溜息を吐く。
「……あなたは隠密ですか」
「うわっ、声かける前に気付くなよ!ビックリするじゃん!」
ビックリするのはこっちですが!
と、言いたいのを抑えて振り向く。
「真由さん、咲等とニャヒルが見当たらないからここに来たんですか」
「あったりー♪」
真由さんは一足飛びに後ろを離れると、身軽に椅子の背もたれの上に立ってみせた。
スギ曰く、速いのはスギの方らしいんだけど強さは到底敵わないとか。
この人の強さはこの身軽さにあるのかしら?と思うんだけどそもそも私パワータイプだし勝てる気が一切しない。
「仲直りしたなら生徒会にでも行ったらどうです?」
「そう簡単にはいかんのよ。大体、私が入り浸っていた頃とは面子も違うし」
気まずいでしょ?なんて、今私のほうが気まずいんですけど!
とりあえず椅子から降りてください。格好良すぎます。
なにその安定されたバランス感覚。
「慣れた美月のところに行ったほうが楽しいんじゃないんですか?」
「美月ってば咲等がいないとただの優等生だし」
「あー…。まぁそれはスギにもいえることですね」
別に咲等がまとめているわけじゃない。
でも咲等がいないとなんとなくみんな集まらないんだよね。
不思議なことに、影が薄いくせにいないと困ったりする。
こういうのってなんていうんだろ。
「きっかけってすごい普通だったのになぁ」
「美月とは運命的だったみたいだけどね」
桜の精霊さんって、結構寒いこと言うよね、あの二人。
スギが言ったら笑う自信があるわ。
むしろ正気に戻れと殴る。
「あー、はやく咲等帰ってこないかな」
「私に言われましても」
はぁ、はやく咲等帰ってこないかな。
とりあえずこのうっとうしい先輩を引き受ける咲等は優しいな、と今更思った。