Lily memo %



IM3


真由たちが仲直りをしている頃。

「んむ……」

眩しい光に思わず目を細める。
そういえば昨日は疲れていたから目覚ましをかけなかったんだっけ。
太陽の光が差し込むぐらいまで寝ていたのは久しぶりだ。

「ふぁ……」

軽いあくびの後、身動きをとろうとして止まる。
お腹の辺りに暖かく上下する何かを感じて、息まで止まる。



そういえば、昨日は美月が泊まっていったんだっけ。



離れて寝ていたはずなのに……。
布団をちらりとめくると私の胸元に甘えるように眠る美月が見えた。
うぅ、かわいい。

「……ぁ……」


あと、なんか色っぽい。


「おはようございます、咲等さん」
「おはよう、美月」

ドキドキする心をむりやり抑え付けて笑いかける。

「……」
「ん?」

一瞬ボケっとした後、クスリと笑われる。



「咲等さん、すごい音ですよ」



し、しまった。
美月の顔は今私の胸元にあるんだった。
どれだけ繕ったってバレバレだ。

「えぇっと、こ、これは……」
「ふふふ」

あぁぁ、やめてやめて。
私の少ない胸に顔埋めても楽しくないと思うから!
音が聞こえるだけで私が恥ずかしいだけだから!

IM3 君と私といっぱいと。




「おはよう、咲等ちゃん、美月ちゃ……れ?」
「おはようございます、乙音さん」
「お、おはよう、乙音ちゃん」

食堂で朝ごはんを食べようと列に並んでいると、後ろから乙音ちゃんが来た。
乙音ちゃんは私たちを見て少し不思議そうな顔をした。

「……なんか……な、なんでもない」
「ん?」
「あ、すいません。私はスギさんに少し用があるので先に座って食べていてください」

美月のトレーを預かると、お礼を言ってすぐにスギのほうへ行ってしまった。
スギのいる場所は若干遠く、何を話しているかはわからない。

「なんか、美月ちゃんすごい嬉しそうだね」
「そうかも……」

美月がスギに何か耳打ちをすると、二人で楽しそうにクスクスと笑い出した。



「美月ってスギのことが大好きだったんだね」
「咲等ちゃん、まじで?」



え、なにが?

「ねぇ、咲等ちゃん、それまじで?」
「なんで二回聞いたの……?」

乙音ちゃん、目が怖いよ……。

「あーや奥さんったらお聞きになりました?」
「お聞きになりましてよ、乙音奥さん」

どっから沸いて出たの、あーや。

「咲等、それはないわ」
「肩を叩いてわざわざそれを言いにきたの?」
「うん!」
「あーや……」

いや、そんな自信満々に言われても……。
あーやはいたずらっぽく笑うとお姉さんっぽく指を振った。



「思うに、咲等にはデリカシーが足りない!」
「じゃあ、私たちがそのデリカシーを鍛えてあげよー!」



えぇぇぇぇ?
デリカシーって鍛えるものなの?

「咲等、美月を喜ばせたい?」
「それは、もちろん」

美月が喜んでくれたら、私も嬉しいよ。
その笑顔が自分のほうを向いていたら、きっともっと嬉しい。

「それじゃあ、美月と咲等のラブラブ作戦、開始!」
「おー!」

え、なにその作戦名。

「それじゃあ、咲等ちゃん。まず第一の作戦だよ!」

早いよね、展開が。
絶対に今の思いつきじゃなくて前から用意してたでしょ、二人とも。
いつから考えてたんだろう……。
私ってそんなにデリカシーが無かったのかな……。

「朝ごはんをアーンで食べる!」
「え!?どうやって!?」
「理由なんていらないんだよ!フィーリングだよ、咲等ちゃん!考えちゃダメ、感じることが大事」

それ何か受け売りだよね、しかもこういう場面で使うものじゃないよね!?
乙音ちゃんもあーやも絶対楽しんでる……。

「すいません、お待たせしました」

しかも美月戻ってくるの早いし!

「先に食べていてくれても良かったのに……待たせてしまってすいません」
「き、気にしないで。待っていたわけじゃないから……」
「え?」

そう、待っていたわけじゃなくてただお話して盛り上がっていただけです。
慌ててご飯を食べ始めると、美月は少し笑って自分もパンに口をつけた。

……って!

パンじゃアーンもなにもないじゃん!
朝ごはんの定食って限られてるから私も美月も同じメニューだし!

(咲等ちゃん!)

いや、乙音ちゃん。
ここぞとばかりにテレパシーフル活用しないで。頭痛い、痛いから。
頭痛いって前にもちゃんと言ったよね!それ!
しかもGOサインだされても無理だから!

「咲等さん、どうしました?手が止まってますよ」
「あぅ」

違うんです。
とまってるんじゃなくて迷ってるんです。
あぁ、でも早く食べないと時間がもったいないし……。




「……食べさせてあげましょうか?」




どうして美月はこう、私の心をパキっと折るのがうまいんだろう。

「じ、自分で食べれるから……」
「そうですか?」

あーや、笑いこらえすぎて肩震えてる。
乙音ちゃんは乙音ちゃんでかわいそうな目で見ないでくれないかな!
えぇそうですよ!私は今すっごく格好悪いですよ!
私は若干肩を落とすと、パンをほおばった。





















「それじゃ、美月ちゃんと咲等ちゃんのラブラブ作戦作戦第二だーん!」
「まだやるの!?」

お昼休み。
授業も終わってまったり……しようかなと思っていたところにこれだよ!

「ニャヒルもいないし!」
「ニャヒルは部長に呼ばれて新聞部〜」
「乙音ちゃんは行かなくていいの?」
「なんかニャヒルだけだって」

なんか大切な話だってーとむくれてみせる乙音ちゃん。
よしよし。
頭を撫でてあげるとてへへと笑う。
可愛いな。

「それ、それだよ咲等!」
「ど、どれ!?」

あーやが悔しそうに唸る。



「なんでそれが美月にできないの!?」



だからどれ!?

「乙音ちゃんは自然に撫でられるくせに、なんで美月は撫でないの!?」
「み、美月を!?」

恐れ多いよ!
確かに美月はちっちゃくて可愛いけど、撫でるなんてできないよ!

「あのねー、女の子はいつでも甘やかされたい生き物なの!わかる!?」
「あーや!私も女の子だから!」

テンションあがってるのはわかるけど、いろいろと落ち着いて……!

「甘やかすっていっても、子ども扱いみたいになると悪いし……」

そもそも美月のほうが私を甘やかしてくれるからなんというか、やりづらい。

「ダメダメ。そういう発想は典型的なダメ人間よ!」
「だ、ダメ人間……」

美月も……そんな風に思ってるのかなぁ……。

「撫でる、かぁ」
「自然にね。たらすように、よ」

たらすように、ってなに?




「何の話をしているんですか?」




ぎゃー!
危うく悲鳴をあげそうになったけど、なんとか回避。
くるりと振り向くと、いつのまにきていたのか美月がちょこんと立っていた。

「あ……」
「今日もお弁当を作ってきたので、一緒にどうでしょう?」
「ありがとう」

お礼と一緒に意を決して手をのばしてみる。
頭に触れる直前で戸惑う。
……気持ち悪いって思われないかな。
いやそれはともかく驚いてお弁当落としたりしないよね?
躊躇して手を下ろした瞬間にあーやにすごい目でにらまれた。

「お、屋上で食べよう!美月!」

手を引っ張って離脱を図る。
はぁ……息苦しいったらないよ。














美月のお弁当はいつもどおり美味しく、とても今日の朝は私と一緒にゆっくりしていたとは思えなかった。

「今日は炒め物が中心だね」
「お嫌いですか?」
「ううん、好きだけど……」

手間、だよねぇ。
朝、時間無かったはず、だよねぇ。
冷凍じゃない、もんねぇ。

「美月、しんどくない?」
「急にどうしたんですか?」

美月はたまにこうしてお弁当を作ってきてくれる。
前に毎日作るという申し出もあったけど、それはさすがに申し訳なさすぎてお断りした。
その代わり私も作るときもある。
ただ、美月のように凝った弁当ではないからそれすらも申し訳ないのだけど……。

「お弁当のことなら、私が好きでしていることですから」
「あまり無理はしないでね?」
「はい。それに、その、……今日は特別に作りたかったんです」

少しだけ顔を赤らめると、お弁当を突いた。
どうしたんだろう。
今日は何か良いことでもあったのかな?




「昨日の夜は、初めて咲等さんの部屋にお泊りをしたので」




パートナーらしくて、すごく嬉しかった、と。

「……あぁ」

じんわりと心が温かくなって、それからすごく反省した。
美月との溝を埋めたいと言って深くしていたのは私だ。
だって、美月はこんなにも正直に私に伝えていてくれた。

一緒に。

何度もそう言っていたことに気づかなかったなんて。

「咲等さん?」

変な声を漏らした私に美月が詰め寄ってくれる。
なんとなく、だけど。
あの二人が言っていた“あのねー、女の子はいつでも甘やかされたい生き物なの!わかる!?”という言葉がわかった気がする。
甘えるってきっといろんな方法があるんだ。
たとえば、一緒に居てほしい、とか。
そんな甘え方、とか。

「美月」

恐る恐る手を伸ばしてその小さな頭を撫でると、美月は少しきょとんとした。
良かった、嫌ではないみたい。
それどころかもっと撫でてほしいと頭の位置を撫でやすいようにちょっと下げた。
可愛いなぁ、と思うのはパートナーの贔屓目だけではないと思うなぁ。



美月がへにゃりと笑った瞬間に、自分のしていることに気づいて慌てて離れた。



「と、ごめんっ!」

意識的に撫でている自分に今更驚いて心臓がバクバクと音を立てる。

「……嬉しかったですよ?」
「その、ごめんね。不器用で」
「いいえ、そういうところも好きですから」

……あれ?

「ゆっくりでいいので、もっと甘やかしてくださいね」

“甘やかす”という言葉になんだか嫌な予感。
これは、もしや、もしかすると。

「……美月、あーやと乙音ちゃんにちょこちょこ相談してた?」
「スギさんにも、ですね」

やられました、と笑うと美月も楽しそうに笑ってくれた。
ま、いっか。

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